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詩人

その衝動は誰が拵えたのでしょうか
私は見ています
言葉になれなかった鼓動を見ています

悲しみに暮れたあの子の隣であなたは声を枯らしていました
枯れた喉から出た血の味はあなたを朦朧とさせるのに十分なものでしたか
道行く人を酔わすのに十分なものでしたか
その吐き捨てられた血の上で踠く一匹の蝶は
まるで晴れた日の日曜日の朝に落としてしまった林檎のようだと
そんなことを誰かが言い出したら
あなたはどんな表情をしてくれますか

詰まる言葉に愛憎はありますか
詰まる喉から出たその音にもならぬ名も無き流離人の吐息は
どんな音色だったのでしょうか
蒼青とした木々の隙間に咲いた一輪の死に行く酢漿草のようだったのでしょうか
それとも今にも消え入りそうな眼差しの奥に微かに光った白日だったのでしょうか

あなたが手にしたその刃が
走り出した風を突き刺し
壁の後ろに隠れていた悲しみを突き刺し
戻れない過去を突き刺し
生き永らえた約束を突き刺し
やがて私の心臓に辿り着いた時
この身から零れ落ちたその体液で遊んではくれませんか

見ていただけたことが、何よりも嬉しいです!