帰ってきてからじゃ間に合わないから(別居嫁介護日誌 #38)

デイケア見学の準備は着々と進んでいた。夫婦一緒に受け入れ可能な施設は2つあった。

「別々に見学日に設定すると、忘れてしまうかもしれないので、できれば同じ日に見学しませんか?」

ケアマネ・鈴木さんの提案で、午前と午後に1つずつ見学に行くことになった。多少渋られたりするかと思いきや、義父母はすんなりOK。「またお出かけ? 今度はどこに行くの?」と義母はうれしそうだった。午前中は施設のワゴンが自宅まで送迎してくれる。午後は自宅で昼食を済ませた後、タクシーで施設に向かい、ケアマネ・鈴木さんと合流するという段取りになっていた。

今回はとくにひっくり返しもなさそうだと油断していたら見学前日、義姉からLINEメッセージが届いた。
《突然すみませんが、都合がつきそうなので、同席してもよいですか?》

あわててケアマネ・鈴木さんに連絡し、見学人数が増えることを施設に伝えてもらう。夫と相談し、午後はタクシー移動をやめて、レンタカーを借りることにした。そして、義姉には【デイケア見学のポイントと注意点】と題したテキストをLINEで送った。

《医師&ケアマネさんに教えてもらった「デイケア見学にあたってのポイント&注意点」をお知らせします。事前に目を通しておいてください》

夫と相談し、なんとか絞り込んだ項目が以下の3つだった。

1.「通う気」になってもらうのが最優先
2.あら探しNG
3.本人が否定的な反応をしたら、話題をそらす

それぞれに対して「なぜ必要なのか」「具体的にはどう行動すればいいのか」の説明文をつけた。

お義姉さんが介護に積極的に関わってくれるのはありがたい。でも、見学の現場で母娘ゲンカが勃発した末に、義母の意固地スイッチがオン! という事態になるのはぜひとも避けたかったのだ。


義姉からは「ありがとう、わかりました。楽しい雰囲気づくりに協力します」と返事が来た。


そんなアクシデントもありつつ迎えた、見学当日。夫の実家に到着すると、すでに義父母は出かける準備をすませ、スタンバイ。しかし、義姉が一向に現れない。そのうち、施設の送迎ワゴンが到着してしまった。

そこへ「ごめんなさい! 遅くなった!!!」と義姉が飛び込んできた。良かった、間に合った。さあ、出発しましょうと声をかけようとしたら、なぜか義姉は台所にまっしぐら。冷凍庫から氷を取り出し、製氷機に清掃液をそそぎこんで……。

「姉貴、それって今やらなきゃいけないこと?」
夫の声がとがる。しかし、義姉は気にとめず、手を止める気配もない。

「終わるまで時間がかかるのよ! 帰ってきてからじゃ間に合わないから」
話がまるでかみ合わない。

「ねえ、真奈美さん。やっぱり、これも持って行ったほうがいいかしら?」
「おかあさん! キャンプじゃないからそんなにたくさん荷物いらないですよ」
義母はパンパンにふくれあがったバッグを4つも抱えて、玄関に座り込んでいる。義父は無言でドアの脇に直立不動。私たちを待っている。なかなかのカオスである。

前途多難……というフレーズが心によぎったけれど、必死で打ち払う。違う、そうじゃない。今日は楽しいデイケア見学の日。みんながうらやむ、楽しいデイケア。わっしょい、わっしょい!

果たして、午前と午後の見学を終えた後の義父母の反応はというと、まず「なんだか、よくわからないわよね」と言い出したのはもちろん、義母だ。

でも、大丈夫。ちょっとだけ文句を言いたそうな素振りを見せるのは義母の“お約束”のひとつだ。

「ふたつのうち、どちらか選ぶとしたら、どちらがお好きですか?」
ケアマネ・鈴木さんのナイスフォローによって、義母は機嫌良くしゃべりだした。

「しいてどちらかを選べと言われたら、午前中のほうかしらねえ。午後はちょっと、一生懸命すぎるっていうか。なんか、みなさん必死でしたでしょう?」
「午前中のほうが、和やかに楽しめそうな感じでしたね」
「そうそう。場所も明るかったし。悪くないわね」

義父は「僕は、家内がいいというほうでいいです」という。

「では、午前中のほうで手続きを進めていきましょうか。よろしいですか?」
「構いません。よろしくお願いします」

義父がはっきりと答えてくれた。これでいよいよ、訪問看護、ヘルパー、デイケア(デイサービス)のカードがすべてそろうことになる。

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