第17話 豪華なお出かけ!
「ぎゃーーーーー」
「ごめんね。やだよね。でも早く準備しないとなんだ!」
「ぎゃーーーーー」
「もうお友だちは駅に着いてるみたいだから早く行こ!ね?」
「どした!?朝からバタバタしてるやん。どっか行くんかいな?」
今日は児童館で知り合ったお友だちと横浜でランチする日だったのだ。
うっかりしていた私は今日のことを忘れていて、急いで準備することになってしまった。
藤佳が遊んでいたのを無理矢理着替えさせたからもう大泣き。
「ほら、上着着るよ。あー、こっち来てー。ほら、着るんだってば!」
「なーんや困っとんなぁ」
「靴履くよ!イヤイヤなの!?いいよ今は時間がないからお母さんやるねーごめんねー」
「無視せんといてくれー!」
「こっちは急いでるんだってば!」
「言うこと聞いてもらう方法、あるで?」
「助かる!よろしく!」
「ほんならルソ夫式、子どもに言うこと聞かせる裏技を授けたろう。それはな……」
「それって今すぐ聞いてくれる方法だよね?」
「……ちゃう」
「じゃあ後で教えてね。さよなら〜」ガチャン
「ちょっと待ちーや!」
ルソ夫には悪いが時間がなかったので話を聞かずに出てきてしまった。
「そんなんあるわけないやろー!」
玄関のドア越しにルソ夫の叫び声が聞こえてきた。
*
「まったくさー、今すぐ使えなかったら意味ないじゃんね?」
私のことを抱っこ紐からじっと見ている藤佳ももう泣いていない。
外の景色を見て、なんだかんだ落ち着いたようだ。
ランチなんかに行くのはすごい久しぶりで、そこは子どもが遊ぶスペースがあるらしい。
まさに数日前に短大時代の友だちに話したようなところだ。
今日会う友だちはそういったお店によく行くらしくて、色んなところを知っているみたいだ。
今回いい感じの場所であれば、次は短大の友だちと一緒に来るのもありだ。
*
「うわー、すごい広い!」
「でしょ?ここめっちゃ良くない?」
お店の中にこんなにも広いスペースがあるとは思っていなかった。
もっとこじんまりしたものかと思っていたが、普通に「遊び場」って感じだ。
「しかもめっちゃキレイですね!」
「料理も美味しいし最高だよ」
「わぁー、今度友だちにもここ教えます!」
「ここね、かなり人気だから来るときは絶対予約しな?」
「そうなんですか!?」
料理はまあまあ高めの値段。
それでもゆっくりできるし、多少泣いても騒いでも気にしなくていいなんて、天国みたいなお店だ。
藤佳は滑り台が気に入ったようで、ひたすら滑る方をハイハイで上ってはお腹をつけて足から滑るというのを繰り返していた。
滑り台は3つもあって、独り占めできたからそんな遊び方ができた。
これが一つしかなくて「藤佳、そっちからは上らないよ」なーんてなっていたら……考えるだけでも恐ろしい。
そんなこんなで初めて遊ぶものがたくさんあって、めちゃめちゃ嬉しそうだった。
おかげで私たちの話もよく弾んでいた。
藤佳は余程遊び疲れたのか、帰りの電車では起きる気配なんて全くないほど寝ていた。
たまにはこんなところに行くのも悪くないな。
「また行きましょうね!」
「次は違うところも教えるね!」
「はい!」
*
「それで、今日の朝話してた裏技って何だったの?」
夜になってからふと声を掛けた途端、待ってましたと言わんばかりに嬉しそうにこちらへ寄ってくる。
見た感じ話したくて仕方なかったらしい。
「なーんや、あんな事言うとってほんまは聞きたかったんやな?しゃあない、教えたろか」
「う、うん」
「よく大人は『この子は人の話を聞かへん』とか言うんやけどな?それって自分の意見を押し付けてばっかりで、子どもの話を聞いてない事が多いねんな」
「でも藤佳とかは話せないんじゃない?」
「その通り!でも、一生懸命どうにかして伝えようとする事あるやろ?」
「嫌なことがあったら私を叩くとか?」
「そう!それってまさに子どもの話やん?」
「話というか意思?」
「それを聞く事がはなしを聞いてあげる事に繋がるねんな」
「まずはそれを聞いたらいいのね?」
「そうや!」
「はい、質問!でもそれってわがままな子を育てる事になるんじゃないの?」
「そう!全部が全部話を聞くわけには行かへん。そこで大事なのが線引きや。どこまでがオッケーでどこからがアカンかっちゅう話や」
「そんなの人それぞれじゃないの?」
「せやな。だから子育て論は割れるんや」
「じゃあ決められないじゃん」
「アンタがこれまでやってきたのはルソ夫式や。今回もそれでいくからな?」
そう言われると恥ずかしい。
“ルソ夫式”って言葉自体が、いかにも世間に通用しなさそうな雰囲気で溢れている。
「それでどこで線引きするかっちゅう話なんやけど、生活に関わるルールとマナー、それから命に関わる事は譲ったらあかん。それ以外は基本的に受け入れてオッケーや」
「生活に関わるルールとマナー?」
「机の上に乗るとか食事中に立ち上がるとかがそれや。命に関わる事ってのは、道路に飛び出すとか歯ブラシ咥えたまま歩き回るとかな」
「でもそれ以外何でもなんて無理でしょ」
「そう。ここからが今日のポイントや」
「はぁ」
「例えば、どうしても許されへん遊びって最近何かあったか?」
「さっきはゴミ箱漁って遊んでたよ。それでゴミ箱を触れないように棚の上にあげたら、めっちゃ叫んで怒ってました」
「大事なんは叶える事じゃなくて、叶えようとする事なんや」
「ん?叶えるの?叶えないの?」
「ゴミ箱触るなんてそんなん汚いやん?嫌やん?」
「だから触らせなかったんだよ?」
「そしたら代わりを探すわけや。願いを叶えるための」
「代わり?」
「例えばいらん箱とかカゴ用意して、その中にゴミに見立てた丸めた紙でも入れとくねん」
「それで遊ばせるの?」
「そうや」
「まぁそれだったら散らかそうがひっくり返そうが関係ないもんね。でもうちの子だったら丸めた紙食べちゃうかも」
「それやったら紙やなくてボールにするとか工夫できるしな。まぁ超簡単な手作りおもちゃみたいなもんや」
「それなら藤佳も納得しそうだね!」
「そう。アンタ今はええ事言うたな。『納得』ってええ言葉やで」
「あ、ありがとう」
そうする事で『この人は話聞いてくれるええ人やから、自分もこの人の話聞こう』ってなるわけや」
「赤ちゃんにもそんな意識が存在するんだね」
「不思議やろ?」
「私と藤佳はどう?」
「そらもうバッチリやろ?」
「そう?ルソ夫は全然私の話聞かないから、私まだあなたの事信頼してないからね〜(笑)」
「なんちゅう言い方すんねん」
「あと人のもの勝手に食べるし」
「あー耳とお腹痛なってきたわ!耳塞いでトイレ行ってくるな!!」
「待ちなさーい!」
24.子どもの話、行動の意味を考える。
25.子どもの思いを叶える、叶えようとすることで納得させる。
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