「歴史を知る読書」山内昌之
「歴史を知る読書」山内昌之著・PHP新書2023年4月発行
著者は1947年生まれ、東京大学名誉教授、専攻は国際関係史、中東、イスラーム地域研究「中東国際関係史研究」などの著書がある。北海道大学在学中は社学同活動家として学生運動に参加、明治大学を拠点に活動した。
歴史は講談師が話すように陽気な話ではない。歴史の真実は陰気であると著者は言う。歴史学者は講談師のように顧客相手に嘘は言えないからだろう。
陰気な歴史だが、現代を読み解くためには歴史を俯瞰する必要がある。君主論で有名なニッコロ・マキャヴェッリは政略論の中で言う。
「世の識者は将来を知ろうと思えば、過去に目を向けよ」と。「人は行動を起こすとき、常に同じような欲望に動かされる。従って過去によく似た事例を求めることができる」と。歴史は繰り返すである。
歴史を俯瞰する名著、近年歴史学の成果を示す本、現代を読み解く本など多くの書籍を紹介する。但し、著者の専門分野である中東、イスラーム関係の書籍が多いのが気になる。
歴史を視るとき、多様な視点を忘れれてはならない。人が歴史を解説するとき、その著者の考え方を信じがちである。常に疑問を持って学ぶべきだろう。
今年「司馬遼太郎生誕100年」とかで、司馬遼太郎の記事が多い。司馬は「明るい明治」を描いた作家。司馬史観と呼ばれ、一つの時代を築いた。当時の経済成長期の時代背景もあった。
歴史は講談ではない。面白いものでもない。事実をその時代背景と同時に相対立する相手側の立場の両面から視ることも必要である。一つの事例として著者は町田明広著「攘夷の幕末史」を挙げる。
幕末は大攘夷(外国と戦うに国力、武力を持つことが大切と考える)と小攘夷(自己の力量を考えず、実力行使を優先する考え方)の二つの対立である。前者が井伊直弼ら開国派、後者が長州の吉田松陰ら幕末志士らである。
旧幕府側が封建的で、新政府側が革新的でもない。権力を握ってから初めて歴史の真実に気付いたに過ぎない。今でいう「同調圧力」に似ている。故に二者択一で考えるリスクに気付くべきである。
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