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海にいこうか

海がときどきみたくなる.

ぼくが人間だからだろうか,ぼくが生き物だからだろうか.
滋賀県にいたこともあって海みたいに広い湖は近くにあったことがある.

けれども,海がみたい.湖を海と思い込めるほど正直じゃない.


海がみたい.

そんなとき,がある.
ありますよね.なんだろう.

水平線がみたいんだろうか,
水面がみたいんだろうか,
潮風に吹かれてたいんだろうか,
波の音がききたいんだろうか,
どこか遠くにいきたいんだろうか,
だれかの悪口を叫びたいんだろうか,
魚がたべたくなったんだろうか,
貝殻を拾いたくなったんだろうか,


広がる海はたんなる場景ではなくて,明瞭な情景としてあって,光を揺らしながら揺蕩う水面と心房から心室に汲まれる鼓動が同じようにみえてくる.


海の思い出といえばかき氷かな.

海辺で売っているかき氷を色だけ変えて何回も食べたな.
あのよくわからないスプーンみたいなストローのようなストローを持ってさ.

かき“氷”だから”食べる”って言ってみたけど,最後は”飲む”んだよな.

どちらかというと,ぼくは”飲む”ときのほうを心待ちにしていた気がする.
氷を崩して,崩して,そのときだけ都合よく暑さを待ってさ.

かき氷を飲み干したら暑さが要らなくなるから海の方に走ったな.



てっきり泳げるような口ぶりで言ってしまった.
ぼくはあんまり泳げなかったんだった.

浮き輪はいいけど,ふくらませるのが面倒なんだよな.
泳げるようになれば浮き輪はいらないか.


青春時代の25mプールは足がついたけど,海となると身長が足りないな.マリアナ海溝くらい身長があれば泳がなくていいのにな.浮き輪は面倒だし,広い海で,わざわざ窮屈な浮き輪におさまってたくないしな.

やっぱり泳げるようになるしかないか.

どうやったら泳げるようになるだろ,

いつまでも25mプールじゃ泳げるようにはならないだろうな.
それにフェンスはもうよじ登れない.


海のかわりに,空ばかりを見上げてるのがダメなんだよな.

空に浮かぶ雲をみて,いつまでも乗りたいなってはしゃいでる気がする.
だってハイジ乗ってるじゃん,ぼくも乗りたいって.
まあ,乗れないことは早くに知ってたけど.

でも,正直になりきれなかった.だから最近までのぼくはちゃんと思い込むことができてなかったんだと思う.

ようやく,信じるしかないときがきたのかなって思う.


海がときどきみたくなる.
泳げるかどうとかはもういいか.

そろそろ,海にいこうか.


文体・写真/うめの瑳刀



のらりくるりと芸術大学中退. 1998年製. 空気を画素におとしこもうと風景をパシャり.二次元(平面)と三次元(立体)の次元間の往来を主題に作品を制作しています.また言語バイアスによる対象からの各個人の情緒レンダリングを試行しております.