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難しく考えずに、お願いしちゃうのも手ですよ(別居嫁介護日誌 #20)

親身になってくれた看護師Cさんに会いたい。助けてほしい。でも、よく考えたらちょうど外出中かもしれない。公休日で出勤していないかもしれない。切羽詰まりすぎて、そんなことにも頭が回らないまま、地域包括支援センターに着いてしまった。

ドアを開け、中に入ると、看護師Cさんは……いた!!!!
「あらぁ、寄ってくださったんですか。ありがとうございます」

駆け寄ってくるCさんを見ただけで、こちらはもう胸がいっぱい。泣ける、泣くな、いや泣く。

「あの……、役所で認定調査の手続きはできたんですけど……、ケアマネさんをどうやって探せばいいか聞いたら、わら半紙1枚をポンと渡されて。もの忘れ外来の先生は『とにかくケアマネが重要だから』って……『役所とか地域包括に相談しなさい』って……。でもあの、さっき窓口で聞いたら『そういうのは対応しない』って言われちゃって……」

我ながら、要領を得ない。でも、Cさんはそんなグダグダな説明にもかかわらず、「あぁ…」と合点がいったような表情をした後、「大変でしたね。驚いたでしょう」と困ったようにほほ笑んだ。

「役所の方がおっしゃった通り、私たち地域包括支援センターも、役所も公的な機関なので、ご紹介はできないルールになっているんです。どこかの施設や事業所に便宜をはかったら不公平になってしまうじゃないか、と……。ただ、ご家族やご本人の相談に乗ることはできますから」

そこまで言うと、Cさんはいたずらをする子どものような顔で、私をのぞきこむ。
「『いいケアマネさんを探してください』と言われて、私たちは『この人がおすすめです』と立場上、言うわけにはいかないんです。でも……ね?」

え? あ、そういうこと? なるほど。皆まで言わせるなってことですね。先生!!!

「あの、例えばなんですけど、『こういう条件に合うケアマネさんを探していて……』とい相談に乗ってもらえたりすることは……?」

Cさんは大きくうなずいた。そして、こんなアドバイスもくれた。

「ケアマネさんとの相性を心配されるご家族の方も多いんですけれど、お願いする前に、相性を見極めるのはとっても難しいんです。例えば、ご家族とは合うけれど、ご本人たちとは合わないというようなこともありますし。

なので、こんな言い方をすると乱暴に聞こえるかもしれませんが、最初は難しく考えずに、お願いしちゃうのも手ですよ。実際にケアマネさんとのやりとりをしてみて、やっぱり合わないとなれば、他の方に交代してもらえばいいだけですから」

いいケアマネに当たるかどうかで、介護の質はずいぶん左右される。こういった話は介護にまつわる書籍やブログにもよく登場するし、医師からも強調された。たしかにその通りで、介護に携わる中で、何度となくそう実感もしてきた。

かといって、ケアマネ選びに慎重になるあまり、介護体制を整えるのが後手に回るのは得策じゃない。「ケアマネとの契約の前に、できれば数名と面談したほうがいい」という助言もよく見かけるけど、看護師Cさんの提案のほうがしっくり来た。

もの忘れ外来の付き添いに要介護認定の申請、次は調査員の訪問調査への立ち合いと、業務は山積み。仕事の合間にこれらをこなすだけで十分きつい。しかもその間にも、義父母はガスの火をつけっぱなしにし、迷子になり、賞味期限の切れた食材で冷蔵庫をいっぱいにしながら、夜な夜なパンツを盗む“お二階さん”と闘っているのだ。一刻も早く、ケアマネさんに仲間に加わっていただかないと、私のライフがゼロになりそうである。

看護師Cさんとも相談し、設定したケアマネ探しの条件は2つ。
①看護師資格があること
②認知症対応に慣れていること

ケアマネジャーは公的資格で、受験資格は看護師、保健師、薬剤師、介護福祉士、社会福祉士など特定の国家資格保有者、あるいは介護施設などで相談援助業務に従事している人など多岐に渡る。

義父は高血圧に前立腺肥大、義母は甲状腺に持病があり、服用している薬の種類も多い。今後、さらなる病気が見つかる可能性もあるし、ふたり同時に対応していかなくてはいけない困難さを考えると、できれば医療分野に詳しいケアマネさんにお願いしたかった。

また、「認知症に慣れていること」も外せない条件だと思った。中程度の認知症だと診断が下っている義母ですら、日常会話はかなりしっかりしている。短時間であれば、相手にそうとは悟らせない。なんせ、総合病院のもの忘れ外来を受診し、「認知症ではありません」のお墨付きをもらってきた人たちだ。経験の浅いケアマネさんでは、いいように翻弄される懸念があった。

ただし、「①看護師出身であること」という条件については、Cさんから「数が少ないので、もしかしたら見つからないかもしれません」とも言われていた。それならそれで構わないと思った。

条件を両方満たす人が見つかればラッキー。看護師出身のケアマネさんが見つからなくても「認知症に慣れていること」なら該当者は大勢いるはず。ここまでくれば、見つかったのも同然。すっかり気持ちは軽くなり、鼻歌まじりで地域包括支援センターを後にした。


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