マガジンのカバー画像

哲学の論

9
運営しているクリエイター

#フランス現代思想

G・バタイユ『ニーチェについて』読書会の序文

 精神科医斎藤環によれば、1996年から2019年の間に鬱病は約三倍に増加している。人々は心療内科や精神科にかかる。鬱の傾向があれば日光浴や軽い運動などを勧められ、重度の症状があればレクサプロなどのSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を処方される。鬱病の治療において環境的な原因は問題ではない。鬱病の身体が役に立たないことが問題とされる。上で示した「治療」は鬱病で働けない身体をとにかく働ける

もっとみる

ニック・ランド『絶滅への渇き』におけるカントの位置付け

「ニック・ランド『絶滅への渇き』におけるカントの位置付け」

○はじめに 先日ゾルピデムという入眠剤を処方された。不眠の症状があり精神科にかかったのだ。幸いうつ病ではないのだが不眠はうつへの第一歩である。おそらく私のようなうつ病予備軍も含めて、先進国と呼ばれる国の若者は病んでいる。これにいち早く切り込んだのは1990年代のイギリスの思想家たちだ。
 その一人にニック・ランドという思想家がいる。19

もっとみる

モーリス・ブランショ「友愛」

エピグラフ
「私の共犯的友愛。これこそ、私の気質が他の人々にもたらすすべてである。」
「......深い友愛の状態にまで至る友。そこでは、見捨てられた、すべての友から見捨てられた人間が、生を超えて彼に連れ添うことになる人間に、彼自身は生をもたず、自由な友愛が可能で、いかなる結びつきからも解き放たれた人間に、生のなかで出会う。」
(ジョルジュ・バタイユ)

「友愛」

 この友について話すことにどう

もっとみる

ジャン=リュック・ナンシーの分有について

○はじめに
 ジャン=リュック・ナンシーの「分有」というタームは、その著作中に非常に多く見出される。しかも、それはおそらく彼の哲学の中心的なものである。彼を有名にした『無為の共同体』においても、分有は重要なモチーフである。
 しかし、分有それ自体がいかなるのものなのかという言及は多くない。この言葉はその使用において意味を示されており、あえて辞書的に「分有」を説明していないようにも見える。
 とはい

もっとみる