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第2話 朝起きてから忘れるな!

ガサガサと何かを漁る音が遠くの方で聞こえてくる。

私にとっての目覚ましだ。

「あぁ〜〜。藤佳もう起きてたの?」

眠い。眠すぎる。

かすむ目を擦りながら時計を見ると、まだ朝の6時過ぎだ。

「今日も早いよ…はぁ」

藤佳は落ち着くどころかどんどん動きが激しくなっていく。

どうやら藤佳の頭元に置いてあるクマの人形と楽しくプロレスを始めたようだ。

ただ一人で遊んでくれているようなので、私はしばらく寝転がってボーッとして過ごす。

寝るか寝ないかのこの微妙な状態が私にとって幸せなひと時だ。



そんな時間を壊しに怪獣がやってくる。

「顔には乗らないでぇ〜〜」

藤佳を顔から下ろして起き上がる。

あっという間に6:40だ。

7:00になると同時に布団を片付け、藤佳を抱いてリビングに移動する。

「今日も朝から本当に元気だよ。ご飯の準備してくるから遊んで待っててね」

そう話してキッチンの方へ向かった。

まずは藤佳の朝ごはん。

ストックしてある藤佳用の冷凍ご飯を取り出そうと冷凍庫に手をかける。

「自分いつになったら挨拶するねん!」

「はぁ!!びっくりしたぁ……お、おはようございます」

急に冷蔵庫の上から飛び降りてきたルソ夫に驚き、心臓が口から飛び出そうになる。

心臓が口から出るだなんて、体の感覚をなかなか的確に捉えた表現だ。

「何言うてんねん。ワシちゃうちゃう。藤佳ちゃんにや」

「えぇ?」

「何が『えぇ?』や。ワシそんなおかしな事言うてへんやろ??」

少しムッとした気持ちを抑えて丁寧に聞いてみる。

「なんか忘れちゃうというか、ずっと一緒にいるし、ついつい流しちゃうんだよねー」

「挨拶流すのは悪いぐうたらやで。ほんならな、挨拶って何のためにするんや?」

「えぇ、それは…」

改めて質問されると結構難しいことを感じさせられる。

「あっ!心と心が通じ合うためのなんか…要するに……あれでしょ??」

こういう哲学?的なやつは、いくら考えても答えなんかちっとも出てこない。

勢いに任せて話し始めたが、結局のところ何も思い付いてなんかいない。

「挨拶っちゅうのはな、時間を知らせるためのチャイムや!」

「チャイム??」

「今バッチシ決まったな?めっちゃええやん?」

「はぁ」

「朝昼夜もそう。寝る時間起きる時間にご飯の時間。赤ちゃんには何でも挨拶で時間を知らせてるんやで?」

「あぁ〜。ステキな表現だね(笑)」

「そんな事言うても何も出えへんで!!」

褒めた途端にルソ夫がニッコニコになる。

どうやら少しでも褒めると簡単に天狗になるみたいだ。

「うんうん!いい感じ!あとは人のこと驚かすのだけやめてもらえれば文句無いんだけどなぁ〜」

「何をさらっと関係ないこと話してんねん」

そこは気付くのか(笑)

「ところで、さっきはどこから出てきたの?あれすごいびっくりするからやめてほしいよ」

「あぁ、ワシ自由に現れたり消えたりできるねん」

「なにそれ、すごいね。じゃあ今ここで消えてみてよ」

「あのなぁ、アホ言うたらあかん。そんなん人に言われてやるようなもんとちゃうねん」

ルソ夫の綺麗なおでこにグッとシワが寄る。
ちょっと怒らせてしまったようだが、そんな事は気にしない。

「えー、いじわる……というか、なんでここの周りはカスみたいなのが落ちてるの?」

「え、え?そんなことあらへんやろ。気のせいや気のせい。藤佳ちゃんもお腹空いてるみたいやし、はよご飯用意したらなあかんで」

そういえば今日の朝はガサガサと袋を触るような音が聞こえていたのを思い出した。

あれ藤佳じゃなくて、ルソ夫か?

「ルソ夫くん。何か隠してるでしょ?」

「なに言うとんねん。あっ!やばい!藤佳ちゃんが落ちてるチラシ食べとるで!」

「え!?それはまずい!」

急いで藤佳のいるリビングに駆け寄るが、いつものようにガラガラを口に入れながらテレビを見ている。

「騙したなー!」

すぐにキッチンに戻るがルソ夫の姿はない。
さっきの床に落ちていた食べカスを拾ってよく見てみる。

これは…チョコノパイ?
私がこの前買っておいたお菓子だ。

勝手に食べたのか!?

慌てておやつの入っている引き出しを開けてみると、パッケージが開けられていて、3つ減っている。

ここで食べていたようだ。

「コラ!どこ行ったー!」


2.挨拶をする

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