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他人の世話になるのも『慣れ』が必要です(別居嫁介護日誌 #37)


「生活リズムを整えるためにも、日中はデイサービスの利用を検討してください。認知症ケアという点から言っても、夫婦ふたりきりで過ごす生活はあまりよくありません」
 アルツハイマー型認知症だと診断されたときから、医師には繰り返しデイサービスの利用を勧められていた。

「でも、うちで十分過ごせていますよ。買い物にも行っていますし」
 義母が横から口をはさむ。医師は義母に向かって説明する。

「おうちで過ごすのも、買い物に行くのもいいことですが、デイサービスに行っていろいろな人とお話することが認知症の治療には必要なんですよ」

 義母は途端に興味をうしなったような表情になり、あさっての方向に視線を向ける。医師は今度は義父に向かって話し始めた。

「自宅で過ごすのが気楽というのはみなさん一緒です。これまではいっしょうけんめいご主人が奥さんのフォローをしてこられた。たいへんなご苦労であり、愛情のたまものだったと思います。でも、今の生活を続けていると、いずれ困ったことになる可能性が高いです」

 夫婦ふたりの閉じた暮らしを続けた場合、もし義父が亡くなったとしても、義母はその事実を受け入れられず、介護拒否に発展することも十分考えられるという。

「他人の世話になるのも『慣れ』が必要です。今のうちから少しずつ関わりを増やしていくことで、いざというときの備えになります」
「ヘルパーさんや看護師さんが来てくれていますが、それだけでは不十分ですか」
「そうですね。やはり日中はデイサービスに行って、いろいろな人とコミュニケーションをとることが必要です」
「どれぐらい通う必要がありますか」
「通えるなら毎日でも通いたいぐらいですが、まずは週1回からでも構わないでしょう」
「なるほど……」 
義父は医師の説明に深く感じ入った様子で熱心に質問していた。医師はわたしと夫のほうを見ながら、こう続けた。

「デイサービスといっても、いろいろな場所があります。ご家族はよくわかっていらっしゃると思いますが、ご夫婦とも知的でIQが高い。子ども扱いするようなところはイヤだとおっしゃるでしょう。そのあたりも含め、ケアマネさんによく相談して探してもらってください」
「わかりました!」

 わたしたち夫婦が返事をするより早く、義父が力強く答えていた。義母は聞こえないふりをしていたけれど、これはデイサービス探しのゴーサインが出たものと考えて良さそうだった。

 さっそくケアマネ・鈴木さんに電話し、医師とのやりとりを伝えた。
「おふたりの場合、デイサービスよりもリハビリ中心の『デイケア』のほうが合うかもしれませんね」

 義父は健康維持のためのトレーニングは欠かさないタイプで、認知症だと診断される直前まで複数のスポーツクラブに通っていた。リハビリや運動が中心であれば、プライドを傷つけることなく、通い始められるのではないかと思った。

問題は義母だったけれど、何がツボにハマるのかわからない。
「折り紙や華道、書道などいろいろなレクリエーションがありますから、いくつか見学してみてはどうでしょう?」
「そうします!」
わからないことは悩まず、プロのおすすめに乗ってみる。合わなければ、またそのとき調整すればいいのだ。

「おふたり一緒の施設で探してみてよろしいですか?」
「もの忘れ外来では『夫婦が別々に過ごす時間も必要』とも言われたんですが、別々の場所にすると、おかあさんが結局は『行かない』と言い出すような気もして……」
「そうですね。ご自宅までは送迎バスが迎えに来てくれるんですが、ご主人が先に出発された場合、玄関の鍵を閉めて出て行けるかどうかというのも少し心配ですね」
 鍵をかけで出かけるのは難易度高い!!  

記憶にある限り、出かけるときに戸締まりをしているのはいつも、義父の役目だったはず。義母は「あなた、鍵をしめたの?」「戸締まりは大丈夫?」と声はかけているけれど、そういえば鍵を持っているところを見たことがなかった。
 できれば、デイケア。むずかしければ、体操などの運動が充実しているデイサービスで、ふたり一緒に受け入れてもらえるところという条件で、候補になる施設を探してもらうことにした。
 そして、次に夫の実家に行ったときに義母が鍵を持っているかどうかを確認。持っていないとしたらどこに行ったのか探そう。


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