ショートショートコメディ「ラジオネーム」

「お嬢ちゃん、こんな時間、こんな場所に
 フルチンで来るってことはどんな目に遭うか分かっているんだろうな?」
「女なんだが。服着てるし、しかもこんなって真昼間の公園だぞ」
「御託はいい。一生物のウマトラを植え付けるぜ」
「トラウマな」

やることがないので外に出てみたがまさかこんな目に遭うとは、
リモートワーク中にサボったことを後悔する。
メガネをかけた細身の…いやガリガリの男がショルダーバッグの
ベルトの部分を手で握りながら私ににじり寄ってくる。
「待て!その子に手は出させない」
私の前に突然、奴と同じような見た目をした男が現れる。
「またお前か”ラジオネーム 切り干し大根”よ」
「お前の悪事を見逃すわけにはいかない
 ”ラジオネーム パイオツハザード”」
「なんなんだお前らは。平日の真昼間だぞ。」

まぁ平日の真っ昼間に公園にいる奴らはみんなヤバいが
「下がっていろ。来るぞ」
ピンポンパンポ~ン!公園のスピーカーが鳴り響く
『逆例えツッコミ!
 このコーナーは事前に用意した例えツッコミに対して
 リスナーがボケを考えるコーナです。
 今回のツッコミは”政治家か!”ですね。はい。
 まずは、え~”ラジオネーム 36.8℃なので今日は会社休みます“
 大袈裟だよ行けよそのくらいの熱なら。
 “知り合いの政治家が日本の将来を憂いていました。 政治家か!”
 いや、違うんだよ。こういうんじゃねぇんだよ。
 例えになってねぇじゃんか。
 チッ。ADちゃんと検閲しろよ。
 2度とメール送ってくんなよ生き恥晒しが!』

ビリビリ

明らかにリスナーからの手紙を破く音が聞こえた。
「うっうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
遠くの方から叫び声が聞こえた
「なんなんだ今のは?て言うかこの深夜ラジオみたいなのは何?」
「この公園では平日のこの時間に『おっちょこちょい遠松』さんの
 『おっちょこちょい遠松のおっちょこちょいじゃねぇって!』
 と言うラジオが放送されている。
 我々リスナーはこの公園に集まって
 自分のハガキがウケを取れているか確認に来ているのさ」
「じゃあさっきの叫び声は」
「十中八九”ラジオネーム 36.8℃なので今日は会社休みます”だろうな。
 フッ。クソみてぇなハガキだったな。
 公衆の面前であんなハガキ読まれるなんて一生物のウマトラだろうよ。
 ざまぁねえぜ」
「トラウマな。ハガキ一枚でなんであんなことになるんだ?」
「おれたちみたいな顔も悪くて頭も悪い奴らにとって
 唯一誇れるものそれは”笑い”だ。
 だが、お笑い芸人になるのはなんか恥ずい。
 そう言うんじゃないんよな〜。
 だから深夜ラジオにハガキを送り芸人を笑わせ、
 「俺は面白いんだ!」と自分に言い聞かせ、
 「最近の芸人ってなんか違うんだよな〜」と
 Twitterで芸人を評論するために箔をつけるのさ」

辺りを見回すと何人もの男たちがダンゴムシのように地面に転がっていた。
「こいつらはなんだ?」
「ハガキを読まれすらしなかった奴だ。
 ハガキの端を折ったり、マーカーで色をつけたりするなど、
 ADに選ばれやすいハガキにする努力をしない奴らの末路さ」

あんまり意味ない気がするけど
『それじゃ次”パイオツハザード”頼むぞ〜。
 ”息子が学校からのお便りをまた紛失した。 政治家か!”
 いいね。政治家ってよく書類紛失するからね〜。
 ステッカー送っときま〜す』
「やるじゃんパイハザ」

ラジオネームに反して真っ当なネタだ。風刺も入って知性すら感じる。
「えっ、あっあっうん。まぁああな」
「さっきまでの威勢はどこいった」
「ハガキ職人は基本的には隠キャだ。女の刺激には耐えられんのさ」

パイハザは来ていたコートの内側を見せてくる。
そこには大量のステッカーが貼られていた。
「まぁ俺ほどのハガキ職人になるとこんなもんよ」
「そうですか」
『次は〜”切干し大根”』
「おれの出番か」
「俺のネタに勝てるか?」

パイハザは切り干し大根にライバル意識があるらしい。
パイハザに比べるとコミュニケーションも取れるし誠実に見える
切干しは一体どんなハガキを出したんだろう?
『”5年前から働いてるデリヘル、いまだに私の年齢が22歳のまま。
 おい店長!対応遅いな!お前は政治家か!”
 なるほどね、確かに政治家って対応遅いし、デリヘルもさ。
 辞めたやつの未だに在籍のままの時もあるしさ〜。
 いいね。じゃあ。ステッカーとどんぐりプレゼント』

「おれはこのラジオでは現役風俗嬢ということになっている」
「そうですか」

期待した私がバカだった。ハガキ職人なんてみんなこんなもんさ
「ていうかパイハザはさ。あたしに何しようとしたの?
 トラウマなんて受けてないけど」
「あ?ああこの公園に来たからにはハガキを送ってもらわねばならない。
 スベる恐怖をトクと味わえ」

「え?いや、でもあたしハガキとか送ったことないし、
 切手とかもよくわかんない。
 何円のやつ貼ればいいの?
 切手の裏美味しいからめっちゃ舐めちゃうんだけど体に害はないの?
 ハガキの裏のとこだけ舐める用で売ってもらうことはできないの?
 何も、何もわからないから無理よ!」
「大丈夫さ。スピーカーの下を見てみろ」
「まさか」
「ああ、彼ことが”おっちょこちょい遠松”その人だ。
 公園のスピーカーをハッキングしてラジオをやっているんだ」

スピーカーの下には浅黒く太った男がメガネを
おでこまであげて意気揚々とハガキを読んでいた。
スピーカーの線をぶった斬り自分のマイクと繋げていた。
ハッキングじゃねぇだろ
「さぁ彼にハガキを渡すんだ。”ラジオネーム もっこり森蔵”」
「おい、勝手に決めるな。誰だよ森蔵。NHKのキャラか!」
「いいね〜たとえツッコミ上手いじゃん」
「うるさい」

仕方なくハガキを書くことにした。
「チラチラ見るなパイハザ。気が散る」
少し緊張しながら書き終え、遠松の隣にいたADに渡す。
『じゃあ最後今来たみたい。え〜
 ”ラジオネーム プリンセスユニコーン”
 …期待できねぇななんだこのラジオネーム』
「おいおい、プリンセスユニコーン。
 ラジオネームはイジられない程度の小ボケを入れておくのは当然だぜ」
「小2の発想だな」
「うるさい。初めてなんだからしょうがないだろ」

散々な言われようだ
『まぁいいや読むよ
 ”あいつ今日スーツ着てんな〜 政治家か!”
 こいつバカだろ(笑)サラリーマンも着てんだろバカだなぁ(笑)
 ステッカー送っとくわ』
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「どうしたパイハザ」
「どうやらプリンセスユニコーンのハガキが
 自分のよりウケていたからダメージを受けたようだ。
 あいつは
 ”女なんて全員つまらんわ。女で俺が認めてんのは上沼恵美子だけだわ”
 が口癖だからな」
「うわ、今時、性差別」
「どうやらウマトラを受けたのはお前のようだなパイオツハザードよ」
「トラウマな。わざとやってんのかお前ら」

こんなやりとりが今もどこかの公園で行われている。平日の真っ昼間にな…

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