要介護度を上げてもらったほうがいいかもしれません(別居嫁介護日誌 #35)

介護度もなんとか「要介護1」をとれたし、今後の介護費用をどう用立てるのか、見通しも立てられた。「毎日なんて困る。週1回にして」と、義母にごねられまくった宅配弁当(夕食)も幸い、週4回をキープできている。

ひとしきり文句を言って気が済んだのか、気を遣ってくれているのか、義父母からは「やめたい」とも「減らしたい」といった発言はない。

週2回の訪問看護についても、「どうして毎週、看護師さんがくるのかしら?」と時折、義母が疑問は口にするものの、とくに迷惑そうな雰囲気でもない。どちらかといえば、「つぎは何曜日にいらっしゃるの? あの方のお名前は?」と興味津々だ。

これまで私の役目だった、お薬カレンダーに薬をセットする役目も、看護師さんにバトンタッチ。もの忘れ外来のほか、内科や泌尿器科でも処方されている、さまざまな薬の一切合切を訪問看護ステーションに預かってもらう手はずになった。

少しずつ、義父母の生活が整っていくのを実感していた。ただ、手放しで喜べることばかりではなかった。

「日中も部屋を締め切って蒸し暑い中で過ごしていらっしゃるようなので、熱中症が心配です」
「食卓には食べ残した食事がそのまま放置してあるのをよく見かけます」
「水分をとるよう、声がけはしていますが、『のどがかわいていない』と断られることも多く、これからの季節が心配です」
「おとうさまには便臭があり、服に便の汚れがついていることもあります。また、おかあさまは尿臭があります」

訪問看護ステーションから連日のように連絡が入る。夫婦ふたり暮らしだったときには、その生活ぶりはブラックボックスになっていて、ほかの家族はまるっきり実情を把握できていなかった。ご本人たちに聞いても「困っていない」「大丈夫」と答えるだけ。でも実際には、全然大丈夫ではない部分も多々あって、それが今、明らかにされつつあった。

離れて暮らす子どもは言いくるめられても、プロの目はごまかせない。ただ、こうしたプロならではの指摘がありがたい反面、困惑もあった。

とくに戸惑ったのが、「区分変更申請をして、要介護度を上げてもらったほうがいいかもしれません」というアドバイスだった。

要介護認定には有効期間が定められていて、更新時期が来ると再度、認定調査を受ける必要がある。もし、要介護度と実際の状態にズレがある場合は、区分変更という手続きをすれば、更新時期を待たずに、要介護度を再検討してもらうこともできる。

看護師さんたちの見立てでは当初想定していたよりも義父母、とくに義母は介護の必要性が高いという。ただ、区分変更の申請をするとなれば、認定調査再びである。この、そこはかとなく漂う「ふりだしに戻る」感たるや!!!

第一、義父母にどう説明するのか。

おかあさんが思ったよりヤバいみたいなんで……もう1回、面接が必要になりました。アハハハハハ! と、ぶっちゃけてしまえたら、どんなにラクなのことか。でも、それだけは歯を食いしばって避けたいところである。うーん。

何をどうしたらいいものやら、どんどん迷路にハマっていく。迷ったときは、担当ケアマネに相談! 電話をかけると運よく、訪問から帰ってきたばかりでオフィスにいた鈴木さんと話ができた。

「なるほど。看護師さん、さすがプロですね。おふたりの生活をしっかり見守ってくださっていますね」
「区分変更の申請も勧めていただいたんですが、実際のところ、どうなんでしょう?」
「そうですね……。真奈美さんはどう思います?」
「要介護度が上がるなら上げたいようにも思うんですが、義父や義母にどう説明するのか、ふたりがどう感じるのかが気がかりなところもあって……」
「おっしゃる通りですね。いろいろな考え方があるかと思うんですが、今回はもう少し様子を見てみるのはどうでしょうか。要介護度が上がれば、たしかに利用できる介護サービスの範囲は広がりますが、いきなり増やすとそれはそれで、おふたりを混乱させてしまうかもしれませんので」

焦って、あれやこれやと介護サービスを増やすと、「こんなもの、いらない!!」と介護拒否につながるケースが少なくない。まずは、“ケアのある日常”に慣れてもらうのが最優先。日中には、看護師さんやヘルパーさんが定期的にやってきて、夕方にはお弁当が届く。そんな生活になじんできたあたりで、区分変更を検討する。鈴木さんと話しているうちに、対応の方向性が見えてきた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?