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東京一軒家の庭で麦を育ててパンを作るまでの話

宮崎駿作品には土が大事だよってメッセージがちょいちょい込められている。天空の城で「土から離れては生きられないのよ」と叫ぶシータ。秘密の地下室で毒を出さない腐海の植物を育て「汚れているのは土なんです」と静かに語るナウシカ。

我が家には庭がある。最初は荒れ放題だったところを手入れをして畑にし、実験と称して様々な農作物を育てている。今回は麦を育てた記録。
初めて穀物を種から育ててみて感じたことは土が大事ということ。
そして、当たり前すぎることだけど一粒の種からたくさんの種ができること。翌年蒔く分の種を取っておけば残りの種が私たちの食料になる。当たり前だけど種を蒔かないと忘れてしまう。製品として売られている食料を購入するだけだと実感できない。

もう一つ、麦を育てている期間に読んだ2冊の本。「土と内臓」と「人新世の資本論」の一部から、

土の中の微生物と腸内のそれが同じ

だということ。そして、

リンやカリウムのような無機物が岩石の風化作用によって植物が利用できる形になるのには時間がかかる。だから穀物が吸収した分の無機物を土壌に戻すことが不可欠だ。しかし農村で収穫された穀物が都市部の労働者に販売されるようになると穀物に吸収された土壌養分は土に戻ることがなく水洗トイレで流されてしまう。

ということ。我が家の庭も植物を育てる時に肥料をまく。(※野菜を育てる時などには肥料を使うが麦は肥料なしでも育つ)
育てた作物が吸収した養分が返っていないから新たに他所から買ってきた肥料を追加しないと育たない。
出来上がった作物を食べた後、私のお腹を通過したこの養分、確かに水に流してしまっては循環しないじゃないか!と感じた。
売っている肥料はどこかから他所から取ってきた無機物だったり化学的に作り出したものだったりする。作物を育てること、食べること、排出したものをまた利用すること、その循環が細切れになっていることも、みんな分かっているけど実感として感じることはない。
そして、土に蒔いた種が土の栄養分を吸収して、それを食べるということは、土の中の微生物と腸内のそれが同じ、ということも当たり前だと感じた。

私は食いしん坊なので、ただ「うまいものが食いたい意地」が張ってるだけなのだけど思わず遠くまで考えることになった。
小さな庭の出来事は大きな世界の出来事とつながっている。
当たり前のことが全部綺麗にパッケージされて見えなくなっている。
いつか自分の食べるものだけでも循環させたいなと思う体験だった。

以下、記録です。

タネのこと

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野口のタネで「パン小麦」のタネを購入。野口のタネは固定種を扱っている種苗屋さん。スーパーなんかで売っている野菜やホームセンターのタネは大体F1種という改良されたタネになる。
固定種とF1種の一番の違いはタネを採種できるかどうか(いやもっと色々とあるけど)
植物はタネを残して来年もまた実をつけてくれるから良いのです。
品種改良されて、育てやすく、大きく、甘い野菜がたくさんとれるF1種は確かに育てやすい。固定種での栽培には苦労も多いけどこの小さな一粒から実りが得られ、それをまたよく年も蒔けるのはちょっとすごい。(*今回の種は登録品種のため自家増殖禁止品種です)

種まきと麦踏み

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2020.11.16  
種まき。
大体18平米ぐらいの広さの畑。たたみ10畳分ぐらい。ちなみに畑の下は駐車場になっているので土の深さは20〜30センチぐらいしかない。種まきの前には石灰を追加。

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2020.11.22 
芽が出た。発芽率は結構いい。本当はもっと間隔をあけて蒔いた方が良いのかもしれないけど、なんせ面積が少ないもんで。。

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2021.1 
麦踏み。
我が子に加えて近所の子供たちに麦踏みをしてもらった。2回ぐらい踏んだかな?
麦踏みをすると分蘖(ぶんけつ)して折れたところから新しい穂が生えてくるとのこと。麦は強いから踏んでポキポキおるとそこからまた新しく穂ができる。こういう強さは大好き。

穂が出て実るまで

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2021.3
だんだん暖かくなるにつれてぐんぐんと葉っぱが伸びてきた。
葉っぱだけだと雑草みたい・・・
青々とした小さな麦畑になってきた。


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2021.4.5 
穂が出た。葉っぱに隠れるようにして少しずつ出てきた。この後穂の先端がぐんぐん伸びる。一粒とって中をあけてみるとまだ白い液体状。

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2021.4
穂がぐんぐん伸びてやがて花をつけた。麦は自家受粉して実をつけるそう。今回一緒にライ麦の種も買ったけど交雑しちゃうから一緒に植えてはいけない。

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とにかくアブラムシがつく。そのアブラムシを求めててんとう虫がくる。
ちなみに、農作物のアブラムシ駆除用として販売されているてんとう虫もあるそうで、てんとう虫を使った害虫駆除農法は有機栽培として認定されるとのこと。
うちのテントウムシはどこかから飛んできたやつだけど、頑張れてんとう虫!と思って毎日応援していた。

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ぐいーんと伸びた麦の下の方からだんだんと茶色く色づいてきた。

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2021.5.20
穂先まで黄金色に。黄金に輝く麦は本当に綺麗。
この後梅雨入り前に刈り取って天日干しをする予定だったのだが5月に想定外の長雨が続いた。乾燥しはじめた麦にカビが生え始め、農作物は本当に天候に左右されるんだなと改めて思った。ここまで育てた麦がカビで全滅したら悲しすぎる。 

収穫と天日干し

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2021.5.21
もう少し色づくのを待ちたい気持ちもありつつ、雨の合間に刈り入れをすることにした。
刈り取った麦を束ねていく。干す場所がないので2階のベランダの物干しに干す。
干してる最中も雨が降るのでカビが広がらないかヒヤヒヤしていた。(実際少しカビがひろがった麦もあった)

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1週間ぐらいかけてちょっとずつ収穫。写真は全体の半分ぐらいの量の麦。
多くはないけど全部手作業なのでそれはそれで手間ではある。

脱穀

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2021.6.9
なんとなーく乾いた麦から脱穀開始。どうやって脱穀しようね、と言いつつ結局は一本一本穂先をハサミで切っていった。

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穂先と茎にまずは分ける。そのあとは、木で突いたり足で踏んでみたり。。。

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穂から実が外れたあとは籾殻と麦に分ける作業。ゴム付きの園芸用手袋でひたすらゴシゴシと擦っていく。籾殻がどんどん溜まっていくのでそれを吹き飛ばすのに扇風機を使った。
唐箕がほしい。。と言い合いながら扇風機で。

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後から気がついたのだけれど、精米機を使うと簡単に脱穀ができてしまった。麦粒は硬いので精米機にかけても全く動じない。なので外側の籾殻だけが綺麗に取れてくれた。まあ、本当に最後の最後に気づいたのだけど・・・
仕上げは手作業で一つ一つ残った籾殻を取り除いていくというこれまた地味ーな作業を繰り返しようやく脱穀完了。

収穫高はいかに?

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ずっしりとした麦。もう、美しいし素晴らしいとしか言いようがない。
植えた種の数が100倍ぐらいになって手元に返ってきた。
一粒万倍とは本当によく言ったものだなと思う。実りが数百倍になることにも本当に本当に感動した。
約18平米の畑から3.7キロの小麦が収穫できた。

最大の難関「製粉」

麦はそのままでは食べれない。茹でて食べられる麦は大麦。(もち麦とか押し麦とか。その他にもあるのかな?麦は種類がとっても多い)
なので挽いて粉にする必要があるのだけど、粉にする方法がわからない。石臼?製粉所?製粉機?
家庭用サイズの製粉機も無いこともなかった。アマゾンや楽天でいろんな種類のものがある。
だがしかし、手元の小麦はたった3.7キロ。
わざわざ数万円の製粉機を買うにはためらわれる。
コイン精米所みたいに、小麦も製粉してくれるところがないかと調べてみたけれど一番近くの製粉所でも「小麦30キロ以上から」などの制約があって断念。
と、いうことで手持ちのミルサーで試しに挽いてみた。

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挽けた。
ミルサーで挽いて、茶こしでこして、また挽いて、とちょっとずつ細かい粉末にしていく。
もちろん全粒粉。ふすま(小麦の外皮)入りの全粒粉。そしてめちゃくちゃちょっとずつしか挽けない。
さらにミルサーが熱をもって粉が熱くなる。
熱で大事な酵素が壊れるんじゃ無いか!と思いつつもこれで挽くしか無い。ひとまず1合分を1時間以上かけて挽いた。
ようやっと調理できる段階まできた。熱を加えるといろんな成分が変質したり香りが飛んだりするのは確かなので、次回、機会があれば是非とも石臼を試してみたい。コーヒーも手で挽くととても美味しい。それと同じかな。

パン焼き実験開始

パンはいつもホームベーカリーで焼いている。普段はネットで国産小麦をまとめ買いしていて、酵母は育てている天然酵母を使ったり、時間の無いときはドライイーストを使ったりしている。
自家製の麦でやっとこさパンが焼ける段階まできた。
比較のためいつも使ってる粉も使い、天然酵母とを塩だけいれてこねてみた。

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(右)自家製小麦→粉120g、塩2%、水60%、天然酵母40%
(左)北海道産強力粉→粉120%、塩2%、水45%、天然酵母40%
自家製麦、全粒粉なのでめっちゃ水を吸う。

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焼き上がり。
当たり前だけど、全粒粉100%だと全然膨らまない。
一口食べてみる。
挽きたての小麦丸ごとのパンは土の香りがする。
土とか粘土。子供は砂って表現した。

そうか、土からできた穀物はちゃんと土の香りがするんだ!噛めば噛むほど美味しい。塩しか入れてないから小麦の味がダイレクトに伝わってくる。
ここまで育てた苦労も相まって、噛めば噛むほどに味わい深く香りが広がってくる。小麦の味と香り、これまで知らなかったんだな。

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その後、自家製小麦だけしか使わないパンを焼くためにサワー種の実験もやってみたけどその話はまた別の機会にでも。。。

自家製小麦のパンが焼けた

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実験を繰り返し、今回の自家製麦で焼いたパンは以下3つ。

・カンパーニュ
自家製小麦の全粒粉、国産強力粉、天然酵母、塩、水

・ノアレザン(くるみとレーズン)
カンパーニュの生地にクルミとレーズンを入れたもの

・サワードウの全粒粉パン
自家製小麦に水を入れ発酵させたサワー種(サワードゥ)、自家製小麦、塩、水

どれもこれも最高に美味しくできた。
なんせ収穫量が3.7キロで、そこから酵母を作ったりしたのでほんのすこししかパンが焼けなかったけど、離れた家族にも送ることができてよかった。

麦を育てるのも面白かったけど、パン作りは本当に沼だな、と思った(笑)

おまけ(麦の副産物)

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麦わらを英語にするとストロー。
そう、ストローも作ってみた。プラから紙へと変わって大不評のあのストローですが、いや、紙よりももっといいのあるよ。その名も(麦)ストロー!
麦の茎の太い部分を適当な長さに切って、酢水にさらして漂白したのち煮沸消毒。素敵なストローの完成。

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撥水性もあり、強度もプラストローと変わらない。子供が噛んじゃうと割れちゃうけど、それはプラストローでも同じ(プラだと割れずに潰れる感じかな)。繰り返し洗って使ってもビクともしない。飲み物の味も変わらない。

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一つ難点を挙げるとすると、軽いので炭酸飲料のコップにさすとぷかぷか浮いちゃうことかな。でもまあ、飲む時には支障なし。これはいい!

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もう一つ、麦わらを使った工芸品ヒンメリ (リトアニアではソダスと呼ばれる)。
うちの母がヒンメリ作りにはまっているのと、友人の友人がソダス作家さんなので、彼女たちのもとに麦わらを送る。

素敵な太陽に変身して我が家を照らしております。
そのほか籾殻や葉っぱ、作品やストローに使えない部分の麦わらは畑に鋤きこんで発酵中。
捨てるところなんてほんと無い。

もっと大きい畑でやりたいと、畑担当の旦那の言葉。(私は主に農作物加工担当)
さて、次は何作りにチャレンジしようかな。

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