あの日僕はバチョフになった。
冬の寒さも残しつつ、春の足音も感じる2月の終わり、僕は新幹線に乗っていた。
僕の住む島根県には新幹線は通ってない。乗り慣れていない垂直の座席に苦戦しながらも、どうにかして心を落ち着かせようと、そして、今更見ても意味があるかもわからない化学の教科書を見ていた。
この1年間島根県特有の"補習科"という簡単に言うと高校4年生として浪人していた。
1年間制服を着て、いわば"コスプレ"状態で高校に通い、在校生からの嘲笑を受ける日々。
YouTubeも見なければ、ほぼ全ての娯楽を断ち切った1年間。1週間に一度だけ深夜番組"渋谷Deep A"のみを心の支えとして苦しんだ日々からもこれでオサラバだ。
そんな事を考えてながら新幹線から見る景色は、どんどん、どんどん山の中に入り、田んぼしか見えなくなってきた。
おそらく周りの受験生らしい集団から『おいおい、めちゃくちゃ田舎じゃねーか…』いう唖然とした、なんとも複雑な心の声が漏れる中、田舎で育った僕にはどこか安心感を与えてくれた。
これがこれから4年間過ごすことになるかもしれない"町"の第一印象だった。
受験は、出来たのか、出来てないのかわからない謎の感触のまま終わり、一抹の不安を抱えながら、"町"を去った。
我が家の『国公立以外行ってはいけないし、受験もしてはいけない』という方針のため、何とかして二浪は避けるために受けた中期試験の兵庫県立大学の帰りに僕は合格を知った。
新幹線の中で嬉しい気持ち、安堵の気持ちの丁度6:4の息を吐いた。
僕は広島大学に合格した。
4月、大学生活を始めるため広島に引越した。
広島大学は広島県東広島市の西条にある総合大学である。
西条という土地は盆地であるために朝晩が死ぬほど寒く昼は暑いという厄介な気候の町だ。
4月でもPコートが必要な寒さの中、唯一持っていたユニクロのチェックシャツ着て僕は大学のオリエンテーションを受けていた。
島根県の信号機の無い町で生まれた僕は、見たこともない沢山の人混みに、動揺しながら理学部の講義室の席についた。
前では、関西弁のパーマ男(ほぼ関西のおばさんみたいな風貌)が威勢の良い声で、"まんがな"とか"さかいに"みたいなザ関西弁を言って、笑いを取り、周り300人くらいから注目を受けている。
この人とは仲良く慣れないだろうなぁと思いながらカバンの中から筆箱を取り出していると、横に座っていた爽やか成田凌風のイケメンが声をかけてきた。
『おれ、カイっていうのよろしくね!』
大学で初めて出来た友達だった。
初めて出来た友達のカイは嫌味がないホントにザ良い人で、数学科らしい。
生物科であった僕は、この後各学科事で自己紹介を兼ねた説明会があるという事でカイと別れた!
『生物科の人ーーーー!こっち集まってー!』
おそらく一個上の先輩だと思われる島根県では見たことも無い金髪のザ大学生サークル長風の女子の先輩に呼ばれ、面食らったまま先輩について行く。
生物科の自己紹介は、なぜか大学の横にある寮の和室で行われるということで約40人で一斉に移動し始めた。
あの子可愛いなぁとか、めちゃくちゃオタクっぽいよなぁ、とか思ってたら、アイツがいた。
オリエンテーションの関西弁パーマ男!!!
うわ!!!一緒かよ!!!
とたぶん全員が思いながら、めちゃくちゃハイテンションボーイとか、たぶん昨日の内に髪染めたボーイ、りけじょチェック女子などバラエティに富んだメンバーに囲まれながら、和室についた。
『和室に入ってーーー』
金髪のザ大学生サークル長風女子の声が響く。
和室を開けるのそこには、20人くらいの集団!
先輩だ。
何が始まるのか!?!?
と思った次の瞬間、金髪サークル長風女子の声が響いた。
『今から皆さんにあだ名をつけまーーーーす!!!』
一同『!?!?!?』
『広島大学では、公式行事として入った時にあだ名をつけます!
その付けたあだ名で4年間過ごしてもらいます!
ちなみにあだ名定着しすぎて、本名知らない人いっぱいいます!笑
そんな私の名前は、なちゅでーす!』
…なんだー!!!!!!
その千と千尋的なやつわ!!!
あだ名で4年間過ごす???
じゃあ、めちゃくちゃ重要じゃねーか!!!
どうやってあだ名着けるんだ!?
どうやって!?
『じゃあ、最初の人立ってー!自己紹介してーーー!』
恐る恐る最初の入学生が立ち上がる
「あっ、はじめまして!さとうりょうたです!
よろしくお願いします…、
えっと、高校の時は写真部に入ってまし…」
と言った瞬間、後ろにいるつり目の先輩が言った。
『フラッシュ!!!』
一同「(えっ!?!?!?!?)」
『だから、フラッシュ!
写真部だったんでしょ!?
って事は、写真、カメラ、フラッシュ!
今日から君はフラッシュだ!!!』
なんだーーーそれー!!!!!
雑すぎるぞーー!!!
たぶんみんながそう思いながら、次々と、
『君はケンシロウね!なんでかって?今おれがパチンコ北斗の拳ハマってるから』
!!!?
というように、本名はエラユウザブロウなのに謎にケンシロウと着くタワシ男や、可愛い女の子には昆布系の名前をつけるという事だけで"めかぶ"という名前を付けられたイマドキ女子。イヌとネコを代々付けているという事だけでイヌ2!(いや、ターミネータ2みたいに)や、ゆめタウンというショッピングモールが大学の近くにあるからという理由だけでゆめたと付けられた長崎ボーイ。
などなど続々とあだ名が付けられていった!!!
ちなみに関西弁パーマ男は、「一個上の先輩にA作さんって方がいるから次はB作が作りたい」ってなって、B作じゃつまらんから、Bに似てるβ、ベータだ!ってなった!
……なんじゃそりゃ!!!!!!
『じゃあ、次!そこの君!』
そんなこんなで遂に僕の番が来た!
これは先に対策を打って置こう思って、僕はあだ名の話をした。
「こんにちは!えっと、高校までは野球部をしてました。
昔から良く外国人に似てるって言われてて、
小学校の時のあだ名が、ホームアロンのケビン、
中学の時のあだ名が、ウエンツ
高校の時のあだ名がロシア二等兵です!
よろしくお願いします!」
……
すると、サークル長風女子先輩が
『あーーーー!!!確かに、めちゃくちゃ日本人離れしてるねぇー♪
じゃあ、どうしようかっ!………
うーん…。
……
チョフ…
バ、チョフ…。
バチョフ……。
あっ、バチョフ!!!
バチョフ良いじゃん!!!』
……悪く無いなぁ
この日僕はバチョフになった。
※少し前ですが初めて友達になったカイくんの結婚式二次会に参加しました。感慨深い。そして、パーマ男は関西出身じゃ無い事も判明しましたが今もすっごく仲良しです。
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