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ある1日

予定が何もない休日くらい、昼過ぎまでダラダラ寝ていたいという根本的な欲望があるのだけど、「これ以上行くとヤバイ」と本能が警告を出している気がして、起きられるうちに布団から出た。時計を見るとまだ9時半。

マックグリドルが食べたくなり、近所の朝マックでテイクアウトする。自宅でコーヒーを淹れてからおもむろにかぶりついたバーガーからは、甘さとしょっぱさが平等に容赦なく襲ってきた。まさに味の暴力だ。1口目を食べた瞬間から、唾液がどばどばと溢れ出る。


何となく憂鬱な気分だった。原因はよく分からないけど、記憶を辿っていけばそれっぽいものは見つかりそうな気がする。けど分かったところで、一層落ち込むだけだし、こんな時は何も考えないのが一番だ。不定期にやってくる波のようなもので、何度も経験していると、流石に対処法っぽいものも身に付く。


「…外に出よう」

今年の初めに、ふとしたきっかけでプレゼントされた分厚めの小説を、50ページくらいまで読んだところで思い立つ。天気もいいし、こんな日はとりあえず外に出ておいた方がいいと相場が決まっているのだ。適当に散歩して、疲れたら喫茶店に入り、読書なり勉強なりしてみればいい。

読みかけの小説、気分転換用のエッセイ、それから試験勉強用の資料や参考書、筆記用具。必要になりそうなものをトートバッグに詰め込んだら、なかなかの重さになった。これを片手で持つのはしんどい。すぐさまバッグの中身を、リュックサックに移し替える。基本的に遠出する時にしか使わないリュックだったので、ちょっと特別感が出た。

目的地は上野公園。通勤用の定期区間内にある駅を降りて、少し歩けばすぐに着く。とりあえず外出したい時に何も考えず来てしまう、暇つぶしの通例スポットだ。


約2年ぶりにタバコを吸った。何となく、そういう気分に駆られていたのだ。コンビニでハイライトメンソールを買い、改札をくぐる前に1本吸う。苦い煙とミントの香りが鼻腔を突き刺し、同時に脳が少し壊れていく感覚が分かる。

僕がタバコを吸うようになった理由は、単純に「時間潰し」として便利だったからだ。仕事の合間の休憩時間以外にも、飲み会の時に、ぼんやりと喫煙しながら人の話を聞くのが好きだった。自分から喋るのは得意ではないので、何かをしながら聞きに徹するにあたり、タバコは最適なツールだった。(信じてもらえるかは分からないが、いちおう吸い始めたのは20歳からです。)

しかし都内では駅前でも喫茶店でも、自由に喫煙出来る場所がどんどん無くなっていく。職場でも吸えなくなった辺りから、自分でタバコを買うことはめっきりなくなった。元々長期間吸わなくても、全然気にならない体質だったのだ。

ごくたまに「タバコ吸いたい」と思うことはあったけど、その気持ちは一瞬で消えるような程度で、実際にニコチンを摂取したのは久しぶりだ。本当に頭がどうかしていたのだろう。


電車の中で色々考えごとをしているうちに上野公園に着いたものの、ついそこで立ち尽くしてしまう。そもそもここへ来ること自体が目的のようなもので、到着してから何をするか、なんていつも何も考えていない。適当に園内を散歩して、気が向いたらまたタバコを吸おう。

大型連休のせいか、ある意味予想通り混み具合だ。でも冷静に考えると、前に普通の週末に来た時と、それほど変わらない気もする。規模はどうであれ、僕からすれば「なんか人がいっぱいおるな」くらいの認識にしかならない。楽器を演奏している人や、曲芸を披露している人たちを、途中で何人も見かけた。

公園を彷徨きながら、目的は自然と灰皿を探す方向にシフトしていた。何度も来た場所なので写真を撮る気にもならないし、やりたいことが浮かなばない。しかし案内図に喫煙所は載っていないし、ネットでサッと調べた場所にもない。撤去されたのか。世間は喫煙者に対して、本当に風当たりが強いからな。

結局、入口と思われる場所の一角に、そのスペースをようやく見つけた。早足で駆け込み、2本ほど連続で吸う。中身がスカスカのハイライトは一瞬で短くなり消失した。喫煙欲は大体満たされた。


上野に行くとほぼ必ず寄るドトールで、午前中読み始めた小説を開く。店内で注文したのは、ミルクレープとハニーカフェオレ。甘味に甘味かよ、と思うだろうけど、ブラックコーヒーは午前中に2杯飲んだのでもう十分である。

500ページを超えるその小説は、ここにいる間だけでは到底読みきれそうにない。それでも淡々とページをめくっていたが、3章の途中辺りでプレイリストが終わりを迎え、周りの声が鮮明に聞こえるようになってから、集中力が一気に途切れた。

もっと速く本が読めたらな、とはいつも思うのだけど、どうやら自分には無理っぽい。元々どんな行動も、いつものろまなんだよな。今月下旬には文学フリマもあるし、また未読の本が積み上がっていくのだろう。楽しみはまだまだ残ってるという気持ちで、自分のペースでゆっくり消化していこう。

帰り際に、Gmailの受信ボックスを確認する。抽選に申し込んでいたライブの、当選メールが届いていた。よかった。楽しみがまたひとつ増えた。


「タバコの残り、どうすっかな…」

試験勉強は全く進んでいなかった。


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