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日刊工業新聞記者が語る「日本経済への遺言」

「日本経済への遺言・記者が見続けた半世紀」大蔦勝威著・2022年10月コスモ21発行

著者は1938年生まれ、日刊工業新聞社の記者を経て、編集担当常務取締役歴任、大学教授、80歳を機にすべての役職を退く。

第一部で、1965年山一證券倒産危機の日銀特融と田中角栄大蔵大臣から、1969年日米繊維交渉の旭化成・宮崎輝のロビイスト米国派遣、1971年スミソミアン合意から変動相場制への移行、1973年オイルショック、1981年土光敏夫第二臨調の三公社民営化、1991年バブル崩壊、1997年~98年の金融危機、2002年ITバブル崩壊から続く米国リーマンショックまで戦後経済の歴史を概観する。

第二部では、失われた30年のGDPの低迷、財政赤字と巨額な政府借金の拡大からプライマリーバランスの黒字化は100年無理と断定する。日本の財政は実質的にすでに破たんしている。

2013年からの黒田日銀の異次元緩和は財政ファイナンスを正当化した。黒田日銀の金融政策の実験は、既得権益の争いが無く、やり易い実験だった。それ故にかつてない愚策の金融政策を実行した。

日銀の出口戦略は、日本経済のデフレ体質から脱皮を一層困難させ、問題山積みの状態である。即ち、日本経済の需給ギャップは2022年現在で21兆円。この需要不足の解決は目先の補助金政策で解決できるものではない。

岸田政権は長期的な日本経済成長戦略の提起ができず、「投資拡大」「新しい資本主義」の言葉遊びを繰り返す。

アベノミクスの実験は手っ取り早い金融政策依存で、日本経済の進歩を10年遅らせた。それ以上に産業界の経営能力低下と労組の弱体化は自らの賃上げすらできない状態に追い込んだ。

日本経済の低迷は生産性の低さに原因があるのか?決してそうだとは言い切れない。米国の生産性と比較すれば、かなり低い。しかし欧州先進国と比すれば、普通の先進国並みである。

問題は成長政策の選択の問題であろう。人口減と高齢化社会を前提にすれば、国民一人当たりの所得増加を優先すべきである。大国主義を捨て、長期的持続可能な社会を追求すべき。防衛費10兆円倍増計画など、愚の骨頂の政策と言わざるを得ない。

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