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幸せのテディベア

基本的に一匹狼な私だが、中学生の時には少しだけ女子グループにいた……みたいになっていた。といっても、私のマインドは一匹狼なので、途中でそのグループも脱退するのだけど。

そのグループでクリスマスパーティーをすることになった。プレゼントとお菓子を持ち寄ることになったので、プレゼントを買いに近くのショッピングセンターに行った。そこでセール用のワゴンに入ったテディベアを見かけ、クリスマスパーティーのプレゼントにしようと思った。
しかし、一緒にいた母に難色を示された。一応中高一貫の進学校の学生のクリスマスパーティーでテディベアは歓迎されないであろう、と。それもそうかと違うプレゼントを買ったのだが、何故かしらワゴンのテディベアが気になって仕方がない。それで、妹へのクリスマスプレゼントに買っていったらどうだろう?と母に打診した。母は「(妹は)きっと喜ぶだろうから買ってやればいい。しかし、親からの助成金はあてにするな」と告げた。さほどお小遣いとして大金を貰っていたわけではないが(それどころか周囲の友人のお小遣いと比べて最低額であった)ワゴンのテディベアは十分に買えたので、私は妹へのクリスマスプレゼントとしてテディベアを購入した。
レジに持っていったとき、担当のお姉さんがクリスマス、って感じの銀色のギフト用の袋に入れ、赤のリボンを結び、金色のお店の店名入りのシールを一枚貼ってくれた。“クリスマスプレゼント”って感じの包装に私は大感激して目を輝かせた。多分、これをみたお姉さんは大変気を良くしたのであろう。店名入りのシールをベタベタと貼り出したのだ。彼女がシールを貼る度に私の目の光は失われていったのだが、彼女の目にそれが映ることはなかった。

帰りに何となく暗い顔をしてテディベアとプレゼントを抱えた私を母はどう見ていたのかは知らない。ただ、妹にテディベアを渡すときに「これはお姉ちゃんからのプレゼントである」と強調していたので、彼女は私がテディベアを全額負担で購入したことに暗い顔をしていると思ったのかもしれない。テディベアは妹に大歓迎された。

非常に面白いことは、本来の目的であるクリスマスプレゼントについて何らの記憶も残っていない、ということだ。そしてそのプレゼントを持っていったクリスマスパーティーも。ついでに買ったテディベアの記憶は結構はっきり残っているのに。やっぱり一匹狼にグループでのクリスマスパーティーは苦痛でしかなかったのかもしれない。

このテディベア、妹にとっては思いもよらないプレゼントであったらしい。先ず、亡くなった父は基本的に子供に与えるべき玩具は知育玩具であるべきだ、という考えだったので、赤ん坊の時以外にぬいぐるみなどは買って貰ったためしがない。私もそうだし妹もそうである。従って、テディベアが手元に来たことが想定外だったらしい。また、姉からクリスマスプレゼントが来ることも想定外だったらしい。以上のことからこのテディベアは彼女にとって幸せの象徴となり、全てのテディベアは彼女にとって幸せをもたらす素晴らしい存在となったのだそうだ。あれから何十年経った今でも妹はテディベアを見るだけで最早溶けてしまいそうなくらいの笑顔になってしまう。

たかがワゴンセールのテディベアでここまで喜ばれると姉としては喜ぶべきなのかもしれない。ただ。その結果増殖したテディベアを彼女は現在実家に不在の姉のベッドに置いている。このため、私は眠い目を擦りながらテディベアを片さないとベッドに入れない。これに文句をいうと「テディベアは幸せの象徴であるからそれくらいの不便は甘受しろ」と返ってくる。思わず「誰だよ、お前に最初のテディベアなんぞ買った大馬鹿野郎は」と毒づいてしまい「あんただよ」と妹に冷静に返される身としては喜ぶべきか悲しむべきか悩んでしまうのである。

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