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自虐はこころの猫背

巻き貝模した積乱雲浮かぶこの頃、いかがお過ごしでしょうか。はたらきアリ出版のはちみつちひろです。こちらは8月中旬の夜21時。今夜はとても月が大きくみえて『うす焼きサラダ』を食べたい気分です。単価33,000円のデザイン事務所・小月デザインをオープンして3週間が経ちました。ありがたいことに本当に依頼をいただいて、制作の毎日です。昨日なんて徹夜でした。20代で決別したと思っていた心の中の地獄のミサワが頭を出して、つれーわー毎日実質2時間しか寝てないからつれーわーとひっぱたきたい顔をしています。デザインの仕事は思っていたより大変で「思っていたより大変だなぁ」と思いながら、ということは、ちゃんと始められたのだな、と、それどころではないのに鼻の下をこすっちゃうようなうれしい気持ち。スタートを切れたんだ。一つ一つ、絶対に挫けずにいいものを作るぞ。

私はアニメ一休さんを観て育ちましたので、心から尊敬する方のことを「お師匠さま」と呼ぶ癖があります。私淑、といえばそうなのですが、私淑の語感の慎ましさはなく、弟子と認められたわけでもないのにある日突然師匠とお呼びするので勝手弟子(造語です)という感じ。こわい……。文章にするって、自分を見つめる良い機会になりますね。

ある日のこと。
子曰く「自虐はするでない」。

小月デザインは当初、単価を6,600円で考えていました。
依頼から三日以内にデータを納品する、超低単価・即納のデザイン事務所をしようとしていたのです。これこれこうでまもなく開業予定なのですとお話しすると、パイプから紫色の煙をふーっと吐き出しながら、お師匠様は私に厳しい目を向けられました。
「……おぬしは、本当に面白いことをやろうとしておるのか」

どきりとしました。
私なんて美大も専門学校も出ていないし、どこかのデザイン事務所で実務経験があるわけでもないし、技術もまだまだのまだまだで、だからなるべくお安くしないと誰も私に依頼しないと思いますし……とウジウジ答えると、
「おろかものめ!」
お師匠さまは肩のストールをブワッと掛け直し、突風を起こされました。あたりの石ころが舞い上がり、私の頭にストトトトトと落ちてきます。蓮の葉から立ち上がり頭頂部の三つ編みを高速回転して浮かんで、私を見下ろし仰いました。

「おぬし、依頼者をすでにばかにしておらぬか。その金額と少ない時間で、依頼者の一生に一度かもしれぬものづくりに誠実に向き合えるというのか。力量の問題ではない。そんな性根の腐った奴に儂は仕事を頼まぬ。よいか。自虐はするでない。自虐は、他人を巻き込むのだ」

その日から私は心を入れ替えたのです。

思えばずっと、自分を貶めてきました。私なんかとは言わずとも、言葉のふしぶしに卑屈さが漏れ出ていました。自分のことが嫌いなのでしょうか。いいえ違います。実はけっこう、好きです。お酒の席でお褒めの言葉をいただいた日の帰り道や月に二十日くらいある絶好調の日などには、唯我独尊!と心から思えたりします。そして、好きだからこそ、自分のことは自由に貶めていいと思っていたのです。これが私が自虐をしてしまう一つ目の理由。

客観的に自分を評価して、その値が小さくて、しょぼんとしている。自分を評価結果のサイズになるよう背中を丸めて過ごしていたのです。

それは間違っていました。

誰かの評価に合わせて生きることは、自分がないことと同義なのでした。自分で下したり他人から下された評価がどうであろうが、胸を張って生きるべきなのです。世にいう『自己肯定感が低い』というのは、自分を評価に合わせようとしている状態ともいえるのかもしれません。言われそうな嫌なことを自分に言って自分を傷つけている。そんなことを続けていては、自分を嫌いになってしまいます。とすれば、誰にどんな評価をされようが言われようが、胸を張って堂々とすることが自分を嫌いにならない方法であって、好きになる方法であって、自虐をやめる方法なのでは。というか、背中を丸めなくちゃいけない、低く見せないといけない理由なんて、ないようなものなのに、なんでそう思ってしまっているんでしょう。

自信とか誇りを持っちゃいけないと思っている節があるんです。自分の力量を測れていない感じが、アホっぽいではないですか。アホだなと思われるのは、アホだからか我慢ならないところがあるのです。こんなもんで満足していません成長していく所存ですというマッチョな思考があることもなぜだか示したかったです。だから謙虚というかへりくだるのは「自分のことちゃんと分かっています」「調子乗ってません」「のびしろを感じていただきたいです」という独自の優等生根性の結果でもありました。これが自虐してしまう二つ目の理由。

だから、どんな状態でもへりくだることのない堂々としている人を見ると、心底うらやましいのと、少々むかつきます。不良どもめ!こにくたらしい!憎まれっ子世にはばかるとはまさにこのこと!

師匠は仰いました。
「自虐は他人を巻き込む」と。

そうなのです。自分を「私のようなものが」と言った時、自分と関わりのある人を「私のようなものと付き合っている見る目のない奴ら」と同時に貶めていたのです。私を良いと言った人のことを「私のようなものを良いというやさしくてちょっとばかな人」と。ううう。今まで本当にごめんなさい。

堂々としている人を見ると「この人の周りにいる人たちは幸せだ」と思います。だって、堂々とするって飛んでくる矢を避けずに受けるくらいのこわいことなのに、それをやってのけて後ろにいる人たちを傷つけさせない。大地を二本の足でしっかり踏みしめて太陽の光を浴びている感じ。こころの背筋がしゃんとしてる。気合いの入った人って、なんてまぶしいんだろう。

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近ごろ私達は いい感じ
悪いわね ありがとね これからも よろしくね
もぎたての果実の いいところ
そういう事にしておけば これから先も イイ感じ

もしも誰かが 不安だったら
助けてあげられなくはない
うまくいっても ダメになっても
それがあなたの生きる道
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『これが私の生きる道』(作詞 奥田民生)より抜粋

私の人生のテーマソングです。調子乗ってるだろソング。調子に乗って何が悪いってんだ。調子にもリズムにも波にも風にも乗って、強気の火力高めでやっていきたいです。茹で上がるそうめんを眺めながら、そんなことを思ったのでした。

ここで一首

そうめんのつゆが薄まるさびしさは線香花火のぽとりと似てる

素敵な8月をお過ごしください。今月は以上です。


○てんてこまいにつき、9月中旬以降の着手となります。申し訳アリま……アリがとうございます!

○新刊のイケてる文芸誌、文藝蟻酸をよろしくお願いします!

○いつの間にかリリースから半年が経ちました。屋久島の杉の木みたいなサイトを目指してます。

○細々と続けているポッドキャスト。将来的に悩まない人になれるように今悩んでいることをぽつぽつ喋っています。

ではまた。

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