尋ね人チラシの話
十年近く前になるだろうか、ある日曜、のちに妻となる女性と散歩に出かけた。
住宅街を歩いていた時のこと。不意に道端の電柱に貼り紙がしてあるのが目に留まった
「行方不明の女子大生を探しています」
ゴシック体のタイトルが普通紙に印刷されている。
知らない女性の写真。右側には特徴や服装、行方不明となった経緯と思しき内容。ワープロソフトで作られたような上半分とは対照的に、情報提供用らしい電話番号とメールアドレスが紙の下半分に手書きされている。
どうやら手作りの尋ね人チラシのようだ。
紫外線ですこし色あせたそれは、ガムテープを使って大人の目線ほどの高さに貼り付けてあった。
警察署が正規に作成する行方不明者のポスターはよく見かけるが、手作りという物珍しさもあり、携帯で写真を撮ろうと上着のポケットを探った。
そのとき、電柱のすぐ横にある住宅から視線を感じた。
それとなく住宅の方を見る。
二階の窓際、部屋の暗さと窓の反射でよく判らないが何者かがこちらを覗いている。
家の前をだれかが通っているのを何気なく眺めるような視線ではない。待ちかねたような歓喜を含む視線。直感だが、そんな気がした。
あきらかな空気の変化を察知した私たちは、写真を撮るのをやめ、早々にその場を離れた。
* * *
帰宅後、落ち着きを取り戻した二人の間で一致した意見を箇条書きすると概ね以下の様になる。
・おそらく人捜しが目的の貼り紙ではない
・警告など何か別の意図があったのではないか
・引き止める罠みたいな物、あるいは罠そのもの
転居してすぐの土地勘のないエリアだったこともあり、暇をみては周辺を歩いたりWEB上で探してみたりもしたが、貼り紙があった詳細な場所をいまだに特定できずにいる。
名古屋市中村区の住宅街とだけ、書いておく。
了
追記:某マップで探索中、全く関係ない(と思われる)別の事件現場を見つけてしまい閉口しました。中村区は怖い。
そういうわけで、何かご存知でしたら情報をお寄せください。尋ね人のチラシを探しています。
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