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第12話 野菜なんてだーいっきらい

最近藤佳は食事に飽きてくると食べ物を投げることがある。

本当に困っているが、食事マナーに関わるのでしっかりと注意するようにしている。

「ご飯投げるのはいけない!もったいないでしょ」

ところが、注意するとその後は機嫌を損ねて食べなくなってしまう。

「えー藤佳ぁ、食べてよ。いらないの?」

今日も藤佳はやっぱり怒ってしまった。
こうなると、もう一口も食べてくれない。

「じゃあもうご飯おしまいにするからね」

そう伝えて、空いた食器だけを片付ける。

そのうち気が向いて食べてくれると期待して残したものは置いておこう。

ところが、そんな気持ちが伝わることもなく、藤佳は目の前に残されたご飯を手にとって投げようとする。

「おしまいだね。ごちそうさまでした」

食べ残しはもったいなくて捨てられない。

最終的には全部私の胃袋へと入っていく。



「なんか最近ちゃんとご飯食べてもらえてないなぁ」

そう言いながら、私はルソ夫の方をチラッと見る。

ルソ夫はテレビに夢中だ。

「ご飯食べてくれないと困るよ?藤佳」

「ん、なんや?聞こえるようにわざと大きな声で言うてるやろ?」

「いやいや、そんなことはないんだけど」

こういうのってバレるととっても恥ずかしいやつだ。
穴があったらはいりたい。

「それでなんや、あんまりご飯食べへんのか?」

「そうなの。食べ飽きると目の前のものを投げようとするし、注意したら怒って食べなくなるしで」

「手が空いてやる事なくなると、何かしらやりたくなんねん子どもって。ワシもそうやねんけど」

なるほど〜。なんて思いつつ唐突な告白をしてきた。

ついに自分が子どもだと言うことを認めた?みたいだ。

「食べないと大きくなれないと思うから、注意したくなるしさ」

「全く何も食べてないか?」

「白米だけは全部食べたけど」

「そうか。その白米の中にもビタミン色々入っとんねん」

「と、言いますと?」

「栄養が足りひん思うかもしれんけど、全く食べてないわけではないから、意外と大人が考えるほど深刻ちゃうねん」

「そんな簡単な考えでいいの?」

確かにそう思えばそこまで心配しないで済むかもしれないが。

「あとは成長曲線とにらめっこやな。母子手帳あるか?」

「うん、ここに」

引き出しから出してきてルソ夫に渡す。

「どれどれ……なんやアンタ、グラフ一回も記入してないんか」

「あは、ごめんなさい」

「何が『あは。』やねん!今から書くで」

「ボールペン持ってくる〜」

久しぶりに走った。
まさかそれがボールペンを取るためになるとは思わなかった。

「えーっと、体重8.5キロで身長が72センチか」

「え!?なんで分かるの?」

「そんなもん見た分かるやろ」

マジか。すごいな。

「縦が体重で横が身長な」

「こうやって数字を見ていくと……ほら!今のところ正常範囲の中やから、とりあえず問題なしや。これがはみ出るようやとアウト!」

「たったこれだけ?」

「簡単やろ?」

「うん」

「この先好き嫌いとか偏食とか出てくるやろうけど、これ参考になるから覚えとき」

「ネットで調べても出てきそうだね」

「アンタiPone使てるやろ。アプリでもあるで」

「へぇー、今どきって感じ」

「だから日々使えるとええわな」

「それならいけるかも。でも家では計れないから毎日はちょっと難しいね」

「大体の重さやったら簡単に計れるで。アンタが藤佳ちゃん抱っこして体重計に乗ったらええねん。そこから自分の体重を引くんや」

「はぁ〜なるほどねぇ」

「まぁでもご飯なんかそのうちすぐ食べるようになるわ。しばらくなら白米とみそ汁の汁しか飲まんでもそれだけで大きなるし、なんとかやっていけるもんやで」

「人間の体って不思議だよね」

「そうやな」

「だったら最初から白米だけあげ…」

「とかは絶対にあかんからな」

「えっ?」

「えっ?普通にアカンやろ」

「そ、そんなの嘘に決まってるでしょ?」

「変な汗出てるで」


18.食べなくてもそこまで気にしない

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