トロイトマン・オルガンで聞くバッハのオルガンコラール
ベルリンからハノーファー経由、合計3時間の鉄道の旅を経て、中世以来の鉱業都市であるゴスラーに到着する。
ゴスラー近郊のグラウホーフには聖ゲオルク修道院がひっそりとたたずみ、我々を聖なる時間へと導く。
修道院教会のオルガンはバッハ存命中の1737年にクリストフ=トロイトマンによって製作されたもので、幸いにも、現在に至るまで当時の姿をほぼそのままにとどめている。
ジルバーマン系のオルガンに典型的な、波打つようなファサードが実に美しいが、なにより、オルガンのさまざまの音色が大変に美しい。
トロイトマン・オルガンで聞くBWV731とBWV709のコラールは格別である。
爆音で聞くトッカータやプレリュードももちろんオルガンの醍醐味だが、静寂の教会堂にひっそりと響きわたるコラールは唯一無二の音楽、まさに祈りと信仰のための音楽である。
オルガンは、場所固有の楽器であり、教会堂そのものが楽器である。
来日公演も引越公演もありえない、世界にただひとつ、そこにしかない音楽こそ教会のパイプオルガンである。
つまり、我々が現地に行くしかない。そして、その価値は十分すぎるほどにある。
それにしても、300年という時間の集積は、想像を絶するものがある。
場所固有の音楽が、300年という時を経て、現実にいまここで響きわたる衝撃は、何ものにも代えがたい。
さて、爆音で歌い上げるコラールもまた衝撃的である。
とは言え、教会堂を含めた空間そのものを振動させる大音響は、決してうるさいといった類のものではない。
むしろ腹の底から、床石や天井から、細胞レベルで、粒子レベルで、音楽が響いてくるのである。
なお、オルガンが最後に行き着くところは、簡素な原コラールである。
コラールは、オルガン音楽そしてプロテスタント教会音楽の原点である。