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フランク・ザッパ生前アルバムランキング

 本記事は、私がよく観ているYouTubeチャンネル「よしまミュージック」さんで「フランクザッパ、生前のアルバムランキング!」という企画配信があり、それに触発されたものです。

 元来、私じしんは、優劣をつけるランキングというものに否定的だったのですが、フランク・ザッパほどのディスコグラフィの量になると、ある人にとってのベストがある人のワーストになりうるもので、趣味趣向の傾向をわかってもらうためならランキングという手段も悪くないのでは、と思い至り、この投稿と相成りました。

 さて、ザッパのディスコグラフィは公式で通し番号がついていて、生前のアルバムは全62タイトル。(30年に満たない活動期間でこの数はスゴイ。)ただし、オリジナルLPでは2タイトルだったものがCDでは1つになっている場合があり、私は基本的にCDで聴いているので、CDタイトルの単位でカウントして55枚となりました。(『Mothermania』はコンピなので除外としました。)
 記事中では細かく言及していませんが、CD版でもいろいろとバージョン違いがあります。その辺りのマニアックな話は別の機会に譲るとして、基本的には2012年リマスターを聴いての感想と思っていただいて構いません。

評価にあたっては、
・アルバムの構成が優れているか
・繰り返しの聴取に耐えうるか
・ほかのカタログと比べて優れた演奏が含まれているか
・スタジオ録音であればライヴテイクよりも優れているか
などの点を意識しましたが、極論「好み」ですので悪しからず…。


第55位 Francesco Zappa (1984)

 誰がやってもコレが最下位になるのでは…。
 このアルバムは、いまや120点を超えるディスコグラフィのなかで唯一、全収録曲がザッパの作曲ではないアルバムで、18世紀イタリアの作曲家フランチェスコ・ザッパの作品をシンクラヴィアで演奏したアルバムです。おそらく、「たまたま名前が一緒の作曲家がいたので演奏してみました」以外の趣旨はないと思われます。
 実際に聴いてみると、ほのぼのとした作風で意外に聴取に耐えうる内容だったりするのですが、ザッパの作風とは異なる別種の音楽なので、世評でももっとも人気のないアルバムです。

第54位 Baby Snakes (1983)

 映画『Baby Snakes』のサウンドトラック。タイトルトラックの「Baby Snakes」を除いて、1977年10月28~31日のハロウィーンライヴから収録されています。
 演奏内容は抜群に良いのですが、なんせ収録曲数が少ない。なのでこの順位となりました。DVDがあれば事足りるのでわざわざ聴かなくてもOK、とまで私は言い切ります。
 ちなみに、iTunesで完全版がダウンロード販売されています。(CD未発売、且つ死後リリースなのでこのランキングでは対象外。)完全版のほうなら、トップ10に入るかも!?

第53位 Mystery Disc (1985&1986)

 旧作をリミックス&リマスターしたLPボックス『Old Masters Box』のI, II にオマケとして付いてきた未発表音源集(IIIも出ていますがMystery Discはなし)で、CDでは1枚にまとめられました。
 マニア向けな内容で、一つの作品としての統一感もないので、あまり思い入れのない作品です。

第52位 Thing-Fish (1984)

 ファンのあいだでも評判があまり良くないアルバム。(ですよね?)
 内容は、ブロードウェイでの上演を想定して製作された(本気か?)ミュージカル作品。好意的に言えばロックオペラとなるんでしょうが、その実、「ネイティヴでも理解不能なレベルのスラングがたっぷり入った下品なSFコメディ」という日本語を母語とするリスナーにとっては相当クセスゴなもの。
 全編を通じて会話劇が展開されるためか、ボーカルを前にして演奏は後ろに引っ込んだミックスとなっているのも、あくまでバンドの演奏が好きな私としては面白くないポイント。楽曲の半分くらいが過去作からの再収録というのも減点対象ですね。よほど英語のリスニングに堪能でないかぎり、日本語対訳は必須です。国内盤を買いましょう。

第51位 The Best Band You Never Heard In Your Life (1991)

 このあたりから物議を醸しそうな予感。
 最後のツアーとなった1988年のライヴから選りすぐりの演奏を集めた3部作のうちの一つ。タイトルから察するに、この編成にはザッパも相当満足していたようです。
 ベスト選曲とも言えなくもないので、入門者向けのアルバムとしてもときどき推薦される本作なのですが、私はあまり好きになれません。というのも、このアルバムはとくにカバー曲が多い。しかも、Jimi Hendrix「Purple Haze」、Cream「Sunshine Of Your Love」、Led Zeppelin「Stairway To Heaven」といった超のつくメジャー曲が並んでいて、続けて聴いていると「もうお腹いっぱい!」という気持ちになってしまいます。
 また、コンプレッションが効いた"人間味の薄いミックス"なのが輪をかけて好みでなく…。1988年ツアーの音源であれば、いまでは『Zappa '88: The Last U.S. Show』でフルショウが聴けるのでそちらをオススメします。

第50位 Zappa In New York (1978)

 これも人によってはベストに挙がりそうなアルバム。
 いわゆる"『Läther』解体4部作"のうちの一つで、1976年12月26~29日のNY公演から採られたライヴ盤です。パーカッションのRuth Underwoodが復帰、Brecker Brothersをはじめとするホーン隊、ナレーションにDon Pardo(米テレビ番組「サタデー・ナイト・ライヴ」のナレーター)が参加と豪華な布陣で、スペシャル感の強い特別編成です。「Titties & Beer」、「Punky's Whips」、「Black Page #1」&「#2」など、Terry Bozzioがフィーチャーされている曲も多いし、生前リリースのなかではEddie Jobsonのプレイが1枚通して聴けるのは実質本作だけということもあり、支持されるのも頷けますし、現に私も昔はフェイバリットの一つでした。
 しかしながら、その他アルバムを聴いて改めて聴きなおしてみると、違った感想を抱くようになりました。短期的な編成且つ人数が多いこともあってか、リハ不足なのでは?と。全体的にややテンションが低く、約1年後の『Baby Snakes』と比べると、演奏のタイトさに差を感じてしまいます。
 2019年には40周年記念版(CD5枚組)がリリースされましたが、その印象は変わらず…。どうせなら、良い音質で4公演分フルショウ丸ごと聴きたいな…。

第49位 Playground Psychotics (1992)

 内容は「1970年から1971年にかけてのツアードキュメンタリー」と言ったところ。"録音魔"だったザッパがこっそり(?)録音したメンバーの会話が半分くらい占めていて、会話パートは対訳がないとただただ退屈です。
  リリース当時のセールスポイントとしては、Disc 1の最後に収録されたJohn Lennon & Yoko Onoとの共演時の音源、Disc 2の「Billy The Mountain」(約30分版)でしょうか。というか、それ以外は会話パートが多すぎて正直繰り返し聴く気になれません…。
 いまでは、John & Yokoとの共演のフル収録を含む8枚組『The Mothers 1971』があるので、相対的に本作の価値が減ってしまいました。

第48位 Zoot Allures (1976)

 ジャケットに写っているPatrick O'HearnとEddie Jobsonは参加していないことで有名。"ジャケ詐欺"なアルバムです。「Black Napkins」は1976年2月3日の大阪公演での演奏が採用されています。
 ライヴでよく演奏される曲が多数収録されているのでその点は高評価。他方、ザッパのネチっこいボーカルが強調されており(リマスターでだいぶマシになりましたが)、ほかのアルバムで聴けるライヴテイクと比べると、アピールポイントがとくに見当たらないという不遇さがあります。なんとなく暗いムードが漂うアルバムで、収録時間が短いのも少し不満。(当初は2枚組の予定だったとか。)
 ちなみに、タイトルはフランス語の "Zut alors!"(あ、しまった!)をもじったものだそう。

第47位 Studio Tan (1978)

 "『Läther』解体4部作"のうちの一つ。
 1972年のGrand Wazooツアーからすでに演奏されていた「The Adventures Of Greggery Peccary」が晴れて初収録。なのですが、この曲に私はそれほど思い入れがないということもあり、このような順位に。アレンジも本作で聴けるバンド版よりもオーケストラ版のほうがよいと思っています。
 「RDNZL」にしてもちょっと凝りすぎで、私は初期のアレンジのほうが好み。

第46位 Lumpy Gravy (1968)

 ザッパの場合、バンドかソロかというのはあまり意味がありませんが、いちおう本作が初ソロ名義のアルバムです。
 サウンドコラージュの技法による前衛的な内容で、器楽演奏よりもおしゃべりパートが多く、演奏を楽しもうという姿勢で聴くには不向きなアルバムです。バンド演奏を好む私にとってはこの手の作品の評価が渋くなる傾向あり。

第45位 Fillmore East, June 1971 (1971)

 リリース順だと本作が初のライヴ盤ということになります。
 歌モノが多く、コンパクトな曲が中心に収録されているので、入門盤としても意外に悪くないのではと思ったりしますが、私としてはFlo & Eddie期のライヴの魅力を正確に伝えるものではないと思っていて、評価は高くないです。
 それでも、The Turtlesのヒットナンバー「Happy Together」のセルフカバーは、良いアクセントになっていて、聴くたびに元気になります。
 『Playground Psychotics』と同様、いまでは『The Mothers 1971』でフルショウが聴けるので本作の地位がダウン。

第44位 Them Or Us (1984)

 ディスコブームが到来した1980年代、ザッパも流行に呼応して80sらしい"MTVサウンド"の曲調・アレンジを採用します。本作もご多分に漏れず、そんな傾向のアルバムなのですが、そもそも私は80sのポップス、ロックが苦手で…。
 とは言いつつも、本作はポップで聴きやすいし、コンパクトな曲も多いのでザッパ入門者にもそれなりにオススメできます。他方で突出した曲がなく、全体的に散漫な印象が拭い切れません。
 最後がThe Allman Brothers Band「Whipping Post」のカバーというのも、ザッパをコンポーザーとして評価する私としては、聴き終わった後の後味の悪さを感じてしまいます。

第43位 Tinseltown Rebellion (1981)

 いちおうライヴ盤ということになるのですが、編集のせいか、あまりライヴ感を感じません。選曲も個人的にはイマイチ。
 ちなみに「Peaches III」は、みんな大好き「Peaches En Regalia」が『Hot Rats』、『Fillmore East – June 1971』に続いて3回目の登場という意味。途中、デジタル風味なアレンジも時代を感じさせるようで好みではないかな…。

第42位 Frank Zappa Meets The Mothers Of Prevention (1985)

 PMRCの歌詞検閲問題を真っ向から取り上げたアルバムで、そのせいでバージョン違いがいろいろあります。
 歌モノ、インスト、シンクラヴィアと曲のバリエーションは豊か。目立たないアルバムだけど、なかなか聴きやすいです。言い換えると、焦点が定まっていないとも言えるわけで…。
 そんななかでも「What's New In Baltimore?」が聴きもの。「Porn Wars」では得意のサウンドコラージュの技が遺憾なく発揮されています。(コンピ盤『Understanding America』で拡大版が聴けます。)

第41位 You Are What You Is (1981)

 歌モノ中心のポップなアルバムです。
 やはり私にとって80sのザッパは鬼門で、いかにも80sなアレンジでLP2枚組のボリュームを通しで聴くのは辛いです…。良い曲が多いのもたしかなので、ここから入ってハマる人がいるのもわかりはします。

第40位 Roxy & Elsewhere (1974)

 本作を初めて聴いたとき、YCDTOSA2を先に聴いてしまっていたので「なんだか、もったりしているなぁ」というのが率直な感想でした。(聴く順番が悪かった。)『Roxy By Proxy』が出てからはそれを愛聴していたので、そんな印象を抱くのはミックスのせいなような気もしています。
 いまでは、ファンにとっては積年の念願であった映像版『Roxy: The Movie』もあれば、ステージの全貌を明らかにした『The Roxy Performances』(CD7枚組)もあるので、ボリュームさえ気にならなければ、本作よりもむしろそれらをオススメしたい。(その『Roxy: The Movie』にしても、採用されなかった映像ソースはまだあるみたいだし、そのうち拡大版がでる可能性も…。)

第39位 Apostrophe (') (1974)

 キャリア中、一番売れたアルバム(だったはず)。
 人気曲が目白押しで、収録時間は短いながらも充実した内容なのですが、ここに収められているのがいずれもベストテイクだとは思えず、この位置に。山ほどライヴテイクが残されている曲ばかりなので、わざわざ本作を手にする機会がないのが正直なところ。
 Jack Bruceが客演したタイトル曲は異色で、全体の流れのなかでも若干浮いていると思う。

第38位 One Size Fits All (1975)

 こちらも代表作ですが、『Apostrophe (')』と同様の理由であまり聴く機会が多くないアルバムです。むしろ「Inca Roads」や「Sofa」以外の曲にこそ本作の魅力があると思います。

第37位 The Man From Utopia (1983)

 雰囲気は『Them Or Us』と似てるかも。コンパクトな歌モノが多く聞きやすいアルバムです。ただ、やはり80sはザッパの作曲パワーがピークを過ぎていると思っていて、曲の魅力は70sと比べると劣ると思います。が、ライヴで演奏されない分、このアルバムでしか聴けない曲が多いので、意外に繰り返し聴いている昨品だったりします。
 個人的には「Moggio」がお気に入りチューン。

第36位 Ship Arriving Too Late To Save A Drowning Witch (1982)

 最初から最後までしっかり"ロックしてる"アルバム。「Valley Girl」のスマッシュヒットもあり、けっこう人気作ですね。
 けっして悪くない出来ですが、スタジオ盤らしい落ち着いた雰囲気で損している気も…。このメンツに限りませんが、とくに80sのザッパバンドはライヴのほうがいいよなぁ…と思ってしまいます。

第35位 You Can't Do That On Stage Anymore Vol. 3 (1989)

 ライヴ音源の集大成YCDTOSAシリーズ。幅広い選曲よりは1公演丸ごと聴きたい私としては、Vol. 3~6はどれも横並びの評価なのですが、強いて言えばこのVol. 3は歌モノ中心なのがちょっと辛い。

第34位 You Can't Do That On Stage Anymore Vol. 6 (1992)

 Disc 1が下品な歌詞の曲中心、Disc 2は恒例のハロウィーンライヴ中心。あまり印象がない…。聴きなおします。

第33位 You Can't Do That On Stage Anymore Vol. 5 (1992)

 Disc 1が初期Mothers、Disc 2が1982年バンド。時期がまとまっているので聴きやすい。80sは公式でもっとライヴ音源をリリースしてほしいですね。

第32位 You Can't Do That On Stage Anymore Vol. 4 (1991)

 Disc 2終盤のドゥーワップメドレー、「The Torture Never Stops」がCaptain Beefheartのボーカルで聴ける…というくらいの印象。いや、もちろんそのほかの曲もクオリティはめちゃくちゃ高いんですけどね…。

第31位 Ahead Of Their Time (1993)

 1968年10月28日ロンドン公演より。BBCシンフォニーオーケストラとの共演という特別なライヴ。Disc 1の喜劇的パフォーマンスは音だけだと何をやっているのかイメージしづらいですが、何といってもDisc 2の圧巻のインストメドレー。初期Mothersが気に入ったなら必聴です。

第30位 Chunga's Revenge (1970)

 これはイイです! ほかのアルバムに埋もれてしまっている印象がありますが、この辺りの時期のザッパのギターが好きなら愛聴盤になること必至。寸劇・歌モノに定評のあるFlo & Eddie期ではあるものの、まだまだお試しのレベル。かえってそれが功を奏して、歌モノとインストのバランスが良い塩梅に。

第29位 The Yellow Shark (1993)

 オーケストラモノです。1992年、アンサンブル・モデルンとのドイツ公演が収録されています。
 キャッチーなメロディのある曲と前衛色の強い曲がありますが、後者のほうが多いです。最初の頃は苦手だったのですが、聴きなおしてみると思いのほか良かったので再評価中。

第28位 You Can't Do That On Stage Anymore Vol. 1 (1988)

 YCDTOSAシリーズの第一弾ということで、ザッパの編集も気合いが入っているように感じます。代表曲が目白押しで、演奏も折り紙つきとくれば、ライヴベストといって差し支えないと思う。
 そうは言っても、Disc 1最後のYellow Snowメドレーなんかはおしゃべりパートも多く、対訳がないと何をやっているかわかりにくい箇所もあるので、なかなか一筋縄ではいかない…。

第27位 Does Humor Belong In Music? (1986)

 1984年バンドのライヴ盤。当然編集はされていますが、1本のライヴとして聴くことができるので私は比較的高評価。選曲も1984年バンドのコメディタッチ&テクニカルを表現できていてまずまず。
 同タイトルの映像版がありますが、曲の重複があっても別の日の演奏でまったく別内容なので要注意。国内盤LDまたはVHSなら、歌詞の部分にも日本語字幕が付いているのでとくにオススメです。(DVD版は残念ながら国内盤が出ていません。)

第26位 Make A Jazz Noise Here (1991)

 1988年ツアー3部作の最終作。インスト中心の選曲で、プログレ好きには聴きやすい。繰り返しになりますが、1988年ツアーのライヴ盤なら『Zappa '88: The Last U.S. Show』を推薦します。本作ももちろん聴いて損しないクオリティではありますが。

第25位 London Symphony Orchestra Vol. I&II (1983&1987)

 オーケストラモノはファンのなかでも賛否両論ですが、その他カタログを聴き倒してから戻ってくるとけっこう好きになってきます。本作はケント・ナガノ指揮で、オーケストラモノのなかでは彼がいちばんザッパのスコアに対して理解があるのではと思います。とは言いつつも、若輩者の私には、ちとボリュームが多くて…。

第24位 200 Motels (1971)

 映画のサウンドトラックです。映画に使われていても本作に収録されていない曲やその逆もありなので、映画との関連は深く考えないようにしましょう。
 映画のほうは支離滅裂なSFコメディといった風ですが、本作はちゃんと流れがあり、セリフパートが多いものの、類似作品のなかでは聴きやすい部類です。傑出した点として、オーケストラの使い方が凡百のロックバンドとは一線を画していること。器楽アンサンブルとして、バンドとオーケストラが有機的に一体化しています。
 ライヴでよくやる曲もいくつかあり、それらはライヴよりも抑制が効いていて(ライヴでは少々はっちゃけすぎ)、本作で聴けるほうがクオリティが高いと思う瞬間もあり、その点も高評価ポイント。

第23位 Absolutely Free (1967)

 『Freak Out!』よりも、よりザッパらしくなった2nd。1stはカタログのなかでも特殊な地位を占めるアルバムだと思っていて、本作が本当の1stのように思えてなりません。良曲多数で聴きやすいし、前衛的なエッセンスもあり。好盤です。

第22位 Shut Up 'n Play Yer Guitar (1981)

 1979~1980年のライヴからギターソロの部分だけを抜粋した企画モノ。もともとは『Shut Up 'n Play Yer Guitar』、『~ Some More』、『Return of the Son of ~』という3つのタイトルで単品リリースされたものが、後に1組に。
 本作は何といってもVinnie Colaiutaのキレのあるドラムとザッパのギターの絡みが醍醐味。3タイトル通しで聴くのは少々キツイですが、選りすぐりのプレイだけあって瞬間瞬間はスゴイのひと言。

第21位 Broadway The Hard Way (1988)

 1988年ツアー3部作のうちの一つ。政治色の強い歌詞の曲を中心に集められたもので、3部作のなかではもっともコンセプトがはっきりしており、アルバムとして統一感があります。
 聴くときは旧MSIの国内盤に付いていた「ブロードウェイ・ザ・ハードウェイの本」をぜひ片手に。

第20位 Sleep Dirt (1979)

 "『Läther』解体4部作"のうちの一つ。当初は"Hot Rats III"として製作されたらしく、インスト曲が充実しています。ザッパがアコースティックギターをプレイするのが珍しいタイトル曲なんか絶品ですね。
 オリジナルLPでは全曲インストだったのが、CD化の際にリミックス&ボーカル入りに。CDでは長らくオリジナルバージョンを聴くことができませんでしたが、2012年のリマスターの際にオリジナルLP準拠となりました。どちらのバージョンも捨てがたい…。

第19位 Boulez Conducts Zappa: The Perfect Stranger (1984)

 オーケストラモノ。現代音楽の世界では有名なピエール・ブーレーズが指揮を執りました。シンクラヴィアの曲もあり。
 私はクラシックの良い聴き手ではありませんが、本作を聴いているとなんだか雄大なイメージが喚起させられます。ボリュームもそこそこで聴きやすい。

第18位 Weasels Ripped My Flesh (1970)

 ライヴ音源の編集盤。本作リリース時点で、オリジナルMothersはすでに解散しています。
 本作はそこそこ前衛度が高くて評価が難しいのですが、「Oh No」~「The Orange County Lumber Truck」メドレーの初出であることを評価したいのと、「Didja Get Any Onya?」(バージョン違いも要チェック)が好きなので、それなりに上位となりました。

第17位 Frank Zappa: Guitar (1988)

 『Shut Up 'n Play Yer Guitar』に続く、ギターソロ集。
 当然ながら延々ギターソロが続くので、こちらも1枚通して聴くのはキツイけど、私はLPのSide毎に分けて聴くようにしています。そうすると、集中力が続いた状態で素晴らしい瞬間に連続で出会えます。全体的なアンサンブルとしてよくできていることが分かり、個人的には1980sのバンドの再評価につながったアルバムです。

第16位 Bongo Fury (1975)

 Captain Beefheartを帯同した1975年ツアーからの音源。(一部、スタジオ録音もあり。)実際のステージではBeefheartの出番は少なく、ほとんどは座って絵を描いていたそうな。
 Beefheartの活躍は横に置くとしても、後々もライヴ定番曲となる「Carolina Hard-Core Ecstasy」、「Advance Romance」、「Muffin Man」が含まれるし、なかなかまとまりが良く、好盤の一つです。
 そろそろこのツアーのボックスセットが出てもいいんじゃないでしょうか…?

第15位 Freak Out! (1966)

 出ました、記念すべき1st。LP2枚組という形式だけでも攻めてますね。
 ディスクガイドの類でも「とりあえず『Freak Out! 』を勧めておけばいい」とされているキライがありますが、どことなくザッパが一歩引いているように感じられて、入門盤としては向かないと思います。ある意味、"ザッパらしくない"アルバムです。
 トータルアルバムとしてのまとまりはないような…。でも、佳曲ぞろいなので、けっこう聴く回数が多いアルバムだったりします。
 オリジナルミックスを聴きたい人は『The MOFO Project/Object』を。ただし、4CD版は流通量が少なく、中古市場でもたまにしか見かけないので、欲しい人は粘り強くウォッチし続けましょう。

第14位 Cruising With Ruben & The Jets (1968)

 The BeatlesのSgt. Pepper'sを真似たのか、Ruben & The Jetsなる架空のバンドに扮してドゥーワップやR&Bだけのアルバムを作ってみました、という内容です。(架空のバンドというだけで、すべてオリジナル曲です。誤解なきよう。)
 シンプルに良い曲が多いし、アルバムとしてカラーが統一されているのですごく聴きやすいです。ザッパにしては普通すぎるという意見も聴こえてきそう。
 CDではベースとドラムがArthur BarrowとChad Wackermanに差し替えられていてすごい違和感。『Greasy Love Songs』でオリジナルマスター準拠の音源が聴けるので、いまではそちらを。

第13位 Over-Nite Sensation (1973)

 本作からザッパ自身が(仕方なく?)本格的にリードボーカルを担うようになったというのがポイントで、私は記念碑的作品だと思っています。
 また、『Apostrophe (')』や『One Size Fits All』に続く、同時代のプログレバンドも真っ青なテクニカルでファンキーなロック路線の出発点であること
も、本作をキャリアのターニングポイントであると評価する所以です。
 ライヴの定番となる佳曲も多く、とくにオープニングを飾る「Camarillo Brillo」は派手さはないものの、不世出の名曲で、このスタジオテイクがベストでもあるとも思っているので高評価となりました。

第12位 Waka/Jawaka (1972)

 ジャケットからもわかるように、『Hot Rats』の続編を意識されたアルバム。内容は、端的に言うとジャズロックなのですが、ビッグバンドスタイルを採用したことが独自性につながっています。ザッパのカタログ全般に言えることですが、キャッチーな感覚と前衛精神が喧嘩せずに両立しているのは稀有なことだと思います。「Big Swifty」、「Waka/Jawaka」に目が行きがちですが、そのあいだに挟まれている小曲も見逃せないクオリティ。

第11位 The Grand Wazoo (1972)

 『Waka/Jawaka』の路線を発展的に踏襲したら、ビッグバンド編成の軽快なブラスロックが出来上がりました。音は分厚いのに明るくて開放的なイメージを感じさせます。ザッパのコンポーザー、アレンジャーとしての才能が光りますね。ここまでくると当然捨て曲なし、素晴らしい!のひと言。
 ちなみに、オリジナルLPとCD化以降とでは1曲目と2曲目が逆で、CDのほうの曲順に慣れてしまってオリジナルの曲順はすごく違和感があります。
 この時期のツアーのライヴ盤『Wazoo』も充実の内容ですが、本作とはまた毛色が違うので、別物と思っていただければ。

第10位 Jazz From Hell (1986)

 1曲を除いて、すべてシンクラヴィアで演奏されたアルバムです。
 日本語版Wikipediaの「シンクラヴィア」の項目には、「1980年代のアメリカの商業音楽制作で一世を風靡した」とありますが、さすがに1枚丸々シンクラヴィアでつくられたアルバムはなかなかお目にかかれないのでは?(本作以外だと、Eddie Jobsonの『Theme Of Secrets』くらいしか知りません。)
 デジタルな音であっても、表現されている音楽はクラブミュージックのそれではなく、身体的に揺さぶられる感覚とは縁遠い現代音楽。なので、聴き心地はオーケストラモノに近く、室内楽的ですらあります。
 前衛だけど聴きやすい、聴きやすいけど前衛、という絶妙な匙加減。特異な作品だけど、これが最初の1枚であっても後悔はさせない、そんな高クオリティなアルバムです。

第9位 Just Another Band From L.A. (1972)

 Flo & Eddie期としては最終作となるライヴ盤。本作は何といってもSide 1を占める「Billy The Mountain」に尽きます。元音源(1971年8月7日LA公演)と比較すると「編集もまた作曲である」の真義がわかります。
 高評価の理由は、単にこの曲がお気に入りだということもありますが。

第8位 Joe's Garage Acts I, II & III (1979)

 ロックオペラモノ(コンセプトアルバム)では、いちばん成功しているんじゃないでしょうか。やろうとしたことと表現された内容が合致しているというか。
 ライヴでも私はこの時期のバンドが一番好きで、ライヴと比較すれば大人しさは感じますが、本作でもそのアンサンブルは抜群。曲も良いし、演奏も良いしで言うことなし。
 個人的には「Packard Goose」がお気に入り。(1988年ツアーでの演奏が印象的ですね。)

第7位 We're Only In It For The Money (1968)

 ジャケットはご存知、The Beatles『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』のパロディ。タイトルも、ジャケットと同様にThe Beatlesを揶揄する意図で発したものではあるものの、「オレたちはカネのためだけにやってる」と言い切ってしまう堂に入った態度表明は最高にクール。
 基本的に歌モノアルバムで、愛くるしいメロディがたくさん。個人的には「Take Your Clothes Off When You Dance」が大好き。

第6位 Sheik Yerbouti (1979)

 ロックアルバムとしては出色の出来。入門者向きのアルバムでもありますが、手堅く上位とさせていただきました。
 たっぷりのボリュームなのに捨て曲がほぼなく、トータルの流れも良し、ザッパのギタープレイも絶好調で、玄人も満足させる力作。
 ライヴ音源をベースに手を加えていく手法もこの辺りから板についてきた感がありますね。元音源である『Hammersmith Odeon』ももちろん素晴らしい内容なのでファンならマストアイテムです。
 なお、タイトルの読みは「シーク・ヤブーティ」で普及していますが、「Shake Yer(Your) Booty」と発音するんだそう。

第5位 Uncle Meat (1969)

 同名映画のサウンドトラックとして製作されましたが、肝心の映画のほうは未完に終わってしまいました。プログレッシヴロック、とくにカンタベリーシーンに多大な影響を与えたと思われる怪作です。
 歌モノ、インスト、ボイスコラージュと、何でもありな感じでとにかくバリエーション豊か。乱雑なようで整理されているという魅力はほかに替えが効きません。チェンバーロックの作品としてみても、同ジャンルの最高峰として位置づけられるのではないでしょうか。
 なお、『Uncle Meat』のタイトルで出ているCDはどれもリミックスされているので、オリジナルマスターを聴きたい人は『Meat Light』収録の音源を聴きましょう。

第4位 Orchestral Favorites (1979)

 これは若干贔屓が入っています。イマイチという意見の方も多いと思いますが、オーケストラモノのなかでもボトムをバンドが支えているのでかなり聴きやすく、現に私はここからオーケストラモノが好きになりました。
 40周年版(CD3枚組)も出たことだし、ぜひ再評価を!

第3位 Burnt Weeny Sandwich (1969)

 タイトルよろしく、最初と最後にドゥーワップの曲が配置され、それらにインスト曲が挟まれた"サンドウィッチ構成"のアルバムです。
 まず、「WPLJ」の名アレンジが心をつかむオープニング。佳曲が続きますが、やはり圧巻の「The Little House I Used To Live In」。クラシカルなピアノソロの導入からバンド演奏へと雪崩れ込んでいくスリリングな流れは何度聞いてもグレイト! ザッパのオルガンプレイも聴けます。

第2位 Hot Rats (1969)

 最初考えたときはもう少し順位が低かったのですが、そこは日和らずに自分の気持ちに正直にいったほうがいいだろうということでこの順位になりました。
 代表作と言われながらもザッパのカタログのなかでもやや特異で、スタンダードとは言えないけど、シンプルに「ほかでこんな音楽聴いたことない」というのが一番の評価ポイント。
 なかでも「Son Of Mr. Green Genes」は大のお気に入りで、ザッパ流「Composed Improvisation」だというのが持論です。
  なお、CD化の際にリミックスされてまた違った印象に。2012年リマスターではオリジナルLP準拠となりましたが、どちらも捨てがたい。

第1位 You Can't Do That On Stage Anymore Vol. 2 (1988)

 YCDTOSAシリーズの第2弾にして、「The Helsinki Concert」のサブタイトルのとおり、1974年9月22~23日ヘルシンキ公演を編集したライヴ盤です。コンサートの最初から最後まで通しで聴けるアルバムは、1988年時点で本作が初めてでした。
 演奏の上手さは、1970年代のロックシーンはもちろん、ジャズ・フュージョンシーンをみても、ザッパのバンドが同時代トップではないでしょうか。数々の難曲を切れ目なく演奏される様に圧倒されます。
 『Roxy & Elsewhere』から約1年、名うてのミュージシャンたちがツアーを通じてさらに洗練され、こんな速さで目をつぶってでも演奏できるようになるんだ、と御大もご満悦。ミックスに癖があるのが難ですが、それでも余りある魅力があります。

 以上、いかがだったでしょうか。
 皆さんのザッパライフが充実したものにならんことを…。VIVA! ZAPPA!

https://tiermaker.com/create/ultimate-frank-zappa-albums-tiermaker-2022-1281508

※ 2023年10月3日、加筆修正。

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