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神様と会える方法

私の病気が治ったのを見てみんなは言いました。

「奇跡だ。これは神様の仕業にちがいない」

私は2週間ほど原因不明の高熱にうなされ、お医者からは残念だがもう無理だ、助からないと言われていました。子供の私に、まわりの大人たちは、かわいそうに……と言葉がつまってそれ以上何も言えないようでした。

それが回復し始めると、喜ぶというよりも、どこか不思議がっているようでした。それは私がこの村の生まれでなく、ある日突然村の近くで村人によって発見されたという事実が根底にあるようでした。突然村にやってきた少女が原因不明の病気にかかり奇跡的な復活をとげた……みんなが不思議に思うのも無理はなかったかもしれません。

村長はさっそく儀式を行うように言い、村で収穫した穀物を供え、祈りを捧げました。そして、私の回復祝いもかねてみんなで夜通しお祭りをしました。そして、その年は豊穣で、穀物がとてもたくさん穫れたので、村中が喜びました。

すっかり私の体調はよくなり、後遺症などもまったくなく、病気だったことは徐々にみんなの記憶の片隅にいってしまったようで、みんなの関心は、その後の奇跡のようでした。

村人の中には、余った穀物を売って裕福になる人が現れました。それと同時によその村や国の人が出入りするようになりました。

村に、見たことのない家が建ち、見たことのない服や食べ物が持ち込まれ、みんなは驚きました。何がなんだかよくわかりませんでしたが、今までの自分たちの生活と比較した時、高水準であるということだけはわかりました。そうなると、自分たちもあんな生活がしたいと思うようになるのは自然の成り行きでした。

どうしたら、再び奇跡が起こって収穫を増やせるのか、みんなは考えました。以前であれば、神様の存在を信じてはいても、現状に満足していたため、そんなことを考えようなんて誰も思わなかったのです。ところが外の世界を知ってしまうと今までのようにはいかなくなるというわけです。

みんなで考えましたが、なかなか答えは出てきませんでした。そんな中、異国の服に身をつつんだ、先ほどの金持ちになった男が現れ言いました。「私は奇跡を起こせる方法を知っている」

村のみんなは男に詰め寄ります。いったいどうやるんだ教えてくれ!

男は答えました「いいだろう。ただし金品と作物を持ってきた者に限る」

男は神様に会うための方法を金で村に売ろうとしたのでした。村人は反対します。そんなのはおかしい、神様に対して不敬だ。第一おまえは村の人間だろう。一人だけ勝手なことをするな。

これに対して悪びれもせずに「ならばおれはこの村を出ていく。方法が知りたい者は来い」と言って村を出ていってしまいました。

村のみんなは言いました。あんなやつ村にいない方がいい。こっちからお断りだ。これで変な連中も出入りしなくなる。元の村を取り戻そうみんな!

こうして、みんなに再び団結が戻った……はずでした。

しばらくは同じ様子だったのですが、やはり他の国の人々が再びやってくるようになってしまったのです。

なぜそうなってしまったのか。こっそりお教えしますと、村人の中にこっそり、奇跡を起こす方法を聞きにいった人がいたのです。ただし、村のみんなには秘密にしていました。だからしばらく問題は起こらなかったのですが、ある日から状況は変わりました。

再び奇跡が起こったのです。

村の一人の子供が高熱にかかったことで村中は大騒ぎになりました。

結果的に子供の熱は私と同じように下がり、無事に回復しましたが、私の時と違うことが一つありました。

それは大人たちの反応です。

子供のことを心配しているというより、今度はどれくらいの収穫がもらえるのか。そして、どれくらいお供えをしようかと陰で相談しあっていました。表面上では子供のことを心配しつつも、内面では自分たちの生活が豊かになることにしか関心がありませんでした。

そして、再びお祭りをすると、またしても収穫は増えました。

私が村に初めてやってきた時よりも、村はずっと豊かになりました。ただ色々な意味で以前の村とは違ってきました。

前と同じように裕福になる人が現れました。しかも今度は一人ではなく、村全体が裕福になっていきました。この時みんなは本当に楽しそうでした。

しかし、ある時一人の男が言いました。「奇跡が起こったのは私のおかげだ。私が奇跡を起こす方法を前もって行っていたから無事起こすことができたんだ。奇跡は起こるものじゃなく、起こすものだと言うだろう」

この男は村を出ていった男から、奇跡を起こす方法を聞いた男でした。

それを聞いた村のみんなは当然疑います。そんなもの、お前が起こしたかどうかなんてわからないじゃないか。どうやって信用しろというのだ。

やはり、この男も村を追放されてしまうのか。

結論から申し上げますと、前とは少し異なった結果となりました。男を支持する人々が現れ始めたのです。

事実として、奇跡は起こり、男はより裕福になったわけですから、自分もそうなりたいと思うのは人間の性なのです。自分がこれだけ裕福になったのは奇跡を起こし方を知っているからであり、私を支持してくれた者には、それを特別に教えようと思う。全員に教えるつもりはない。早い者勝ちだ。

このようにして、男の周りには人が集まってくるようになりました。ただし、当然男たちの集団を快く思わない人々もいるわけです。そういう人々がとった行動は、奇跡を起こす本当の方法を知っているのは自分であり、男の言っていることはすべてまやかしであると自分を正当化しました。

さらに同じこと言い始めた数人現れて村は混乱します。いくつものグループが形成され、ことあるごとにその代表者たちが集まって話し合いをするようになりました。これまでも話し合いはありましたが、明らかに雰囲気が異なっています。どのグループも自分たちの主張を曲げる気はなく、やがて村全体が分裂してしまうのは目に見えていました。

そこでこう決めました。みんなの関心事はいつ奇跡が起こるのかであり、奇跡を起こすことができたグループの言うことを聞くことにしようと。それにはみんな納得しました。そしてその日から躍起になって、神を降臨させようとそれぞれが思い思いの方法を試すようになりました。

一か月、二か月、三ヶ月たち、半年がたちましたが何の音沙汰もありません。それでも年に一度は起こるだろうと待ってみましたがやはり何も起こりません。村のみんなは不思議に思います。どうして何も起こらないんだ。これだけ方法があるのなら、神を呼び寄せるくらい簡単なことじゃないか。

しかし、以前として何かが起こる気配はありません。みんなは徐々に焦り始めます。作物の収穫量が減るだけでなく、このままだと自分たちの方法はまったく意味がなかったと証明されてしまう。そこであるグループのリーダーだった一人の男がこんなことを考えます。

奇跡が起こる前兆として、いつも子供が熱を出すという現象が起こっていたのだから、その状況を無理矢理つくりだせばいいのだと。

男はグループのみんなには内緒で、グループ内の一人の少年の食事と睡眠を減らし、雨がひどく降った夜、外に立たせておきました。

普通ならこんなことはできないはずなのですが、切羽詰まった状況と、自分が一番に手柄をあげたいという気持ちが男をそうさせてしまったのです。

そして男の計画どおり、子供は熱を出しました。

それを確認すると、男は村中のみんなにそのことを伝え、呼び集めました。

「おれの方法がついに成功した。これから子供が回復し、奇跡が起こるだろう!」男は村中のみんなに聞こえるように叫びました。みんなからは拍手が起こりました。やはり方法は存在した。これから新しい支配者が生まれるのだ。村中が興奮に包まれました。そして後は子供が回復するのを待つだけだ。

ところが子供は回復しませんでした。

熱が下がることなく死んでしまったのです。

みんなは動揺します。どうして子供が死んでしまう。これから奇跡が起こるはずではなかったのか。

さらなる悲劇が村を襲います。

子供を死に追いやった男は雷に打たれ、死亡し、さらにこれまで経験したことのなかった災害が村を襲い、家はすべて破壊され、作物は全滅しました。

もはやこの村で生活することはできなくなり、生き残った村人たちは、住む場所を求め、それぞれ、ばらばらに散っていきました。それから奇跡を起こす方法を語る者はいなくなりました。


話はここで終わりますが、私からみなさんにお伝えしておきたいことがあります。

果たして、奇跡を起こす方法とやらは本当に存在したのでしょうか?

私はその問いに答えることができます。

なぜなら、神様は私だからです。

神様の私が言うのだから間違いありません。

私は村をずっと見てきました。私が熱を出したのは人間の身体の乗り移ったからです。これをやると、人間の身体に拒否反応のようなものが起こるのです。ちなみに作物を多く与えたのは、私を受け入れてくれたみんなの気持ちが嬉しかったから。

そして、村を追い出された男が言っていた、方法……

そんなものは存在しません。あれはただのお金の儲け方であり、神様を呼ぶ方法などではありません。他の人たちが言っていた方法もすべてウソです。

二回目に作物がたくさん収穫できたのはただの偶然であり、私は何もしておりません。子供が熱を出したのもただの風邪です。

ただ最後に罪もない子供の命を奪った行為に対して私は、村を滅ぼしました。それ以外は一切何もしておりません。

これから、誰もいなくなった村の中央にある広場に、一つの苗を植えようと思います。

あの男の子の生まれ変わりとして。







確実に続けていますので、もしよろしければ!