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ゾンビパキラ

名前はパキラだったか。何年前にわが家へ来たのか分からない。5年ぐらい前かもしれない。いや、もっと前かもしれない。パートナーのオッサンが買ってきたのか、もらってきたのか分からないが、所有権はオッサンにある。

ずっと小さな鉢に植えられたままだったから、いつも小さな葉っぱが1つ2つ付いているだけだった。オッサンは完全にネグレクトしていて、肥料をあげたことは無かったと思う。時々僕が気まぐれに水をやるぐらいで生き延びてきた。栄養分を吸い尽くされた土はスカスカだった。すべての葉を落として逆さニンジンみたいなゾンビ状態の時もあった。

それがちょっと前から、なぜかこいつの苦悩を妙に感じて、なんとかしてあげるべきでは?という気がしきりにしていた。で、オッサンに「こいつ、頑張って生きてるよね。5年ぐらい?同じ土で。窮屈そうだし、植え替えてあげない?」と言ってみた。オッサンは、サッと大きな鉢と園芸用の土を買ってきてゾンビパキラを植え替えてくれた。日当りのいい場所にも置いてくれた。

オッサンは雑なので、植え替えられたパキラは斜めに傾いていた。傾いたパキラはなんだか不満そうで、僕を疑ってるように見えた。仕方がない。長年ネグレクトされてきたのだ。いまさら優しくしたところで、すぐに信じてもらえるわけがない。土が乾いたら水をやり、風と光に十分に当てよう。

写真は植え替えて2週間ぐらい経った今日のパキラだ。新芽が勢いよく伸びてきた。蘇った感じがする。何年もの間ゾンビ状態だったのに、みずみずしい生命力を感じる。きっと、根っこもフカフカの土に勢いよく伸びていることだろう。

砂漠に降った雨が、すべての命を一気に目覚めさせるように。何年も使われていなかった力が、正しく発揮される。柔らかな力が勢いよく開く。

植物は歩いて好きな場所へ行けないし、不満を口にすることもできない。自分から火の中に飛び込むこともできない。小さな葉しか付けられなくても、与えられた場所で淡々と生きられるだけ生きるしかない。

これが投影だと分かっている。パキラの中に自分を見ている。

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