掌編「既視感」942文字
…に、参加しています。
「海の生き物」をテーマにクリスマスまで繋げます。
娘が料理をすると張り切っていた。今日は私の誕生日だった。
「ママと買い物に行ってくるね!パパの好きなカルパスも買ってくるから」
なんだ、私の好物も把握済みか。あの子もいい嫁さんになりそうだ。
*
「“ママも座ってて!”だってさ。キッチン追い出されちゃったわ」
妻が笑いながらリビングにきた。両手に持った缶ビールの片方を私に差し出す。
ありがとう、と言って受け取りプルタブを反す。乾杯した私たちはカルパスをつまんだ。
キッチンから「ジュー」という音が聞こえてきた。何かを焼きはじめたらしい。
何だろうな、楽しみだな、と声に出したら妻が目を細めながら言った。
「挽肉の美味しい何か、よ」
妻は缶をテーブルに置くと、テーブルのセッティングを始めた。そろそろ出来上がるらしい。
「じゃじゃーん!できましたー!」
娘が元気よくキッチンから出てきた。皿を各々の席に置いて回る。まずは私の、それから妻の、最後に自分の。
少し潰した俵型のようなハンバーグがふたつ、ブロッコリーやニンジンなどの付け合わせに囲まれて皿に載っていた。
うまそうだ、いただきます!
私はナイフとフォークを使い、ハンバーグを口に運んだ。娘はニコニコしながら私に問いかける。
「美味しい?ねえ、美味しい?」
うまい。本当に美味だ。私は娘を褒めまくった。玉ねぎのほかにキノコも刻んで入れてあるのか。肉汁をしっかりと受け止め味わい深い。
二口めで歯応えを感じた。ハンバーグを裏返すと。半分に切ったピーマンが挽肉に埋まっていた。
こっ、これは…!
娘は満足げに笑っている。
「ハンバーグと見せかけて、ピーマンの肉詰めなの!パパ好きでしょう?」
こりゃうまい。“肉詰め”というより“ピーマン埋め”といった見た目ではあるが、ぜひ我が家のレパートリーに加えて欲しいものだ。
しかしこの形状はどこかで見た気がする。この、ピーマンが挽肉に埋まっているのに似た様子をどこかで…。
私の思考を見抜いたのか、妻がニヤニヤしながら小声で言ってきた。
「この子、この料理をアメフラシから着想したんですって」
それだ。
今年のクリスマスも、娘には図鑑をあげることになりそうだ。遊泳生物、底生生物ときているから、今年は浮遊生物かな。
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