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空っぽの心に音楽を

毎年、冬は憂鬱になりがちだ。

単純に寒いのが苦手だし、日照時間が短く、平日の朝は外が暗い時間帯に起きなければならない。休日は意味もなく外に出て散歩するのが好きだけど、寒いとそれがどうしても億劫になってしまう。いざ家から出てみても、長時間外に居続けるのはしんどい。

こんな風に、冬の嫌いなところを挙げていくとキリがない。しかし、自分の抱えている憂鬱の原因が、全部冬のせいという訳では決してない(そうであればいいのに、と思っているけれど)。結局は慢性的に続いている不安感がいちばんの問題なのだ。

自分の将来に展望がほとんどなく、この先やりたいことも全然思い浮かばない。仕事は何とか安定しているのだから、今は気にしすぎず好きなことをやっていればいい、と楽観的に考えてもいいはずだと分かっている。しかし自分自身が何も持っていない空っぽ人間だ、という事実が重くのしかかって苦しくなってしまう。

こんな問題は、今深く考えても答えは出ない。それでも負のループに陥ってしまうと、中々抜け出せなくてつらい。こういう時は、素直に音楽の力を借りるようにしている。特に去年から、LAMP IN TERRENの曲を頻繁に聴くようになった。


LAMP IN TERREN(略称は「テレン」など)は、2006年にメンバーが中学生の時に結成された、いわゆる幼馴染バンドだ。TERRENとはラテン語の「terra(星、大地などの意味)」をもじった造語で、バンド名には「この世のかすかな光」という意味が込められている。

僕はスピッツのトリビュートアルバムでLAMP IN TERRENの存在を知り、そのあと就職に伴い上京してから、彼らの曲を熱心に聴くようになる。当時の新曲『innocence』に惹かれて、この曲が聴きたいばかりに直近のライブサーキットイベントへ行ったことを今でも覚えている。上京後、初のライブもテレンだったのだ。

『innocence』は、ボーカルの松本大さんが、運命という言葉と向き合って作った曲だ。ダークで刹那的な曲調と、現状や事実と対面しつつ前へ進もうとする歌詞。特に2番のサビの歌詞は、初めて聴いた当時から今でもずっと、自分の心に刻み込まれている。

何を選んでも弾かれる日々の先で
この目に映っている色はどうだった
疑いようもない程 頭では解っている
絶え間ない定めの中から捉えた色

LAMP IN TERREN『innocence』より


それからテレンの曲を色々追うようになった。鬱っぽい性格の僕は、どうしても暗めの曲ばかりに惹かれていたのだけど。

日常生活に潜む孤独や不安、自覚せざるを得ない自身の弱さや稚拙さ、それらの問題をどうすることも出来ない、あるいは変える気力すら湧かないどうしようもない自分。考え出したら止まらずどんどん沈んでいく気持ちを代弁してくれているようで、聴いていると心の穴が埋まる感覚があったのだ。それは今でもほどんど変わらない。

理想に心が眩んだまま
夜な夜なその闇に飲まれた
この肌が照らされてしまう前に
引鉄を引きたい

LAMP IN TERREN『New Clothes』より

どうか 不安な夜も
生きる意味がありますように
どうか 忘れ行く日も
生きる意味がありますように
どうか 弱い僕にも
生きる意味がありますように

LAMP IN TERREN『亡霊と影』より

保とうとすればするほど
自分である意味だって霞んでいく
大人にならなきゃ もう支度しなくちゃ
身嗜みは崩さず 急いでいかなきゃ

LAMP IN TERREN『ワーカホリック』より

2021年はテレンのライブにたくさん行った。この年は、ちょうどバンド結成15周年の年でもあったのだ。クラウドファンディングでベルトアルバムも製作され、バンド初のホールワンマンライブも開催し、活動は順調だと信じていた。

そんな中、ホールライブが終わって数日が経った頃、大さんのツイキャスで告知があった。年内でLAMP IN TERRENとしてのバンド活動を終了する、という発表だ。ドラムの川口大喜さんの脱退に伴い、新年からは新しいバンドとして再スタートするのだそう。

これを聞いて、僕は何とも言えない気分に苛まれた。大さんがバンドとして音楽活動を続けてくれることは嬉しいけれど。これからもいっぱいライブに行こうと思ってたのに、新しい曲も、これまでの曲も、もっとたくさん聴きたいと思ってたのに、もうライブが観られなくなるのか。LAMP IN TERRENとして音源は出なくなってしまうのか。色々考えると、やっぱり悲しい。

少なからずモヤモヤを抱えたまま、12月28日、リキッドルームでのラストライブへ参戦したのだった。しかし、そこでのLAMP IN TERRENは、後ろめたさなど微塵にも感じないくらい、前向きに振り切った音楽を魅せてくれた。純粋にカッコイイと思えた。未来でまた出会うための約束『おまじない』では、あまりの温かさに、つい目が潤んでしまう。

消えない想いの全てを
乗せて君とだけ使うまじない
嘘なんてひとつもない
ただ僕は君と出会った
同じように見付けてくれた
君と未来に出会うために
いつまでも唱える
おまじないを唱える

LAMP IN TERREN『おまじない』より

終盤での『I aroused』は、自分たちに言い聞かせているような、あるいは「これからも俺たちを信じて見ていてくれ」とオーディエンスに向けているかのような、強いメッセージ性のある1曲となった。照明の演出も相まって、まさに「この世のかすかな光」が表現されていた。アンコールはなく、最後は『ニューワールド・ガイダンス』で潔い幕引きとなる。


コロナ云々関係なく、好きなバンドがいつ観られなくなるかは本当に分からない。メンバーの年齢が若いからと言って、この先長く活動を続けてられるとも限らない(テレンのメンバーは、僕と3つしか年齢差がない)。生きていれば、嫌でも変わっていくものがある。そんな事実を思い知らされた。

大さんも、自分には想像出来ない所でもがいていたのかもしれない。そこから少しでも脱出するために見出した、新たなスタートを僕も是非見てみたいと思う。


そういう気持ちで新年を迎えたのだけど、結局のところ、年が変わった程度でメンタルが簡単に強くなるはずもなかった。相変わらず気分の波は激しく、しょっちゅう虚無感に襲われ、気力が全く湧かなくなってしまう。ひどい時は仕事さえ手につかない。

強い波には逆らうだけ無駄だ。あえて流され沈んで沈み切って、底に到達してから、少しでもフワッと浮き上がるチャンスを待とう。そしてまた自分のペースでだらだら動こう。LAMP IN TERRENの『I aroused』でも聴きながら。

この胸の奥で揺らぐ
灯りに気付いて
あぁ こんな色をしていた
眠るように私は目を覚ます
あるがままで光る

LAMP IN TERREN『I aroused』より


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