もしもの話

明日もし目が覚めて、頬にあたっているはずの枕が寂れた遊園地のアスファルトになっていたらどうしよう。

夏の朝6時半。
朝に相応しい十分な明るさ。爽やかな風。これぞ完璧な朝。
そうは言ってもわたしはひとり。
夏の遊園地。アンバランスで気味の悪い孤独。かと思えば裂けるみたいな蝉の声。

寝る前にカレーを作った。目覚めたわたしを喜ばせたい一心で。そのカレーを食べられなかった悔しさで、まずレストランを探した。

ガラス張りのレストラン。ひとりでは贅沢な広さ。注文を聞いてくれるウェイトレスも、忙しないコックさんもいない。仕方がない。やるしかない。

のっぽな冷蔵庫を開ける。中には沢山の野菜やお肉。つやつやと料理される瞬間を待っている。
お任せあれと掴み取る。誰もいない大きなキッチン。カチチチチ、と音を立てるコンロ。舌打ちみたい。面倒だな、と声がする。一人ぼっちと卑屈はとても近い場所にある。ごめんね、と呟いている間にも、カレーは完成した。昨日作っておいたカレーは元気だろうか。寂しく泣いてはいないだろうか。わたしがここにいる代わりに、誰かが食べてくれているだろうか。

食べ終わり、皿を洗い、ベタベタになった指先に洗剤を絡ませる。右手で左手を、左手で右手を。手を洗うのは嫌いじゃない。汚いものも、こびりついた匂いも、嘘みたいに落ちるから。でも結局は嘘。汚れた過去って、誤魔化して見えないだけで、本当は消えないんだって。

外に出て観覧車を探す。ジェットコースターもすきだけど、ひとりでいる時くらい素直でいようよ。遊園地って、誰かにとってはジェットコースター屋さんで、アイスクリーム屋さんで。わたしにとっては観覧車屋さんであり、カレー屋さんなのかもしれないな。

ナイトパレードを見るまでは居られないだろう。あなたをすきな気持ちより待つ時間の退屈が勝ってしまう。わたしの世の中に対するすきは、ほとんどがお家に帰りたい、に負けてしまう。これはきっと変わらない。

寝て起きて、頬に枕を確認する。
カレーを食べるためだけに起きたんだっけと思いながら、鍋を温める。
カチチチチ、と音を立てるコンロ。
今日はただの機械音。もう何も聞こえない。


読んで頂き有難うございました。

コーラ