掌編「パンバーテンダー」@爪毛の挑戦状
カウンター席にナッツを出すとグラスが返ってきた。いつもの「おかわりお任せで」だ。
「昔はね、ハッピーエンドしか許せなかったし、自分で書くなら登場人物を不幸にして終わるなんて言語道断だったワケです」
新しい氷を出してグラスに入れながら無言で耳を傾ける。
「悲しさとか、残酷さみたいなものに惹かれる時期も勿論通ってきたけど…」
出来上がった低くて丸いグラスをカウンターに出す。
「えっ、カウボーイだ。牛乳あるんですか?」
「はい、今日は食パンを焼いたので」
私は基本的に、リーンな配合の硬いパンが好みだし、うちの店で牛乳を使うカクテルはあまり出ないので彼が意外がったのもわかる。
「…ホットサンド、お願いします。ベーコンとトマト、は…?」
「ありますよ」
心底嬉しそうに曇った丸眼鏡をずり上げる彼をみていると、なんとか成功してほしいものだと思う。
明日は、いつものカンパーニュに戻そう。
常連さんとカウンターにて
営業日誌、6月15日
(402文字)
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