人生が変わると思った日
『さぁて、視聴者投票Dボタンの投票結果は!?
1位、バチョフ!2位、3時のヒロイン!3位、エル・カブキ!
バチョフに3票入ります!!!』
心臓の鼓動が早くなる。
もしかしたら、人生が変わるかもしれない。
そう思った。
それほどのキラキラした世界だった。
何もテレビに出れないまま、劇場でも1番下のクラスのまま、陽の目に全く当たらないまま、芸歴3年目を迎えてしまった。
元々そんなに焦るタイプでも無いが、同期が少しテレビに出始めたりして少しだけ焦ってきた。
そんな3年目の6月、バイトに向かって駅に走っていると、スマートフォンが鳴った。
相手は若手班のマネージャーさんからだった。
僕は何だろうと思いながら恐る恐る出ると、
『あぁ、バチョフ?24日の月曜日って空いてる?』
と急に聞かれた。
僕は、"また、何かお手伝いの案件かなぁ。"と思い、一瞬返事に迷った。
何故なら、このバチョフ、1年目、2年目とお手伝いに行き過ぎて、完全に暇な人だと思われている。
だから、お手伝いの案件がめちゃくちゃ入ってくる。
いわば、バチョフにお手伝いフッておげば、大体何とかなるだろう!の芸人である。
しかし、バチョフ、3年目になって決めていたことがあった。
「お手伝いを減らして、もっと自分に時間を使おう!」
なので、一瞬返事に迷ったが、今まで慣れているイエスマン気質が抜けないせいか、一瞬間があったが、"空いてます"と答えてしまった。
何のお手伝いかなぁっと思っていると、マネージャーさんが、
『じゃあ、24日月曜日の19時からNHKのEテレの沼にハマってきいてみた出演頼むな!
ネタやってもらうから!生放送で!
あと、3時のヒロインも一緒だからな!
じゃあ、また連絡するー!』
ツー、ツー、ツー。
…。
……。
………!?!???
何だと!!!
初テレビ出演!?
NHK!?
Eテレ!?
ゴールデン!?
しかも、生放送!?
どういうこと!?どういうこと!?
もう、バチョフの脳内まさに"パニチョフ"状態である!
意味がわからない!
これは現実なのか!?
現実!?
ベタにほっぺをつねるが、痛い痛い!
現実だ!!!
バイトに向かう京王線の電車の中でバチョフは脳内グルグルしながら、何も頭に入ってこなかった。
こうして、初めてのテレビ出演が決まった。
Eテレの「沼にハマってきいてみた」は、
2018年の秋からEテレでレギュラー放送されているバラエティ番組である。
趣味にどっぷり浸かることを「沼にハマる」と言うことから、様々な"沼にハマった"主に10代の若者の世界を掘っていく番組である。
MCはサバンナ高橋さん、桜井日奈子さん、松井愛莉さん。という錚々たるメンバーに加えて、ゴールデンタイムの放送という、中高生版天才テレビくん的な、いわば、イカツイカツイ番組である!
そんなイカツイカツイ番組に芸歴3年目のテレビに一度も出た事ないバチョフが出演することになった。
しかも、生放送でネタをやる。
あと、もっとビックリさせたのが、僕自身オーディションを受けたわけでもない。
バチョフが指名されたのだ。
この時点で訳わかめなのだが、
この番組、30分の生放送を3組の芸人にスポットライトが当たるめちゃんこ出演時間が長い。
企画は『第三回沼芸人ナンバー1決定戦』という企画で、過去に二回行われている企画で、
関東の大学のお笑いサークルの部員の皆さん、通称ハマったさん。が、これから来るであろう芸人を紹介し、そのネタとPRを番組視聴者によるDボタン投票で優勝者を決めるという風になっていた。
しかも、過去第一回大会の優勝者は、あの、お笑い芸人なら誰しもが知ってる『虹の黄昏』さん、
そして、第二回大会の優勝者は、天才of天才の『サツマカワRPG』さん!
出ている、芸人さんも、若手お笑い界のホープばかりで、今回一緒に出る芸人さんも、マイナビラフターナイトの帝王で時事漫才師の『エル・カブキ』さん、そして、今は見ない日は無いTHE W優勝者で事務所の先輩でもある『3時のヒロイン』さん。
そこに、バチョフ。
ん?
バチョフ!?
まじでハテナである!
後々調べたら、今、沼芸人ナンバー1決定戦は第5回まで行われているのだが、Wikipediaに名前が載っていないのば、僕、バチョフだけ。
まさに無名of無名のバチョフが何故かキャスティングされた。
まぁ、そんな感じで、フワフワしたまま、本番の2週間ほど前に打ち合わせに向かった。
打ち合わせに行くと、
3時のヒロインさんも一緒にいて、順番に番組のディレクターさんと話し始めた。
あのネタ良いですよね?
どのネタで行きましょうか?
とか、順調に3時のヒロインさんの打ち合わせが終わった。
そして、次はバチョフ。
『えっーと、バチョフさんは普段どんなネタをされてるんですか?』
そりゃそうだ!
情報が何一つ無い。
じゃあ、何故選ばれたんだ。
と思っていると、
『この番組って、大学のお笑いサークルにアンケートを送ってオススメの芸人さんを聞いてるんですけど、
そこでバチョフさんの名前が挙がりまして、
この子わかりますか?』
と言われて、僕を推薦してくれた子が、まさかの僕が一年目の時に劇場に観に来てくれていた子だった。
当時その子は高校生で、偶々僕が手売りのチケットを売ってたり、キャラバンというビラ配りをしていた時に、話したりした事があって、
僕の事をイチオシって感じでは無いけど、ピン芸人の中では面白いと思ってくれてるという感じだった。
その子が高校を卒業して、お笑いの裏方がやりたいという事で大学のお笑いサークルに入っていて、僕を推薦してくれたそうだ。
『実は、バチョフさん無名すぎて、めちゃくちゃ迷ったんですけど、エピソードがめちゃくちゃ良い人だったので、Eテレにも合ってるし、それで決まりました。』
そんな事ある?
僕が近所の小学生と仲良かったり、出待ちの対応の話を聞いて、それが良いってなって、決まったらしい。
まさか2年越しにこんな事になるなんて。
ほんとにびっくら仰天である。
そんなこんなで喋っていると、
『バチョフさんって、もしかして、3年前のAKBINGO!のNSC潜入した時いました!?』
まさかの養成所時代に一回撮影があったAKBINGO!のスタッフさんだった。
こんな偶然もあるのかと不思議な縁を感じた。
そんな事を思っていると、
『あのー、ネタはどうされます?』
やはり、問題はそこである。
しかし、バチョフは絶対にやりたいネタがあった。
チョフチョフタイム!
これはバチョフが2年目の年末におろしたネタであり、歌ネタで、
年末の新ネタライブでおろした時にこれまでに無いくらい良い感触、良い反応を貰ったネタでもあり、
同期の今は作家をやっている板倉くん、そして、おとうふの山中さんと一緒に考えまくって作ったネタで、そして、曲自体も、偶々お手伝いしまくり時期に知り合った、作曲家の佐々倉有吾さんに作って貰った大事なネタである。
しかも、自分で言うのも何だが『めちゃくちゃポップ』である。
まじでポップ!
そんなチョフチョフタイムを見せた。
『明るくて良いですね!!!これでいきましょう!』
2つ返事だった。
『でも、素材がなさすぎるので、バチョフさん後2本ここでネタやってください!』
とまさかのその場でチョフチョフ白書とほっぺとほっぺの運動会の二本のネタをした。
そんな感じでめちゃくちゃ緊張し打ち合わせだったが、
初めてのテレビということを汲んでくれたスタッフさんがめちゃくちゃ「がんばりましょう」と励ましてくれて、何だか行けそうな気がしてきた。
それからの2週間は劇場では、チョフチョフタイムしかしなかった。
絶対に失敗出来ないと何度もやった。
何となく、賞レースの気持ちがわかった感じ。
そして、緊張感を増しながら、当日を迎えてしまった。
初めてのNHK。
まじでデカイ。
そして、雨。
色んな不安を抱えながら、3時間前の16時にロビーに着いた。
不安な気持ちでいると、エル・カブキさんがいるので挨拶した。
エル・カブキさんは少し怖いイメージだったが、めちゃくちゃ優しく、そしてリアルキッズ安田さんの話で盛り上がったのもあって、そこで少しだけ安心した。
そして、楽屋に行った。
1人だけの楽屋。
うわー!テレビ局だぁ。
なんて思いながら、スタッフさんがここでリハーサルまでの時間お待ち下さいと言われた。
ソワソワしながら、隣の楽屋に3時のヒロインさんがいらっしゃると聞いたので挨拶しにいき、普段劇場で何回かご一緒させて頂いてたので、そこでお話して、気持ちがほぐれたのだが、
また、楽屋に帰ると、ソワソワする。
何故なら、3時のヒロインさんはマネージャーを含めて4人。
エル・カブキさんもマネージャーを含めて3人。
そして、バチョフはマネージャーもいない1人。
1人。
そう1人なのである。
1人で不安な気持ちで楽屋にいると、ノックが聞こえた。
扉を開けると、そこにはまさかの朝日奈央さんがいた。
『朝日奈央です。本日よろしくお願いします!』
まさかの朝日奈央さんから楽屋挨拶にこられた!
凄すぎる!
良い人すぎる!
そして、ブラウン管の中の人がいる!
と思うと同時に、少し我に帰った。
『もう、どうにでもなってしまえ!』
リハーサルの時間が来た。
NHKはしっかりリハーサルをやるらしいので、ネタをすることになった。
そこで照明きっかけとかを確認する。
バチョフの時間が来た。
とりあえず、リハーサルで楽しんどこうと思いっきりやった。
そしたら、ウケた。
リハーサルってこんなにウケるの?って思った。
多分、前の3時のヒロインさん、エル・カブキさんに比べてのギャップがありすぎてウケたのだが、
これが励みになった。
そして、台本が渡されてバチョフは3番目にネタを披露する事に。
何だか行けそうな気がする。
そして、落ち着いた気持ちで本番を迎えた!
かと、言って本番は
初めての生放送!
初めてのゴールデン!
初めての地上波全国!
そして、何よりも初めてのテレビ!
緊張しないはずがない。
袖で待機していると、プロデューサーの方が近づいて来て、耳元で言われた!
『バチョフ!楽しんで行こう!!!』
本番が始まった!
オープニングは、MCのサバンナ高橋さんと桜井日奈子さんの漫才で始まり、全員集合した。
開口一番高橋さんが、
『てか、バチョフって誰やねん!』
このフレーズで会場がウケた。
ここでめちゃくちゃやりやすくなった。
「緊チョフ、やばチョフなんですけど、体チョフは、絶好チョフなんでがんばチョフします!チョフチョフ!!!」
『こういうヤツは大体、ハネルかめちゃくちゃ失敗するかのどっちか』
高橋さんのフレーズで会場がどっと湧く。
完全に色んな人が僕を盛り上げてくれてる!
めちゃくちゃ良い雰囲気でネタゾーンに入った。
バチョフは3番目。
3時のヒロインさん、エル・カブキさんがめちゃくちゃしっかりしたネタをやられて、バチョフの番がきた。
『こんにちは、バチョフと申しまチョフ!
よろしくお願いしまチョフーー♪』
ネタが始まった、少々緊チョフしてるが、上々の立ち上がりである。
そして、曲が始まり、サビに向かった。
『リュックを背負って、山に登って、頂上ついて、、、、、、
やっチョフ!!!
どんな時にも〜』
ウケた。
これはイケる!!!
そして、後半の板倉っちとめちゃくちゃ考えた。巻物の部分もしっかりウケて、ネタを終えた。
震えが止まらない。
心臓のバグバグが、スタッフさんの笑顔や、観覧のお客さんの笑顔。
"テレビってめちゃくちゃ楽しい!!!"
そして、視聴者投票のDボタン投票の時間になった。
まずはネタの投票!
『さぁて、視聴者投票Dボタンの投票結果は!?』
桜井日奈子さんの声が響く!
『1位、バチョフ!2位、3時のヒロイン!3位、エル・カブキ!
バチョフに3票入ります!!!』
もう何がなんだか、わからなかった。
49%というほぼ半分の投票が入って、もうまるで夢見心地である。
アドレナリンが止まらない中、
「もしかしたら、、、」
そう思った。
何かが変わるかもしれない。
芸人として2年ちょっと。
毎日ライブに行った後にバイトの夜勤に行く日々。
何にも結果も残せてない日々。
そんな日々から、彩りのある日々に変わるかもしれない。
人生が変わるかもしれない。
本気でそう思った。
心臓の鼓動が波を打っている。
それが鼓膜まではっきりと響いている。
『さぁ、次はPRの視聴者投票です!
最後に皆さん意気込みを!』
3時のヒロインさんから順番に、意気込みを言った。
僕は何を言ったか覚えてない。
ただワクワクとドキドキがとまらない。
『では、視聴者投票Dボタンの結果は!?』
その言葉が言い終わるより少し早く、演者だけに見えるモニターがチラッと見えた。
「一位だ!」
人生が変わるかもしれない。
いや、人生が変わる!!!
そう思った瞬間、桜井日奈子さんが、言葉を言い終わる前に、テレビに映った画面が切り替わった。
スタジオがざわつく。
何が起きたのか?
バチョフも何が起きたか一瞬わからなかったが、モニターを見て気づいた。
【緊急地震速報】
環境映像が流れ始めた。
放送終了まで後残り2分程度。
生放送なので、やり直しがきかない。
不穏な空気が流れる。
スタッフさんの、声が聞こえる。
「もしかしたら、次の番組行っちゃうかも!」
心の中で思った。
「まじかよ」
少しの淡い希望を持って待っていたが、そんな期待も虚しく、番組は終わった。
生放送は終わったが、一応最後まで撮り切るということで、収録が再開した。
投票の結果は、一位だった。
優勝だ。
トロフィーを貰いながら、嬉しい気持ちでいっぱいになった。
3時のヒロインさんも、エル・カブキさんも周りのスタッフの皆さん、観覧の皆さん全ての人が「おめでとう!」と祝福してくれた。
今までにない幸せな気持ち。
本番が終わって、携帯を見ると色んな人から沢山のメッセージが来ていた。
嬉しかった。
現実の世界じゃないと思った。
衣装から着替えて、僕を推薦してくれた子にお礼を言って、朝日奈央さんとも、少しだけお話しさせて貰って、NHKから出た。
雨が降っていた。
NHKのスタッフさんが、タクシーチケットがあるからと、タクシー乗り場まで付き添ってくれた。
タクシーに乗れるんだ。
しかも家まで。
ずっとフワフワ。
そして、タクシー乗り場に行く途中、スタッフさんが、
『ずっと、バチョフさんはバチョフさんでいてくださいね!
今日の気持ちを忘れないでください』
と言われた。
僕はその言葉を噛みしめた。
「忘れない。いや、忘れるもんか。」
あれから今日で丁度一年が経った。
世界は新型コロナで凄いことになっている。
でも、僕の日常は一年前とあまり変わらない生活をしている。
僕の人生は変わらなかった。
あの放送の後、それなりの反響を頂いて、ラジオの話などのオファーを頂いたが、闇営業問題が重なったせいなのかわからないが、結局話が決まらなかった。
そうこうして一年経ち、あの日の放送を録画してたハードディスクも謎にデータが壊れて、見れなくなった事、
そして、NHK公式のYouTubeに載ってた僕のネタも最近見たらいつの間にか消えていた事で、
あの日が無かった事のようになっている。
てか、あの日は本当にあったのだろうか。
嘘みたいな世界も、嘘みたいな幸せも、嘘なのか。
いや、確かにあの日はあった。
確かにあったのだ。
でも、
僕はあの日に拘り過ぎていたのかもしれない。
あの日を超える時が来たのだ。
これからは前を向いて行こう。
再スタートだ。
今度こそ人生を変えよう。
良かったらサポートよろチョフチョフです!!!🥺🥺🥺 励みになりまチョフミーーーーー!