ディスカッションを豊かにするためのガイドライン

ディスカッションを豊かにするためのガイドライン

Kodai Konishi

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 本ガイドラインは、これまで大学のゼミを運営していくなかで試行錯誤してきた豊かなディスカッションのための創意工夫(基本的ルール作成)をプロトタイプとしてまとめた上で、ウェブでのさまざまな業種の方々のご助言やコメントを募り、それらを統合して作り上げられたものです。学術界・ビジネス界・教育界などで奔走されている方々へのヒントになれば幸いです。
 ポイントは8つにまとめられており、最後にディスカッションを行う環境に関するメモが添えられています。

※ちなみに本ガイドラインは閲覧、配布・拡散自由です。

【ガイドライン本編】

①発言に物おじしない(「間違った発言」など存在しない)

 :教育の現場では、必要とされる知識のインプットが重視されており、それぞれ学生の中で生まれる疑問や違和感、連想を通して広がる発想をアウトプットしていくことは軽視されがちです。しかし、後者のようなアウトプットこそが、自身の発想力と表現力を養い、知識を「知恵」(情報を処理しつつ実践可能な形へ昇華していく能力)へと高めていくものとして重視されるべきものなのです。
 したがって、発言はどのような形であれ大切なものとなりますが、「いい発言をしなければならない」「間違った発言をすると恥ずかしい」といった心性に囚われると、萎縮してしまいます。表現すること自体には正解も不正解もなく、思いのままに心情や発想、論理を提示すること(言語化していくこと)そのものに意味があります。発言や表現に間違いはありません。恐れず、アウトプットをし続けていくことが重要なのです。

②発言時には手をあげよう(発言の意思を表明しよう)

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 :参加者が少数ではない場合、発言権の譲渡やその保有者の明示が必要になります。多様な意見の開示を生み出していくために、もしくは特定の人物の議論の寡占を防止するためにも、発言権の循環を「見える化」していきましょう。


③意見の異質さ(ズレ)を大切にする

 :議論で大切なのは、他者のもつ感覚のズレへとひらかれた包摂的な環境です。全体の議論をむりやり一つの方向へ導こうとしたり(結論を急いだり)、「共感」を生み出すことで短絡的にコンセンサスを得ようとしたりすることではなく、それぞれが感じるモヤモヤや違和感を、まとまっていなくても「表出」していくこと、またそれを皆が引き受けていこうとする環境が大切です。「気づき」とは、このような場面から生まれます。簡単に結論に至るものはそもそも議論に値しないし、答えがない問題だからこそ他者の価値観に寄り添っていく必要があります。それは他者へのリスペクトにもつながるものです。

※他者の発言に共感したり、「同じだ」と感じることは大切ですが、そこで終わりにするのではなく、自身の思考プロセスの中でどのように「同じ」に至ったのかを表現することが大切です。なぜ同意に至ったのか、立ち止まって考えてみましょう。また、「全く同じ」意見というものはあまりなく、「同じ」の中にも他者とのズレや自身の発想の広がりを見つけ出していくよう努力してみよう。

④質問をして満足しない

 :自身を表現することを恐れている参加者は、「発言しなければならない」というプレッシャーから、安易な質問に逃げてしまうことがあります。このような場合、質問に対する回答がどのようなものであれ(噛み合っていなくても、納得しなくても)、そこで対話が終わってしまうことが多くあります。
 また、自分が知りたいことだけを聞いて、回答から知識を得て自己完結してしまうことも往々にしてあります。議論は開かれたものであるべきで、このような自分本位な個別の応答は議論の後に行ってください。質問は、あくまでもその後の議論につながりそうなものや、全体の議論の理解に資すると予測されるものに限定していく構えが必要です。

※発表者や提案者への質問ではなく、その他参加者の発言に対する質問である場合には、その発言者の話(発想)を広げるための質問をするように心がけよう。相手の話を引き出し、広げ、掘り下げていく姿勢は、その後の議論を深めていくために必要なものです。

⑤つなぐ、連関させる

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 :断片的でバラバラに見えるような意見が出てきた際に、次にそれらをどのように全体の議論の中で連関させ、位置付けていくかが大切になっていきます。それには、個別具体的な事象に拘泥するのではなく、常に発表者の意図や論の展開を(それに縛られることなく)脳裏で感じておくことが必要です。異質性を大切にしつつ、「それが議論をどのように豊かなものにしていくのか」という観点で、うまくテーマと組み合わせていくことが創造的な対話の要です。

⑥議論の流れを押さえる

 :ディスカッションの流れとして、「共有の場」「発散の場」「収束の場」の三つを理解しておくと、スムーズな対話ができそうです。流れとして理想的なのは

I. 発表者or提案者の意図を理解し、議論の土台を作る(共有の場)
II. それを受けて、同意や違和感に関して自由に表現する(発散の場)
III. 全体の議論の中で発散した意見を連関させていく(収束の場)
IV. (ゼミの場合)今後の個別の思考過程に役立てる
(ビジネスの場合)ある程度完結させ、モデル化する

という流れでしょうか。
 ※議論の流れには多様な可能性があると思いますので、参加者にグランドルールや目的、構成を共有したり、それらを構築していくところから始めるのもいいでしょう。

⑦論破しようとしない

 :議論は、単なる自己顕示の場ではないし、マウントの取り合いの場ではありません。論破はSNSでの口論や特定のビジネスのディベートでは必要とされているような節がありますが、ディスカッションは勝敗を決める場ではなく、答えのない問いについて自由に想いを馳せ、世界の解像度を上げるとともに自身の思考力を高めていく場です。

⑧知識のひけらかしを目的としない

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 :⑦と関連しますが、自身の中にある知識を提示すること自体は必要なことですが、それがどのような文脈で、どのような議論の展開に資するものなのかを明示することが大切です。ひけらかしの背景には「私はこんなことを知っている」「あなたはこんなことも知らないの?」という知をめぐる権力関係を構築したいという心性が働いています。知識や読んだ本を紹介する時には、正確な情報とともに「このような発想を提示することで、今の議論を広げてくれるかもしれない」という謙虚さを伴う必要があります。


【メモ】ディスカッションの環境設定

・ロの字型、コの字型の、真ん中の空いた広い会議設計をするより、(コロナ状況下では厳しいかもしれませんが)できるだけ近距離で、一つのシェアされた中心を囲むように議論を行なった方が対話の構えや親密性を生み出しやすい。大学のラーニングコモンズに見られるような、小さなラウンドテーブルが複数あるような環境で、少人数により対話からスタートし、徐々に人数を増やしていくのがいいのではないか。

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・オンラインによるディスカッションの場合は、ブレイクアウトルームなど対話ルームを分割してから全体で統合していくのも一つの手だが、小規模に分散させる前に全体のディスカッションの方向性やテーマ・課題をしっかりと明示しないと個別のルームでの対話が活性化されない危険性もある。

できるだけ閉じられた静かな環境からスタートすることが望ましいが、慣れてくるとオープンでノイズにまみれた場所でも対話に集中することができるようになる。


以上です。

他により良いディスカッションのためのアイディアがございましたら、ぜひ皆様にも教えていただければと思います。

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Kodai Konishi
東京学芸大学で教鞭をとる人類学者。変人類学研究所所長。