見出し画像

第20話 おもちゃだけがおもちゃじゃないよ

最近の私は見たいテレビがあると床に座り、ソファに寄りかかって見ていることが多い。

これではソファの意味がない。
というか、私だってソファに座りたい。

でもルソ夫がソファを占領しているから簡単には座れない。

いや、いつまでもこのままではルソ夫に舐められてしまう!

今日は重い腰を上げてルソ夫をどかしてやろう。

「もう、ベビーベッドに戻ってよ」

「無理や。ワシのスペースはここや」

「ベビーベッドをテレビの隣にしても…」

「アカンな」

どうしてもベビーベッドには戻ってくれないようだ。

しばらく考えた私は決断を下す。

「じゃあここ」

私はルソ夫を抱き上げてソファの背もたれのところに乗せた。

我が家のソファは後方が壁についているので、前に転がってこなければ落ちる心配もない。

「きぃー!ワシのこと馬鹿にするなー!」

「あぁ〜!!久しぶりのソファは気持ちー!」

今日は藤佳が1人でよく遊んでくれている。

これでこそゴロゴロが捗るといったところだ。

毎日がこうだったら、なんて素敵な子育てになるだろうか。

「どうせしょーもない事考えてるんやろ?」

「え???」

背もたれの上は奥行きがあまりない。

いつものうつ伏せではなく、手に頭を置くその姿は休日にテレビを見て過ごすお父さんのようだ。

私のこともテレビ感覚で見下ろしているのだろうか?

「でも最近ようやってるわ。たぶん自分の行いをどっかで妖精さんとか何かがよぉ〜く見てくれてるんやで」

全く。今日も調子の良い発言ばかりだ。

「ほんでも今日はよく1人で遊んでるな」

急に小声になるルソ夫。

散々今まで人のことを驚かせたり騒いだりしていたのに、急に藤佳の邪魔にならないように配慮したみたいだ。

「そうなの。やっぱりその日の気分によって変わってきちゃうのかね?」

「そうや。子どもは気分屋やで」

急に胸を張ってまた声が大きくなり始めた。

子どもの話は好きなようだが、声を小さくして話していた事を忘れてしまうあたりがやっぱりルソ夫も子どもだ。

「でもな、今はいつもとちょっと違う遊びしてるんやけど、何が違うか分かるか?」

「違う遊び!?」

何の話だ?

「うーん、難しい。何だろう?」

「チッチッチッチッチッチッチッチッ…」

「ちょっと!やめてよ」

「ブブー!自分ぜんっぜん子どものこと見てへんな」

「えっ!?」

「背中側からじゃなくて、正面からよう見てみ?」

「うーん。あれ?おもちゃで遊んでない?」

「そうやん。藤佳ちゃんさっきからずーっと床に落ちた髪の毛を拾おうとしてるねん」

ずっとおもちゃで遊んでいるとばかり思っていたもんだから驚いた。

「え、もしかして今テレビ見てる間もずっと?」

「そうやで」

「わぁー。食べなくて良かったぁー」

私は藤佳を抱き上げ、手をパンパンと払った。

「何するねん!」

「だって食べたらダメでしょ?」

「横で見とって拾えた時に『ちょうだい』言うたらええねん」

「なんでわざわざそんな事しないといけないの」

「アンタな、藤佳ちゃんは髪の毛がおもちゃやねん」

「おもちゃ!?」

「アンタ見たやろ?あの指先を一生懸命使って髪の毛をつまもうてる姿を」

「そうだけど汚いでしょ」

「何言うてんねん。どうせアンタの髪の毛やろ」

「うるさーい!」

「でもすごい集中しとったやろ?」

「ね?指先ってそんなに集中するんだね」

「そうや!大人かて一緒やからな」

「と、言いますと?」

「カニ食うてる時は静かになるやろ」

「ああ、たしかにー」

「あ、アンタそれダジャレやで。さぶいわぁ〜」

「やめて!ホントそんなんじゃないから!」

「いやいやめっちゃおもろいで!!あっはー!」

よく分からないツボにハマったらしい。

「はぁ〜あ。ふぅ。まぁ何はともあれ、指先の運動は頭にええねんで」

「じゃあこれから毎日髪の毛を拾わせたら良いんですか?」

「なんやそれ。頭の中どないなっとんねん」

口にした瞬間に自分でも適当過ぎる事を言ってしまったと反省した。

「指先使うことな。色々あるで?1番身近なものやったら、自分がいつも使ってるバッグのファスナーを開閉させたええねん」

「こんなのでいいの?」

「ファスナーの持ち手って意外と小さいから、藤佳ちゃんみたいなちっちゃい子でも手の平では掴まれへん。指先使わな無理やわな。あとは新聞、広告をちぎりとか」

「なーんだ。すごく簡単だね」

「でもな?それで遊んでる間は『手を挟んでしまわへんか?』とか『口に入れへんか?』とか、自分がずっと横について見といたらなあかんねんで?」

言われてみればそりゃあそうだ。
指先遊びさえ用意しておけばずっと遊んでくれるなんて、そんな簡単にはいかないはずだ。

「そうだよね。それじゃあ結局いつもと同じか」

「そこでやな!!」

急に大きな声を張り上げた。
自分の話したいここぞというところで大きな声が出てしまう癖らしい。

「知育玩具があるねん」

「は、はぁ」

「なんや情けない返事やなぁ」

「知育玩具って1人で使ってても安全やねん。大人が見てなくてもええねん」

「おぉー!たしかに、安全性は確保されてるね」

「そうや。自分が見る時間ないと思うんやったら、そういうのを使うのも手やで」

「じゃあ、さっそく買いに行きますか!」

「なんや自分えらい足が軽いな」

「私、楽するための努力は惜しみませんよ」

「(なんか本末転倒やな。だらしないんかきっちりしてるんか、よう分からへんわ…)気ぃ付けていくんやで」

「行ってきまーす!まったねー!」

「連れ回される藤佳ちゃんも大変やで」

29.指先の遊びを取り入れる

頂きましたサポートは事業の運営に使わせていただきます。