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監視されてるって、ちょっと気分が良くないわよね(別居嫁介護日誌#8)

久しぶりに訪れた夫の実家で見たものは、見知らぬ女性に宛てた何枚もの手紙。義父母は、なんとか自宅に侵入するのをやめてくれるよう直訴しながら、侵入者の事情をおもんばかり、なぜかおせち料理まで用意していた。アクティブに直面する事態に対処している様子がうかがえる義父母とはうらはらに、我々夫婦は「様子見」のターンから抜け出せずにいた。

(前回の別居嫁介護日誌はこちらから)

夫の実家で、膨大な「お手紙」を発見した日、結局私たちは手紙そのものの話題には触れなかった。ドアや壁のあちこちに貼られているビジュアルだけでも十分衝撃的なのに、中身もぶっ飛んでる。ツッコミどころが満載すぎて、何も言えなくなったというのが正直なところだ。

ただ、手紙の話をしなかった代わりに、「女ドロボウ」の対策については話し合った。義母が息子に対して「最近、物騒になっていて困るの」と打ち明けたのは、そのときが初めて。義父も「そうそう」と加勢し、「早く出て行って欲しいんだが」と、困惑を訴えていた。

ぶっちゃけ、認知症の症状じゃないですかね? と言ってしまいたいのは山々だったが、言える雰囲気ではまるでなかった。今思えば、黙って一緒になって(困りましたね……)という顔をしていれば良かった気がする。ところが、生来のおせっかいの虫が騒ぎに騒いで、いてもたってもいられない。

問題がそこにあるなら解決しようじゃないか。トライアンドエラー! 倒れるときは前のめり!! ああ、もう、じれったい!!! と歯がみする思いだった(ちなみに、このスタイルは認知症介護にはまるで向いていないことがのちに判明する)。

とはいえ、相手は他人の親である。しかも、年に1回会うか会わないかの間柄。やみくもに踏み込むのは得策ではないということぐらいはわかる。暴走と冷静の間を行き来した結果、苦し紛れに伝えたのが「部屋の中に防犯カメラを設置してみる」という案だった。

「防犯カメラがあるから安心」と気持ちが落ち着けば、多少は”ドロボウ”の出現頻度が下がったりするのではないか……と考えたのだ。

「それはいいアイディアね!」

義母はすぐさま飛びついてくれた。だが次の瞬間には表情が曇り、「でも、あの方がどう思うか……見張られているみたいで、気を悪くするんじゃないかしら」と言い出した。いやいやいや、おかあさん、見張られていると思ってくれたらむしろ好都合。部屋に入りづらくなるのではないでしょうか……。

こういうときは息子が説明したほうがいいだろうと、夫にバトンタッチ。声を荒げることなく、根気強く説明してくれたけれど、義母は見事なまでに聞く耳を持たない。

「だって、すごくズル賢い人なのよ」
「監視されてるって、ちょっと気分が良くないわよね」
「防犯カメラの死角になるところで盗むんじゃないかしら」

悪口なのか、気遣いなのかわからないフレーズがバンバン飛び出す。「頼む。おふくろ、気持ちは分かった。でね、俺の話も聞いて欲しいんだけど……」と、息子が懇願しても軽やかにスルー! 完全にお手上げだった。

結局、話は平行線のまま、帰路についた。積極的なのか、消極的なのかよくわからない言動を繰り返していた義母とは対照的に、義父は一貫して「せっかくだから探してもらえばいい」「試しにつけてみたらどうか」と前向きだった。でも、だからこそ「防犯カメラの設置はマズいかもしれない」と、夫が言い出した。

義父の性格を考えると、録画したら必ずそのデータを見たがるはずだという。でも、そこには彼らが言う”女ドロボウ”の姿はおそらく映らない(映ったらこわい)。もしかしたら、夜中に母親が本人も無意識のうちにタンスの中身を引っかき回している姿が映るかもしれない。夫は、その結果を危惧していた。

「これまで『タンスから洋服が盗まれた』『引き出しから現金がなくなった』といった一連の事件の”犯人”が、じつはおふくろだと気づいたとき、親父はどう反応するのか、正直言って想像がつかない。今、ギリギリのところで均衡が保たれているけど、一気に崩壊する可能性もあると思う」

ありそう! 素晴らしい着眼点ですね。防犯カメラ、やめよう! 即決だった。大丈夫、我々にはまだ「もの忘れ外来受診」という希望がある。親自身が「近々受診するつもり」と言っているのだから、その時期さえ来れば、何か進展する。親の気が変わらないよう、静かに待ってさえいれば、きっと。

だが、一向に受診したという話が聞こえてこない。最近はもの忘れ外来も予約が取りづらくなっているという。でも、それにしても遅すぎるのではないか。気づけば、4月になっていた。ゴールデンウィークを過ぎても連絡がなければ、さすがに確認の電話を入れるべきか。

そんなことを思っていた矢先、義姉から夫に連絡があった。

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