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第11話 イライラする日

ルソ夫が戸棚で生活するのが、とうとう我慢できなくなってきた。

ということで、ついにキッチン掃除を決行する。

藤佳は長時間放置できないので、悪いが掃除が終わるまではおんぶ紐で過ごしてもらおう。

まずはルソ夫の住み着いた吊り戸棚のドアを開ける。

「わぁ!何やねん」

私が無言で布団?を取り出すと、その上に座っていたルソ夫はクルンと一回転し、私の肩にぶつかってから床に転がった。

「うげ!」

すかさず私はデイソンのコードレス掃除機で棚を掃除していく。

「ちょっと!やめや!やめ!」

「……」

「アンタ何すんねん!お菓子隠す次はなんや!」

私からは何も話さずに作業を続ける。

「アンタとうとう頭おかしなったんやな!?ええわ、真っ向から勝負したる!」

「うるさーい!!」

今まで溜まっていた怒りを全部解き放ってやった。

「あっ。ちょっと。自分。あのな……まぁ待てってー」



ここぞとばかり思い切って綺麗に片付けてやる。

「分かった分かった。悪かったって」

「分かったならキッチンから出て行きなさい」

今日はルソ夫なんかに負けない。そう自分に言い聞かせた。

「引っ越すから許してくれ」

「何が??」

「もうキッチンでは寝泊りしません」

「じゃあ……いいでしょう」

やった!勝った。今日は私の勝ちだ。

「じゃあ今日からはここ」

「えー、ベビーベッド!?」

そう。こことは藤佳がつかまり立ちを始めるまで寝ていたベッドだ。

今はただの荷物置きになっていたが、ここに来て役に立つとは思わなかった。

「赤ちゃん扱いせんといてほしいなぁ」

「赤ちゃんで合ってるでしょ?」

「うーん……じゃあその代わり静かにしてな」

そう話すとルソ夫はベビーベッドに横になって、何語か分からない絵本を読み始めた。

こんな風にいつも過ごしていたのか。



この一件でスイッチが入った私は、次々と家事をこなしていく。

掃除に洗濯に食事のストック作りまで、あっという間に終わらせていった。

「はい。藤佳もオムツ履くよ。はい、やる!」

育児もキビキビだ。

「アンタな?」

急にルソ夫が起き上がって私に話しかけてくる。

「なに?」

「えらい意気込んどるなぁ。今日はスマイルがあらへんで。スマイルが」

「こんな日があってもいいでしょ?」

「まぁそう怒らんと。藤佳ちゃんには笑顔で!なっ!?」

「もー!静かにそこにいてよ」

さっきの件もあって、いちいち声をかけられるのがイラッとくる。

「藤佳ちゃんはロボットちゃうねん。人間ってのは笑顔でこそ愛情が伝わるねん」

「それで?」

「コミュニケーションあっての子育てや。作業ちゃうからな。だから1番大事なんはここ。相手を思う気持ちや」

そう話しながらルソ夫は自分の胸を思い切り叩いた。

「そんないっつも頑張らんでええねんて。そろそろ終わりにして、肩の力抜いて気楽に藤佳と遊んでみいな」

「え〜」

「一緒におることを楽しむんや。ほんなら自然と笑顔になるやろ?」

「藤佳ちゃんに笑顔で『あなたの事が好きですよー』って伝えるんや」

「なんか恥ずかしいよ」

「まずは肩の力を抜くところからやな。
はい!リラックスして〜」

ルソ夫が後ろから私の肩を前後に揺らす。

「そんな一生懸命やなくてええねん。適度に適度に」

なんだかルソ夫がいい奴に思えてきてしまった。

私はさっきの掃除が申し訳なくなってきた。

今度アイスでも買ってきてあげるか。

なんだか優しい私になれた気がした。

17. 頑張り過ぎず、いつも笑顔で接する

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