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第18話 実は遊んでるんだよ〜

さっき私の母から宅配便で荷物が届いた。

再来週は私の誕生日なので、もしかしたら?と期待して中を開けてみる。

「おままごとセット……藤佳?」

なぜ急におままごとを送ってきたのかよく分からなかったので、お礼も兼ねて電話してみることにした。

「久しぶり!あのー、荷物届いたんだけどさ」

「元気!?届いた?喜んでもらえると思ってー!」

話を聞くと藤佳に1ヶ月遅れの誕生日プレゼントらしい。
さすがは私の母だけあってそういうところはテキトーだ。



「ありがとね!またそのうち遊びに行きまーす。バイバーイ!」ピッ

電話を終えてから、ひとまず全部箱から出して組み立ててみる。

コンプリートセット?と書かれていて、結構立派なキッチンまで入ったものだった。

マジックテープで留まるおもちゃの食べ物が入っていて、藤佳はひたすらにぶどうを舐め続けていた。

「藤佳ぶどう好きなの?(笑)」



「もぉ〜。こんなにぐちゃぐちゃにして。食べ物で遊ばないの!」

藤佳が食事した後はいつも床がぐちゃぐちゃに汚れてしまう。
片付けるだけで本当に一苦労する。

それに加えて藤佳が横から落ちたものを食べに来るから、より一層大変だ。

「お出かけしてベビーフードを食べてる時は綺麗に食べるのに。家だとこうなるのかい?藤佳ちゃん」

戸外では不思議なぐらい良い子になる。
友だちが「うちの子保育園ではすごく良い子らしいの」と話していたのは、こういう事なのだろうか。

「藤佳もそういうタイプの子?」

そろそろ食事のルールもちゃんと教えていこうと思っている。

いや、待てよ?
つい先日ルソ夫が”自分でできる事はさせる”って言ってた。

と言うことは、手で掴んでぐちゃぐちゃにしてでも自分で食べてもらった方がいいのか?

それとも食事は生活面だから、遊んでしまうぐらいなら私が食べさせた方がいいのか?

「ん〜??なんか色々と分からなくなってきたぞ?」

私1人では分からなくなって、ルソ夫に聞こうとベビーベッドを見てみる。

ところがルソ夫はいない。
と思ったらソファにいた。

しかもアイスを食べている。

「ん?なんや?そんな目で見てもアイスはやらへんで」

「違います」

まったく呑気な奴だ。

「なんでソファにいるのよ」

「ワシやっぱりそんなとこ無理やわ。それよりもカリカリ君のリッチシリーズは文句ないで。最高やわ!」

「当たり前のように自分のものとして食べてるけど違うでしょ?」

しばらくアイスを買うのは控えていたが、久しぶりに買って隠した途端にこれだ。

冷凍庫の奥深くに隠しているのをどうして見つけてくるのか。

「ねーえ。藤佳がご飯で遊ぶのはどうしたらいい?」

「そーなんか?」

「前に『できることは自分で』って言ってたからなるべく1人で頑張って食べてもらおうと思ってたんだけど、遊ぶぐらいなら私が食べさせた方が良いのかな?」

「見て!コイツらめっちゃオモロイねんで。サンドウィッチウーマン言うねん、知ってるか?見とってみぃ」

ルソ夫が見ていたのはここ最近好感度ランキング1位を取り続けている人気のお笑い芸人だ。

でも今はそんなのどうでもいい。

「おい!人の話を聞け!」

そう言いながら私はルソ夫のほっぺを両手で思い切り潰してやった。

「はひ。ほへんなはい」

「まったくもう。人が真面目に話してるの!」

「それでなんやっけ?」

結局聞いてなかったのか。



「あー。そうやなぁ。片付けなぁ。大変やわなぁ」

「いや。そこじゃなくて自分で食べてもらうのか、私があげた方がいいのかどうなの?」

「ちゃんとワシに前言うた事思い出しながらやってるやないか。えらいなぁー」

「だーかーらーー!」

「分かった分かった。そない怒りなや」

「もう。バカにしないでよ」

「じゃあ遊ぶって何をするねんな」

「さっきはみそ汁の豆腐を握り潰したし、よくやるのは床にいらないものを落とすんだよ」

「なるほどな」

「おままごとで遊び過ぎたのと関係あるかな?」

「あんまり関係ないんちゃうか?投げて遊ぶとかしてたら別やけど。でも、それホンマに食べ物で遊んでるんか?」

「え?」

「例えばこう思ったらどうや?豆腐って柔らかいやん?掴むの難しいやん?上手く掴めんと潰してまうとか?」

言われてみれば、豆腐の時は毎回潰しているかもしれない。

「実は掴めないだけ??」

「床に落とすのだって、『美味しくないからいらんよ』って一生懸命伝えようとしとったら?」

「そういう見方もできなくはないけど」

「ほら、これも藤佳ちゃんの表現かもしれへんで?考え方一つでここまで受け止め方が変わるねん」

「遊んでるってわけでもないのかな?」

「その通りやで。あとは初めて見る食べ物なんかはよく潰して『これなんや?』いうて試してる事も多いな」

「どうして?」

「大人は口に入れて味とか舌触りで『どんな食べ物なんかな?』って判断するけど、子どもはそれを手でも確かめるんや」

「ふーん。じゃあ手づかみで食べる事って良いんだね?」

「せやな。豆腐だって潰した後に食べるんちゃうんか?」

「潰してから……そうね、最後は食べるね」

「やろ?確かめながらのそれも食事の一部や」

「力加減が鍛えられるね」

「そうやん。絹ごし豆腐なんか潰さんと食べてみいな。大したもんやで」

「ルソ夫ってご飯についてのあれこれが多いよね?なんかご飯って奥が深いんだね」

「食事は生活面の中で番大事やからな。食事を制するもんは子どもを制するやで」

「それすごいね!なるほどーって思った!」

「ごめん。今思い付きで言うたわ」

「このやろー!」


26.食材である程度遊ぶ事も食事の一環だと捉える
27.手づかみ食べをさせる

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