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中東危機はなぜ起きる?「戦争・革命・テロの連鎖・中東危機を読む」

「戦争・革命・テロの連鎖・中東危機を読む」川上泰徳著・彩流社2022年3月発行

著者は1956年生まれ、朝日新聞中東アフリカ総局長、編集兼論説委員経て、2015年退社。名古屋外語大学講師。中東関連で多くの著書がある。

ガザ問題が連日新聞に掲載され、毎日多くの市民が殺されている。中東問題は遠く離れた国の話ではない。ユダヤ人の「シオニズム」は日本人の「神の国思想」と無関係ではない。

日本人は中東問題を産油、資源など、経済問題として捉えがちである。しかし現実の中東問題は、世界史、民族、宗教、政治、人権、戦争と平和など、極めて人間の本質にかかわる問題である。

本書は、1990年8月イラク軍のクウェート侵攻による湾岸危機から現在までの中東、アフリカにおける革命、テロ、戦争の現場を見た特派員の著者の現状報告である。

2001年9.11米国同時多発テロ事件、2003年のイラク戦争、2011年のアラブの春、2014年のシリア内戦、2017年のイスラム国樹立と10年ごとに大きな混乱が発生している。

イスラム国ISはイラク・シリアから淘汰されたが、多くの中東諸国は、内戦が繰り返され、強権主義的政権によって、若者たちの不満、怒りを無理やり制圧している。若者の高い失業率、格差の拡大が続き、現状がそのまま継続するとは考えられない。

イスラエル寄りのトランプ政権外交によって、中東和平の混迷は深刻化している。更に米国の中東影響力弱体化とイスラエルの軍事力強化で、アラブ諸国はイスラエルとの国交正常化を促進している。

その理由は、中東和平を無視した米国への経済依存とイスラエル諜報機関・モサドの影響が強く関係している。モサドは軍事力を持つ先端的な治安組織である。彼らのITサイバー技術を活用した市民の監視システム、諜報能力は世界トップクラスである。

2018年トルコのサウジ大使館でのジャーナリスト・カジョギ氏殺害事件はサウジのムハンマド皇太子の命令と言われる。この時、使用されたのは、イスラエル製ソフトのスパイウェアである。このソフトは知らないうちに携帯に挿入され、位置情報を管理できる。サウジアラビアにイスラエルがソフト提供したものである。

今回のハマスのイスラエル攻撃は、サウジアラビアとイスラエルの国交正常化を阻止する目的がある。現在、同国間の和平交渉は中断、その目的は達成されたと言える。

現在の中東イスラム諸国には、イラン・イラク・ビズボラの「シーア派ベルト」と言われる反イスラエルグループがある。このほかに二つのグループに分かれて、対立している。トルコ・カタール枢軸とサウジ・UAE枢軸である。

前者はイスラエルと国交正常化を目指し、イスラム同胞団を弾圧、王政、伝統的イスラム社会とアラブの春・民主化を拒絶する。後者は現代的イスラム社会を目指し、経済成長に特化する。

しかしコロナ危機以降、経済成長も期待できず、両者とも市民の不満、怒りの爆発を抑えるため、強権的政策を取りつつある。それは「アラブの春」の若者の爆発を阻止し、政権持続の欲求が生み出す結果である。

翻って、現在のパレスチナ・ガザの現実を見ると、イスラエルの圧倒的な軍事的、政治的優勢とかつての「アラブの大義」も消滅し、米国の中東影響力も喪失した。国連は機能不全、ガザ市民にあるのは絶望、貧困、窮乏と死だけ。その絶望から生まれた抵抗であるハマスの行動を、単に暴力反対の一言だけで、誰が、どうして、非難できるのだろうか?


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