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「本当に役立つ経済学全史」

「本当に役立つ経済学全史」柿埜真吾著・ビジネス社2023年11月発行

著者は1987年生まれ、高崎経済大学講師。経済学者、専門は思想史。「ミルトン・フリードマンの日本経済論」PHP新書などの著書がある。

本書は、インターネット視聴の教養動画メディア「テンミニッツTV」講義録の単行本化である。重商主義、重農主義、アダム・スミスから現代のポストケインジアンまで幅広い経済学史。口語調ため非常にわかりやすい。

著者自身は岩田規久男氏と共著の本を出版、若田部昌澄氏を高く評価する。その意味でリフレ派、新古典主流派に属するだろう。

著者は、経済学はイデオロギー的善悪、正統派、異端派と区別、毛嫌いすべきではないという。その経済理論が現実を説明できるか?納得できるか?である。価値観、イデオロギー観の色眼鏡で見るべきではない。

経済学はアダム・スミスの時代から賢人政治、賢人思想の考え方が強い。スミスも単純な自由放任主義でなく、道徳感情論で「共感」「公平なる観察者」の社会秩序を重視する経済学者である。

大恐慌後のケインズ革命は、不況、失業の克服に政府介入を重視する。それは善良たる賢人政治、公平なる官僚の存在を必要とする。1970年代ケインズ政策はインフレを抑制できず、スタグフレーションに陥り、フリードマンらマネタリズムに取って代られた。

本書はケインズ経済学から、シカゴ学派フリードマンのマネタリズムへの移行過程、ケインズ経済学の変遷、分派の流れ、経済思想の変化をわかりやすく解説する。好き嫌い、善悪の問題ではなく、純粋理論の解説がユニークである。

人類の歴史は変革、進歩の歴史。近代に生まれた自由、平等、合理主義の問題は社会主義を生み、独裁主義を生み出した。ヒトラーはケインズ主義者という屁理屈も生まれた。

人は社会が混乱すると、賢人、英雄を求める。政治の世界では特に多い。そこにポピュリズムが生まれ、独裁政治も生じる。「変化、過程」の視点でなく、「常態、状況」の視点が大切だろう。

市場は失敗する。政府政策も人が行う限り、失敗する。経済上の困難に対しては、「すべての金融政策、財政政策を行使して、最も合理的に乗り越えるべき」に全面的に賛成である。

変革、革新は勇ましく、明るい未来を希望させる。未来は与えられるものでなく、育てること。そのため、冷静、客観的に現実を分析することが重要である。

経済学も好き嫌い、善悪の価値観でなく、理論的に納得できるか、合理性、納得性の有無で判断されるべきだろう。経済学を学ぶ人にとって読む価値がある本である。


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