恋人とたばこ
置いておいたはずのたばこが無い
あのとき確かに置いておいたはずだ
電子レンジの上のすみに
ひとりの部屋で無性に吸いたくなって
買いに行くにはあまりに外は寒くて
家中探してみることにした
電子レンジの裏、玄関のくつの中
収納の中、普段使わないかばんの底...
いつも僕が着る服のポケットを探していた時
恋人の上着の内ポケットが四角く盛り上がっていた
上から触ってみると確かにたばこの箱だった
恋人はひとりでたばこを吸わない
吸うのは決まって僕と一緒のときだ
恋人がたばこを内ポケットに入れたのは
コンビニに行く途中、僕が吸いたくなったときに渡して一緒に吸うためだろう
何度も繰り返したことのあるやりとりが頭の中で思い出される
僕はたばこのかたちが浮き出た上着がたまらなく愛しくなって
なんだかとても温かい気持ちになった
上着の内ポケットからたばこを取り出し火をつける
今日吐き出す煙は恋人への愛しい気持ち
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