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ターニングポイント - 小説家になろう史、5つの転換点

 なろうで色々書いていたものを、時系列で再構成。


2008年05月08日 - 評価を加点方式に変更

 多数の人気を集める作品を読みに行く、という最低限のシステムが確保されたのがこのタイミング。
 正直これ以上古いなろうをいくら掘り返したところで、流行や作風の変化を探る上では無価値だ。

 そしてこの頃なろうに強い影響性を持っていたのが、「ランキングサイト」という存在。

ランキングタグ、というものの本来の使い方。

 そんな中でも特に重要であったのが、「ネット小説ランキング」というサイト。

このほか「Re:Talk」「魔法科高校の劣等生」などの名前も見られた。

 なろうで加点ランキングが始まったとはいえ、その更新は3ヶ月に1度のみであり、読者導線はなお貧弱なものであった。
 作品を探すには外部サイトを用いた方が都合がよく、この時期のなろうは、わざわざ個人でHPを開設せずとも、そうしたランキングサイトに登録が可能な便利な「作品置き場」、として捉えるのがいいかもしれない。
 その後のなろうを形作っていく「異世界」の原型、特に「召喚」「トリップ」といった要素に関しては、そうした場所での流行が持ち込まれてきた、という傾向が感じられる。


書籍化考① - 2000年代

 2000年代末という頃は2006年の「涼宮ハルヒの憂鬱」大ヒットをはじめとして、ライトノベル原作アニメが急激に増加、産業的な最盛期を迎えていった時期にあたる。

文庫型ライトノベル販売金額としては、2011年以降ずっと右肩下がりで推移。
若干のタイムラグがある。

 作者達の行動としては、あくまで「ライトノベル新人賞」志向であり、ネット上で作品を公開して反応を見たりはしつつも、直接書籍化というのは、かなり例外的なものに過ぎない。
 ネット掲載歴こそあれど、「アクセル・ワールド」「はたらく魔王さま!」「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」などは受賞による書籍化であるし、「ソードアート・オンライン」「魔法科高校の劣等生」も、その過程で拾われたものだ。


2009年09月30日 - 大規模リニューアル

 お気に入り登録による作品の更新通知や、評価システムが現在まで連続する形になるなど、小説家になろうというサイトの基盤が出来上がった、言わば最大のターニングポイント。
 ただランキングの設置はもう少し先であり、参考に出来るような指標は「総合評価の高い順」くらいなもの。

「魔法科高校の劣等生」は累計1位でありつつも、作風的な影響性は感じない。
書籍化の過程も含めて究極の例外。

 召喚やトリップなどの語を用いた、今で言う異世界転移系作品が上位のほとんどを占めており、人気ジャンルが固定化されがちな傾向にあった。


2010年12月24日 - ランキング設置

 なろうの作風の変化を見ていく上で、最も大きな影響があったと言えるのが、ランキングを設置したこと。
 それまでは「総合評価の高い順」という流動性の低い指標に頼らざるを得なかったのが、日間・週間・月間・四半期と、短期間における人気作を知ることが出来るようになった。
 そしてこれを契機として急激に数を増やしていった要素の1つが「転生」だ。

「転生」という語自体は2007年04月のカテゴリ追加により、作者が選択してタグ付けできるものとなっており、そこそこの数はある。
ただ読んでみると分かるが、かなり毛色が違う感じでも使われていた。

 2010年を通じてすでになろうの二次創作側では、支配的な要素となっていたのだが、この期間のオリジナル作品での利用は――書籍化作品こそ出しつつも――低調であったと言える。
 創作で共有される便利ギミックとして定着するための、そのあと一歩がランキング設置によってもたらされたわけだ。
 また語の利用の変化を見ていくと、「MMO」や「迷宮」「ダンジョン」なども同様の傾向があり、「Arcadia」で形成されていた人気要素が、2011年を通じて移転していった、という一面も持つ。

 2011年以降のなろうで急激に増加した要素として挙げられるのが、「ゲーム」的なギミックを付与した転移・転生系作品。
 大規模・多人数・同時参加型のゲーム世界を描く従来的な「MMOモノ」から、ゲーム的に能力を付与された主人公と異世界の対峙へ、というシフト。
 このあたり当時はArcadiaのみの掲載であり、直接の影響とは言い切れないものの、「オーバーロード」以降顕著になった流れかと思う。
 もっとも翌2012年にはアニメ「ソードアート・オンライン」が放送され、VRMMOというジャンルは最盛期を迎えていった。

これ以降は累計上位の固定化が激しく、徐々に商業化成功度合いの指標と化していく。

 ただ2013年も後半まで来ると、そうしたゲーム的な要素は下火となっていく。
 この頃まで来ると転生や召喚はなろう内で完全に一般化を遂げており、主人公に力を与えるために細かい理屈を用意する必要性も無くなったのだろう。
 それら以外の要素としては、複数人を喚ぶことが多くなった「勇者召喚」であるとか、「悪役令嬢」などが流行を見せた。


書籍化考② - アルファポリス

 2010年から2013年夏頃にかけて、書籍化手段として最も本命視されていた存在。
 ランキングサイトであり、元々は個人HPを中心に書籍化を手掛けていたが、この期間を通じてなろう作者達に埋め尽くされていった。
 現在イメージされる書籍化とはシステムが根本的に異なるものであり、ランキング登録を行って一定のポイントを獲得、その上で作者が出版申請を行うことで、書籍化されるという構造。
 あくまで「自サイトのランキング登録作品の書籍化サービス」であって、なろう作者に声をかけたりしていくものではない。
 色々叩かれていた「ダイジェスト化」というものがあったが、そもそも原則削除で運営していた所を、なろう作者の要望から曲げて許容した、という立場にあたる。

アルファポリス以外では、最悪の失敗例「フェザー文庫」はさておき、「エンターブレイン」と2012年09月創刊「ヒーロー文庫」が存在する。
ただ数量的に限られたものであり、web書籍化の本流とはなりえなかった。

 なろう書籍化が本格化する時期まで来ると、そうした構造も限界に来たのだろう、2014年10月以降は投稿サイトへと変化した。


書籍化考③ - KADOKAWA

 当時ライトノベル産業の7割超を占め、業界そのもの、ルールそのものとでも言うような存在である。
 特に2013年08月の「MFブックス」創刊を中心として、なろうのランキング上位作品書籍化を一気に進めていった。

「このすば」は2012年時点で削除しており、立ち位置が異なる。

 この書籍化ラッシュを通じて、「削除しない」「文庫ではなく大判で出す」というような原則が出来上がっていき、他の出版社へも波及したのではなかろうか。
 これは単にKADOKAWAがweb上からも作品を出版するようになった、で終わりの話ではない。

数値は「なろらんグラフ」より、2023/11/20時点。

 確たる根拠を持つというわけではないのだが、2014年に見られた新人賞応募の急減と、その逆になろうの累計を占める最大の作者集団の形成。
 かつて主流であった有力文庫レーベルの新人賞から、小説家になろうなるサイトへ、と作家志望の集団が、そして書籍化の本命が入れ替わったことを物語っているように感じられる。


2016年05月24日 - 異世界転生/転移を除外

 2016年にあった大きな変化としては、総合ランキングに代わりジャンル別ランキングを前面に出してきたことであり、「異世界転生」「異世界転移」なる必須タグが新設されたこと。
 こうした要素は長編作品連載で特に便利なギミックとして、年間ランキングに至っては8割を埋める状況であり、隔離を行った形である。

方法としては「導線をとにかく悪化させる」というもの。
理解はするが褒める要素は無い。

 この措置の後、ランキングからは年を経るごとに減少、しかしながら「陰の実力者」「ヘルモード」など、一気に累計上位まで伸びる作品はこちらが輩出しがちでもあった。
 これに代わる形で台頭していくのが、おかしな物言いではあるが「現地主人公」となる。
 一言でまとめづらいものではあるが、当初は「現地人転生」であるとか、「ダンジョン」「勇者」への回帰、2018年あたりから「追放」といったあたりが、有力なギミックだったと言えようか。
 ハイファンタジー以外では2019年度に入って、異世界恋愛と現実世界恋愛のシェアが大きく伸びた。

「2019年度の変容」は1つの小さなターニングポイントとも言えるが、具体的に「何が」作用したかという点をまとめきれていない。

 異世界恋愛については「婚約破棄」や「聖女」の拡張、現実世界恋愛については「お隣の天使様」ヒットが牽引する形で、パイそのものを押し広げたという感じだろう。

 話は変わって、当時のユーザーの性質について。

2016年05月時点も確認したところ、おおむね同様の数値。
アニメ化作品は「ブックマーク側が急激に伸びる」という傾向を持つ。

 ポイントの内訳を見ていくと、約7割がブックマークに由来するものであり、ブックマーク者10人に対して評価者が1人、という割合であった。

ブックマーク数が正義というシンプルなルール下。

 当時の環境としては「ブックマーク」を最大化させることこそが、最も優先されるべきことであり、これにより形作られるランキングは、絶対的な「連載中」作品優位だったと言える。
 2018年度はなろうの新規投稿数が最大化した年でもあり、長編作品同士で極めて苛烈な競争が行われる場であった。


書籍化考④ - コミカライズ

 今まで書いてきた諸々とかどうでもいいんじゃない? ってくらいに圧倒的で絶対的なパワーを持った出来事がこれ。
 単純に動いている額が、好んでいる人間の数が、小説と漫画では違いすぎる。

範囲内に限るが、転スラ76%、薬屋80.5%がコミック売上。
電子書籍も含めたらさらに差が広がるのではないか。

 なろうの成功と言うのは「電子コミック市場が急成長を遂げるタイミング」に、「手っ取り早く原作を持ってくることが出来る場」を形成できていた、という点に尽きるだろう。

数値は「書籍ランキングデータベース」より、2021/04までの値。

 なろう書籍の刊行点数は2016年末以降ずっと横ばいであり、2021年にはコミック刊行点数が上回ったようである。
 俗に言う「なろう系」とは何か? と問われたら、それは「漫画の1ジャンル」だ、と答えたい。

「オバロ」「このすば」「リゼロ」等は有名ではあるものの、この時期のなろうへの影響は軽微であり、「KADOKAWAの商品の成功」として消費されたものなのだろう。

 2016-2017年に見られた小説閲覧数の停滞を脱し、PV上の最盛期をもたらした要因こそが、コミカライズの進展とその先読み需要だったのだろう。


2020年03月03日 - 評価フォームの機能改修

 なろうは2020年春から2021年夏頃にかけ、PV上の最盛期を迎えた。
 コロナ禍による巣ごもり需要が、ネット上のあらゆる分野で利用を押し上げた点や、有力作品が次々とアニメ化を遂げたことで、ユーザーが流入していたのだろう。

 しかしながらその繁栄の影では、衰退に至る問題が静かに育ちつつあった。
 ターニングポイントは2020年03月03日、なろうで実施された「評価フォームの機能改修」である。
 内容をまとめると、

  • 作品閲覧中いつでも作品の評価をすることができるように

  • 「文章・ストーリー評価」の区分を撤廃し、☆アイコンでの5段階評価に変更

  • フォームから「評価」という語を完全に排除し、「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」のみへ

の3点だ。
 実際のところ、これらの施策はより多くのユーザー参加に繋がるものであり、理念的には全く非難されるようなものではない。
 だが地獄への道は善意で舗装されているという話であり、結果としてなろうを形作ってきたポイント制度、その根幹を完全に破壊するに至ったと認識している。

 評価フォームの機能改修以降顕著となるのが、短編、及びごく早期の完結済作品、それらの増加である。

「2016年05月24日」の方と比較してもらえれば、異常性が際立つかと思う。

 当たり前だが、この変化が単に読者集団の嗜好の変化だとか、その程度のことによるものであるわけがない。
 単なる「ポイント」と化したことによる評価のカジュアル化、そしてそれによって形成された、新しい評価者集団の成立が背景にある。

少数集団がシステム的に優位に立ち、多数集団を追放する構図。

 活動するユーザーの規模が一番多いのはどこか? と言えば、実のところそれは未だに「連載中」作品閲覧を目的とした集団だ。
 しかしながらそうした従来的なユーザーのポイント行動は、2010年代と大きくは変わらないものであり、評価をとにかく多用する短編系集団に対し、ポイント上で完全な劣位にある。
 結果論となるが、作品最終話までの継続的なフォロワーを示す、最も有意な指標であったはずのブックマークは、この前後でその価値を大きく貶められたと言えよう。
 ポイントなる数字だけは派手に膨れ上がった一方、その内実はひどく空虚なものであり、ユーザーの多数意志により商業化に適した作品を選別してきたシステムは破綻した。

 もはや短期間のランキングは完全に短編系作品が支配する場となり、連載中作品はランキング表紙のような目につきやすい場所から排除されるに至った。
 そんな状況が続くというのは、娯楽目的だろうと商業化志向だろうと関係なく、長編作者からすれば冗談ではないという話である。

十分な被お気に入りユーザーを確保できているとか、他サイトからの誘導だとか、初動を確保できないとなかなか厳しいのでは。

 少しでもマシな投稿の場へ行きたいというのは、避けようがないことであり、なろうが何か思い切った施策をとらない限り、カクヨムへの移行という流れは止まらないのだろう。

 次に読者的な活動量について。

数値は木曜19時頃を参照、祝日は除外。

 右肩下がりにガンガン流出しているとか、そういうものではなく、01月~10月上旬あたりまで普通に活動し、10月下旬~12月あたりで一気に縮小していく。
 12月に活動量が低下するというのは、サイトを問わず一般的な傾向ではあるが、問題は翌年に入っても戻りきらないという状況が続いている点。

2019年、2020年は「なろう毎日記録」より。
問題を抱えたデータなのだが、参考には出来るだろう。

 小説閲覧数は前年比8.7%の減少、これはコロナ禍による一時的増加分が落ち着いたで留まるものではなく、おおむね2018年水準まで後退した。
 2023年はなろう発アニメ化本数過去最多を遂げ、漫画ないしアニメジャンルとしての「なろう系」は、今後もしばらく堅調なことかと思うが、そうした集団をユーザーとして取り込むことは、ほとんど出来ていないようである。

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