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第15話 ステキなママになっちゃった

「ワシと出会ってもうどのぐらいや?」

「えっとー、3ヶ月ぐらいかな?」

「ここまでどうやった?」

「すっごい偉そうだったよ?」

「誰がワシの話せえ言うてん。ちゃうがな」

誰も”ルソ夫が”なんて言っていない。

「ごめんごめん(笑)藤佳が私の話を聞いてくれることが増えてきて、毎日が楽しくなった!」

「ふんふん。ええ事言うやんか」

ここぞとばかりに踏ん反り返って鼻息をフンフンと鳴らす。

見た目が赤ちゃんなだけにかなり滑稽な光景だ。

「正直な感想だよ。嬉しい?」

「何でそうなったか分かるか?」

「無視しないでよ!」

「ええからええから」

「うーん、そうだねぇ」

そう言われてみれば不思議だと思う。

ルソ夫がうちに現れてすぐは確かにあれこれやる事が増えて大変だった。

ところが、しばらく経ってからふと気付けばルソ夫が来る前よりもはるかに子育てが楽になっている。

自分の時間だって以前より減ったわけではない。

それなのに毎日の過ごし方がこうも変わっていくのはどうしてだろうか?

「分からないかな」

「それはな、アンタが行動で『藤佳ちゃん、君を尊重してるで』って伝えるようになったからやで」

「そんちょう?って何だっけ?」

「えぇぇーーーー!!!」

「もう忘れちゃったよ」

「そういう問題ちゃうちゃう。辞書とは言わんからiPoneで今すぐ調べてくれ」

「うるさいなぁ。分かったよ」



「これなんて読むの?」

「これも知らんのかいな。『とうとい』ぐらい覚えてくれ」

「尊重。とうといものとして重んずること」

「分かったか?」

「『とうとい』って何?」

「マジか。自分マジか」

「私国語が苦手でさ」

「もうええわ!『尊いものとして重んずること』簡単に言えば『大切にする』ってこっちゃ」

「へぇ〜。また1つ賢くなっちゃった」

「どんな頭してんねん」

小声でそっと毒づいたのを私は聞き逃さなかった。

「なんだって???」

そんなルソ夫を私は睨む。

「子どもを尊重するっちゅう事は、1人の人間として見るっちゅう事やねん。そうする事で、その優しさに子ども側も答えてくれるっちゅうこっちゃ」

ちゅうちゅうちゅうちゅうウルサイ。

えらくキツイ関西弁もすっかり聞き慣れたもんだ。

「でも何でそれが尊重になるのか分かんないや」

「とりあえずワシの言うた事をこれからも守ったええねん」

「なんで尊重すると話を聞いてくれるの?」

「そら、自分のこと大切にしてくれる人は好きになるやろ?」

「そりゃあそうか」

「好きな人の話やった聞きたいやろ?アンタやったらNinKi Kidsか?」

「何で知ってるの!?」

テレビの方を指さすルソ夫。

テレビ台の引き出しに入っている大量のCD、DVDの存在を知っているようだ。
どこでもかしこでも勝手に見ないでほしい、

「NinKi Kidsが今ここに居って、『掃除洗濯今すぐせぇ』言われたらするやろ」

「いやぁ、無理だね。まず直視できないし」

「面倒くさい奴っちゃなぁ」

「普通、女の子はそうなるもんだよ!」

「まぁ大人も子どもも本質的なところは一緒やねん。子どもだって小さくても人間や」

改めてその通りだと感じる。
この一言の重みがすごい。

「もう『悪いぐうたらママ』は卒業やな」

「卒業!?本当に!?」

ルソ夫からそんな言葉が出るなんて。

3ヶ月でルソ夫とバイバイにできるなんて、私は世の母親の中でもかなり天才な方なのかもしれ…
「明日からは子どもにやらせなアカン事を教えたるからな」

「え?卒業……??居なくなるんじゃないの?」

「それは勝手な勘違いや」

なんだ、まだ続くのか。

「子どもにやらせる事って?」

「まぁ自分にはまだ分からんやろ。明日からのお楽しみや。ちょっと難しい事も入ってくるから覚悟しときや」

そう話すとルソ夫は自分のベットに戻り、横になってお菓子を食べ始めた。

「悪いぐうたらママ卒業か」

なんて語呂の悪い言葉だろう。

でもそう言ってもらえたのは嬉しくて頬が緩む。

なんだか体にパワーがみなぎってきてとっても気分がいい。

今夜の夕飯は豪華にいこうじゃないか!


22.頑張る自分を褒める

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