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泥棒が鍵を持っているようなので(別居嫁介護日誌 #30)

なんとか、義父母から預かることに成功した健康保険証。でも、まだ介護保険証をどう保管するかという問題が残っていた。

65歳になったときに交付されていたはずの介護保険証は、義父母ともに紛失。ふたりとも「そんなもの、あったかしら?」「もらった記憶もない」と言っていた。いくつか大事そうな書類がしまってありそうな引き出しを探してみたけれど、それらしきものは見当たらない。

ただ、今はまだいいのだ。もうすぐ、要介護認定の結果と一緒に新しい介護保険証が送られてくる。問題は、この新しい介護保険証をいかになくさず、キープするかなのである。

介護保険証は義父母の自宅に郵送で届く。だいたいの発送時期はわかるけれど、ピンポイントで日付や時間の指定はできない。介護保険を使って介護サービスを利用するための手続きには、介護保険証が必要。もし、なくしたら再発行することになる。でも、その再発行される介護保険証も郵送で届くので、受け取った義父母がなくしたら……の無限ループに陥る可能性があった。なんだ、この罰ゲーム!

のちに所定の手続きをすれば、介護保険証は子どもの住所に送ってもらえることを知るのだけれど、当時はその発想がまずなかった。

一刻も早く介護保険証が届いてほしい。要介護度を把握して、それをふまえた介護サービスを導入したい。
でも、義父母に介護保険証をなくされると、手続きが滞るどころか、要介護度がいくつかもわからない。マジか!

このとき、支えになってくれたのは担当ケアマネの鈴木さん(仮名)だった。役所と連絡をとり、介護保険証が発送される日を確認。到着予定日の前後に訪問し、預かってきてくれるという。

鈴木さんの温和な人柄もあってか、あらかじめ「大切な書類なので、届いたら預からせてくださいね」と聞かされていた義父母は、とくにいやがる様子もなかった。義父はしきりに、「新しく鍵付きの引き出しを購入したい」とも言っていたが、よくよく聞くと、「家内が鍵付きの引き出しにしまったものが、なくなっている。泥棒が鍵を持っているようなので、新しくしたい」というのが購入希望の理由だった。

「認知症の方に限らず、高齢の方は『金庫や鍵付きの引き出しを欲しい』とおっしゃる方が多いんですが、増やしたら増やしたで鍵をなくしてしまったり、使い方がわからなくなったり……と混乱されることも少なくなくて。できれば、これ以上は増やさないほうがいいと思います」

本人では管理が難しくなっているからこそ、トラブルが起きる。そのトラブルを防ぐために、さらに管理しなくてはいけないものを増やすのは本末転倒だというわけだ。

鈴木さんのアドバイスに従い、鍵がかかる収納を増やす代わりに、家族が代わりに預かる仕組みを整えることにした。

「自分たちでできる」「他人の助けなんていらない」という思いと、あったはずの場所を探しても、ものが見つからないという現実。その狭間でいらだち、不安に駆られている人たちに納得してもらうには、それなりに時間と手間もかかる。

ただ、労力をかけた価値はあった。口を開けば「2階の泥棒が!」と訴え、45リットルのゴミ袋いっぱいに貴重品(と本人は呼んでいるもの)を詰め込み、風呂にまで持ち込んでいた義母だが、少しずつ落ち着いていった。

「2階にいるあの人、どうやら引っ越すみたいなの」と言い出したときは驚いた。さらに、調子のいい日は「今まで泥棒のせいだと思っていたけど、私がどこかになくしちゃったのかも」と言ったりもする。ただ、完全に、ものとられ妄想がなくなったわけではなく、「せっかく出て行ってくれたと思ったのに、また戻ってきちゃった」という話になったりもする。

こちらも少しずつ慣れてきて、慌てずに対応できるようになっていた。どう対応すると、穏やかな反応を引き出せるのか、コツがわかってきた気もする。このあたりはまた別の機会に紹介したい。

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