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【UX改善】研究参加者が支払うコストを下げる(研究者向け)

Twitterアカウント「大学の実験・調査参加バイト」はこれまでに300件以上の研究バイトを掲載してきました。この記事では、これまでの経験を参考に、より多くの方に研究に参加していただくための方法を記載しました(研究者向け記事です)。

コストを下げることが重要

「ある人が研究に参加する可能性」
=「研究参加から得られる利益」ー「研究参加に支払うコスト」

参考:https://jump-manga-school.hatenablog.com/entry/06

と仮定したとき、「利益」は謝礼や研究自体の面白さや研究の社会的意義などで決まると思います。ただし、謝礼額は大学の規定で決まっていたり、予算の都合で調整できない場合が多いと思います。研究自体の面白さや意義は、あまり誇張するのはよくない場合もあると思います。

そのため、「コスト」を下げることが重要です。ここでは特に、参加者の方が研究参加に際して感じる不安めんどうくささなどの”心理的”なコスト(*1)を下げることに注目します。この心理的コストが高いと、今回または次回以降の研究参加率が下がります。

様々なサービスが、心理的コストを下げるために努力しています。例えば、下記はある予約管理サービス(STORES予約)のアカウント作成画面です。

スクリーンショット 2021-07-05 13.04.40

・アカウント作成後7日間は無料で有料プランを試すことができる。
・無料トライアル期間終了後に有料プランを使い続けるか、無料プランに変更するかを選べる。
・自動的に料金が請求されることはない。

ことが画面の最上段で強調されています。これはサービス利用者の不安を除いている例です。

当サイトでは研究者から共有いただいた参加者募集用の文面を基本的にはそのまま掲載しており、一部には心理的コストの点で改善可能な募集文面があります。以下、心理的コストを感じる募集パターンとその解決策を思いついたまま列挙します。

心理的コストを感じるパターンとその対応策

報酬について
・報酬が交通費込みなのか不明(←交通費込みかどうか記載する)
・1ヶ月継続の研究などで、途中でリタイアしたり、何回か参加できなかった場合に報酬がもらえるのか不安(←何回まで不参加OKなどの条件を記載する)

場所について
・研究実施前日まで集合場所が知らされず不安(←早い段階で集合場所を告知する)
・”実験室”がどんな雰囲気かわからない(←実験室の写真を共有する。Airbnbの例などから、きれいな写真で雰囲気を伝えることは重要だと思います)

日程について
・「参加希望日程を教えてください」に回答するのがめんどう(←実験担当者が候補日を提示する。日程を提示することにはコストがかかる)
・参加申し込み後、定員の都合で参加不可になった場合、いつまでに担当者からキャンセル連絡があるのかわからない(←参加の可否によらずいつまでに連絡するか記載しておく)
・参加申し込みしたが連絡がなく実験が実施されるのか謎(←参加登録完了メールとリマインダメールを送る)

プライバシーについて
・研究データがどのように利用されるのか不安(←どのように利用されるのか、匿名性などについて記載する)
・オンライン実験で顔出しする必要があるのか不安(←顔出しの必要について記載する)

募集方法について
・「研究参加希望の方はXX@YYまでご連絡ください」という形式の研究に参加するのが面倒くさい(←Google formやカレンダー予約サービスを利用する。)
メール参加の場合に参加者が感じる種々のコスト
・件名を決めるコスト(ZZ実験参加希望でいいのか?)
・宛名を決めるコスト(XXさんとすべきなのか、XX先生とすべきなのか、XX様とすべきなのか?)
・何を書けばいいのか考えるコスト(過不足なく情報を伝えようとしてくれる人ほど悩む)
・どの程度の丁寧さで書くべきか考えるコスト
・メールが無事届いたか不安になるコスト
所属機関の規定等でメールで募集せざるを得ない場合は、せめてテンプレートを用意して、参加者のコストを下げる。

参加条件について
・「視力0.7以上の方」を対象とした研究に、メガネやコンタクトレンズをしていっていいのかわからない(←裸眼のみなのか、メガネ・コンタクト可なのか記載する)
・「右利きの方」を対象とした研究に、矯正して右利きになった場合に参加していいのかわからない(←参加可否を記載する)
・「メガネをかけていない方」を対象した研究について、普段はメガネだが研究実施日にコンタクトレンズならいいのかわらかない(←記載する)
・「本学キャンパス構内へ入校可能な方」を対象とした研究について、自分が「本学キャンパス構内へ入校可能な方」なのかわからない(←もっと具体的に記載する。参加者に自分が入校可能かを調べる手間をかけない)

終わりに

それぞれの研究者の事情もあるかと思います。例えば、所属機関からGoogle formを利用せず、メールアドレスを掲示して募集するように指示されている場合があるようです。加えて、ここに記載した事項を全部書き込むと募集文が長くなり過ぎると思います(一般に、意思決定にはトレードオフが伴います。理想的にはそれぞれの心理コストが参加可能性を下げる度合いを定量化して判断すべき)。それに、この記事の内容が100%正しいとも限りません。そういうわけで、当サイトで研究参加者を募集される方が、ここに記載した内容を採用できない場合があることはよく理解しております。

本来ならサイト管理者(私)が色々と整備すべきですが、ウェブサイトの構築や運営の技術がなく、このようにUX(ユーザーエクスペリエンス)改善のコツを列挙することにしました。もし当サイトで研究参加者を募集する方や、研究参加者募集事業を始めようとする方(そのような動きもあるようです)にとって参考になる部分があれば幸いです。

最後になりますが、研究参加を躊躇する理由について教えてくださった皆様に感謝します。


(*1) 心理的コストという単語で自分でも何を言ってるのかよく分からないのですが(コストは機会コストだと思います)。

お読みいただきありがとうございます。何か質問などありましたらお気軽にご連絡ください(ueshima73@gmail.com)。