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【子宮頸がん】子供を残して命を落とさないために。HPVワクチン接種率1%以下からの提言

「子宮頸がん」は近年、子育て世代の女性に増えていて、命にもかかわる病気。でも、ワクチンや検診で防げる病気です。育児中の健康を守るために、病気のことやワクチン接種の現状などを知っておきましょう。

監修
細部小児科クリニック 細部千晴院長
藤田医科大学卒業後、名古屋市立大学病院、日本医科大学病院勤務などをへて、2000年開業。自らも2人の子育てをした経験から、地域の子育て支援を積極的に行っている。2010年には子育て広場「ポケットランド」も開設。今年1月に初孫が誕生。http://www.hosobe-kodomo.com/
子宮頸がんとは
子宮頚部(子宮の入り口部分)にできるがんで、おもに性的接触によりヒトパピローマウイルス(HPV)に感染することで起こります。HPVは誰でも持っているありふれたウイルスで、性交渉経験のある女性の50~80%は感染の機会があるといわれています。感染しても無症状で終わることが多いですが、一部が前がん病変となり、数年かかってがんになり発症することがあります。

子宮頸がんは早期発見でがんへの進行を防げる

子宮頸がんの原因であるヒトパピローマウイルス(HPV)は、実は性交渉経験のある女性の多くが感染しています。たいていウイルスは免疫の働きにより自然に体内から排除されますが、ウイルスが子宮頸部に残ってしまい感染した状態が長く続くと、その部分の細胞が「前がん病変」という状態になり、がん細胞へと進行してしまいます。

子宮頸がんにかかる人は日本国内で年間に約1万人もいて、特に近年、20~30代の若い世代の患者が増えています。亡くなる人は年間3000人にのぼり、子育て中の女性が幼い子どもを残して亡くなるケースも多いことから、「マ
ザーキラー」とも呼ばれるこわい病気です。

ただし、前がん病変はがん化するまで数年かかるので、早期発見して治療を行えば、がんへの進行を防ぐことが可能。そのためには、子宮がん検診を受けることがとても大切です。厚生労働省では20才以上の女性を対象に、5年ごとに40才まで「子宮頸がん検診無料クーポン」を配布。これを利用して、20才過ぎたらどの女性も検診を受けてほしいです。

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子宮頸がんの患者数のデータ。
1985年のデータ(青い線)と比べると、
近年20~30代の患者が急増(赤い線)
していることがわかる。
20~30代は子育て中の女性が多いことから
子宮頸がんは「マザーキラー」とも呼ばれる。

感染自体を予防するにはHPVワクチンが有効

検診は早期発見のために重要ですが、前がん病変があっても、検診では「異常なし(偽陰性)」の判定が一定の割合で出てしまいます。そこで、感染自体を予防するのに有効なのが、WHOが安全性を認めているHPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)です。

現在、日本で認可されているHPVワクチンは2種類で、ウイルスの2つの型を予防する「サーバリックス」と、4つの型を予防する「ガーダシル」があります。接種回数はどちらも合計3回。これにより、日本国内の全子宮頸がんの約65%を防ぐことができます。

HPVワクチンは、性交渉を経験する前に接種すると予防効果が高いため、小学6年生~高校1年生の女子に対しては「定期接種」として、窓口負担なく公費で受けられます。この期間を過ぎたかたは「任意接種」として受けられますが、1回の費用は1万5000~1万6000円(×3回)ほどかかってしまいます。

海外で定期接種化されている、9つの型を予防する「9価ワクチン」であれば、90%以上の予防効果があり、HPVによる肛門がんや咽頭がんなどにも有効で、男性にも接種されています。日本でも1回35,000円前後(×3回)で受けられるので、接種を希望する場合はかかりつけの病院で相談を。輸入ワクチンのため取り扱いがないということであれば、「HPV9価ワクチン接種可能医療機関リスト」(http://yobolife.jp/column/715)で、接種できる医療機関を調べることもできます。

HPVワクチンをめぐる論争があるのも事実

HPVワクチンについては、過去、若い女性を中心に、接種後に痛みや不安のために失神したという事例や、慢性疼痛、運動障害などの症状が起こったという報告もありました。そのため厚生労働省は、こうした症状とワクチンとの因果関係がはっきり否定され、適切な情報が提供できるようになるまでは、積極的な接種の推奨は差し控えるとしています。

しかし現在、HPVワクチンはその安全性が確認されており、世界130カ国以上で使われています。予防接種が進んでいる国では近い将来、子宮頸がんは過去の病気となるともいわれているのです。

たとえば日本でも、岡山県や富山県、千葉県のいすみ市、八千代市では、定期接種の対象者向けにリーフレットを作成。子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい情報を提供して、希望すれば接種できることを積極的に知らせています。これらの自治体では今後、子宮頸がんの患者が減っていくことでしょう。

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▲岡山県の「子宮頸がん予防リーフレット」

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▲富山県の「HPVワクチンリーフレット」

昨年(令和元年)11月26日には、千葉市が九都県市(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、横浜市、川崎市、千葉市、さいたま市、相模原市)を代表して、HPVワクチンの定期接種について、国に対して要望を実施。HPVワクチンの接種において世界から遅れをとっている日本ですが、定期接種に向けて少しずつ前進しています。

子育て中は忙しく、なかなか自分の体をことを考える余裕がないかもしれませんが、こういった情報を探して、うまく制度を利用できるといいですね。

命を落とすことなく、元気に子育てするために

子宮頸がんが誰でもなりうるこわい病気です。しかしワクチン接種で防ぐことができ、検診で早期発見できれば、少なくとも命を落とすことはありません。ワクチンの接種に加えて定期的に検診を受けることで、自分の健康を守って元気に子育てをしてほしいと思います。

子宮頸がんワクチンに関する推薦図書

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『10万個の子宮』1760円/平凡社

「世界中で使われているワクチンが、なぜ日本でだけ問題になっているのか」。サイエンスにもとづき、子宮頸がんワクチン問題の背景と日本社会の闇に切り込んだ衝撃のノンフィクション。
著者である医師 村中璃子氏はこの著書で、日本人で初めてジョン・マドックス賞(英サイエンス誌「ネイチャー」等が主催。公共の利益に関わる問題について健全な科学とエビデンスを広めるために、障害や敵意にさらされながらも貢献した個人に与えられる)を受賞。

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※この記事は『Baby-mo2019-2020冬春号』に掲載した「子宮頸がんはマザーキラー。予防接種と検診で予防して!」に最新の情報を加筆したものです。
取材/ベビモ編集部 デザイン/STUDIO pas mal

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