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ある夜、私はふいに「3人目のこどもをこの世に誕生させたい」と思った。

その日は風が少し冷たかった。
生駒市役所の仕事が終わり、宿に戻ろうとしていた時。
ふいに「ああ、産みたい。この手であの子を抱きしめたい」と思った。

1人目の息子、2人目の娘と似ているようで全く違う感情。
3人目を産むために、私は閉店まで残り30分の100円ショップに急いだ。

第一章 校長からの相談


今年の1月、生駒南第二小学校の城野校長と先生たちからオンラインでご相談があった。

「全校児童で1年間取り組める企画。ICTを活用し、キャリア教育にもなり、地域も巻き込める企画を考えたい。さらに特色のある企画にしたい」

先生たちの考えやアイディアをたくさんお聞きした上で、会議が終わった後、私の頭の中で企画をグルグルコネコネバンバンブチブチやってみた。

そこで閃いたアイディアは「子ども目線で校区の情報を集めたデジタルツールをつくる」だった。

私の頭の中では「めっちゃ面白いことになるぞ!」と妄想が膨らんだものの、私にデジタルツールは作れない。
どうすれば面白いことまでの道筋をつくれるのか?この段階では全く見えていなかった。そう、全く。

そんな状態で企画書をつくり、南二小の先生たち全員の前で提案をした。
当然のことながら、現場の先生達を非常に不安にさせてしまった。
いかん。私のせいで、先生たちを振り回してしまってる。実際に児童たちと1年間取り組むのは先生たちなのだ。私がこんな甘い考え方でいるなんて、無責任すぎる。
しかし、どうしたら良いかわからない。
流山に帰る新幹線の中で久しぶりに少し凹んだ。

第二章 help


翌日、朝起きたら「いや、うまく行きそうな気がする!」と根拠のない自信が沸き上がってきた。

私の会社でやるなら開発部分を外部委託をして、スピード重視でまずは形にする。しかし、行政ではその方法は簡単ではない。

とにかく、助けてもらおう。
ICTイノベーション推進課の森課長は、私が全くわからないデジタルツール開発の仕組みをすごく丁寧に楽しく教えてくれた。プロ人材同期のNECから市役所に転職した掛樋さんにも相談。官民連携で良い方法がないものか?と。そしたら、会議机の真後ろにいたSDGS推進課の上野さんも外部とのコラボについて色々教えてくれた。
そして、市民団体CODE for IKOMAの代表佐藤さんとお話をした時のこと。


興味を持ってくれそうな先生が奈良先端科学技術大学院大学にいらっしゃるとのことで松田先生をご紹介をしてくれた。

それが、私たちのターニングポイントだった。

オンラインで松田先生に企画意図を熱く話した。
「大人では見えないものがあって、子ども達だから集められる情報が集まったら絶対面白いんです。」
「正確な情報だけでなく、気持ちも入れたいんです!」
「いつも頼れる友達みたいに、そのツールにいろんなことを聞いてほしい」

松田先生は「自分の研究テーマでもあります。いいですね!やりましょう」と穏やかに優しく言ってくれた。松田先生はめちゃ若くて、世界で活躍する研究者。


2日後くらいには、「こんな感じですかねー」と簡易的なデジタルツールを作ってくれた。
「おいおいおいおい。ほんまに。。ほんまに思った形ができてるやん!すごい。研究者だけでなくて、自分で作れるのか。。。ほんまにすごい」

第三章 興奮

今回は、全校児童がGIGAスクール用に配布されたタブレットを使って実施する。学年ごとではなく、1年生から6年生までの異学年チームになって地域の方にご協力いただきながら、1年間活動をする。

まずは、リーダーになる5・6年生に今回の概要を理解してもらうため、デジタルツール制作の体験授業を5月12日に実施した。

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「日本初になる地域のデジタル図鑑さん(仮)を作ります」と伝えたら、子ども達はポカンとしていた。
「2時間だけ我慢して私についてきて欲しい。終わりにはきっとワクワクすると思うから」
と言って、授業を始めた。

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■まず、グループでテーマを決め、図鑑さんに教えてあげたい地域情報を付箋で書き出す。

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■Googleフォームに情報を記入する

入力フォーム

■リアルタイムでみんなの情報が図鑑さん(仮)の頭の中にたまっていく

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子どもたちは「おおおお!!!」「なるほど!」と興奮しながら、他のチームが入力した公園や生き物、お店、本の情報を検索していた。松田先生もオンラインでずっとフォローをしてくれていた。
「1年間どんなことやるか分かった人!」と最後に聞いたら、元気よく手を挙げてくれた。
これから、写真や動画や位置情報も入れて、たくさんの地域ネタを図鑑さんに教えて行く予定だ。

第四章 誕生

この授業ではもう一個、子ども達が大興奮する仕掛けがあった。
CODE for IKOMAのグラフィックレコーダ―のよしだゆうこさん。
こちらもリアルタイムに私が話した内容がイラストになっていく。

グラレコ0512

グラレコ0512_2

新しいことを始めるにあたって、頭の中を「絵にして見せる」ということはめちゃくちゃ大切。
この2枚で、1年間何をやるかみんなが分かる。
廊下を通る保護者や地域の方も足を止め、このプロジェクトに関心を持ってくれてる。

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みんな、どんどん模造紙がイラストで埋まる様子に興味津々だった。
ここで、よしだゆうこさんが「デジタル図鑑さん(仮)」をキャラクターにしてくれた。めっちゃ可愛い。

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擬人化したのは、子ども達の「教えてあげたい」という気持ちを引き出したいと思ったから。それが、独自キャラクターになると、さらに愛おしくなる。

授業の2日後、ふいに私はこの子に「触れたい」と思った。
ようやくプロローグに戻るが、私はこの子を産むことにした。パソコンから、出してあげることにした。

100円ショップで400円分の資材を購入し、いざ宿で制作!!
そして、2時間後。。。。

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みてーーー!!めちゃかわいいやろ!!!
口から情報入れたら、お腹に貯まる仕組みやねん!透明やから、情報の数が見えて「お腹減ってるから、いっぱい情報集めなきゃ」って子ども達が思ってくれるねん!
顔を書いた瞬間に、もう愛おしくてたまらない。持って帰りたくなる!そして、意外にでかいねん!

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しかし、産まれたばかりの図鑑さん(仮)は足がヤワヤワで立てない。
思いつきで作ったのが、ちょうど流山に帰る日だったので、急遽学校に持って行った。
学校に着いた時には頭部と胴体部がバラバラという惨劇だ。
それを見た教頭先生が「僕が立たせますよ」と言って、この子を引き取ってくれた。

「あの子は元気にしているだろうか。」「小学校でかわいがってもらえてるだろうか。」
そんな心配をしていた昨日。
オンライン会議の画面には教頭先生によって、小学生くらいに進化したデジタル図鑑さんが立っていた。

図鑑さん0525

我が子が!!!!自分の足で立ってるやん!!!なんなら、運動会で活躍しそうな足になっている!教頭先生の図工スキルがめちゃくちゃ高い。お母ちゃんは嬉しい。

6月2日の1回目の活動でこの子は全校児童にお披露目され、デジタル図鑑さん(仮)の名前を子ども達が口に入れて応募することになっている。
先生たちもこのプロジェクトを、より豊かな学びにつなげるため、どんどん色んなアイディアを出してくれている。やっぱり、学校の先生は素敵や。

本日、リリース。

<教育長だより>

https://www.city.ikoma.lg.jp/cmsfiles/contents/0000025/25624/kyouikuchoudayori20210526.pdf

あとがき

「AIに仕事を奪われる」とか「AIに勝てない」とか言われるが、AIに情報を教えるのは人間だ。
優しい情報が集まれば、優しいAIになる。ワクワクした情報が集まれば、ワクワクするAIになる。

情報は「意識」しないと見えない。
1年生が届く鉄棒がある公園ってどこだろ?
安全にホタルが見れる場所あるのかな?
なんだか、この道を通るのドキドキするんだけど、なんでだろ?
困った時に、どこに相談に行けばいいのか?

地域の人たちと一緒に回ることで、もっと街のことを知れる。
もっと街の人と知り合える。
知らないことを知るって楽しい。知ったことを教えてあげるって、もっと楽しい。

地域の人、大学、市民団体、学校、指導課などたくさんの「直接会える」メンバーがこのプロジェクトに関わっている。

ICTは遠くの世界と繋がれるだけじゃない。
デジタルはパソコンの中の世界じゃない。
ツールは子ども達が使うだけのものでもない。
近くの魅力にも気づかせてくれるし、手触りだってある。そして、作り手にもなれる。


深く、優しく、面白く。
デジタル図鑑さん(仮)も、南二小の子ども達もそんな風に育ってくれたらと思っています。

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