W杯2019バスケ男子日本代表の検証・振り返り
FIBA Basketball World Cup2019が終わりましたね。
日本代表は5戦全敗と悔しい結果に終わりました。
私も日本vsアメリカ戦を現地で観戦していたのですが、試合が終わった後はあまりの結果に呆然として、しばらく席を立てませんでした。
親善試合でニュージーランドやアルゼンチンにいい試合をし、ドイツに勝利して浮かれていた気持ちは一気に消え、世界との差を強く実感しつつ、下記のようなツイートもしていました。
もちろん、自分ができることは公式に公開されているスタッツを集計して分析をするくらいですが、それでもその分析が役に立つ可能性があるならやらずにはいられないと思い、この記事を投稿するに至りました。
今回は大きくオフェンスの課題とディフェンスの課題、そして特別なテーマとしてスローダウンのバスケについて、FIBAの公式サイトに載っているスタッツなどを元に自分なりに分析してみました。
是非ご覧いただければと思います。
分析に利用したコードや元データは下記URLに格納しています。
興味がありましたら、こちらもご覧ください。
オフェンスの課題
前提情報として、日本のオフェンスの良し悪しを確認する必要があります。
下記URLに参加国別のスタッツが記載されていますが、2P%では日本は32チーム中29位の42.8%で、3P%は27位の28.7%です。
これを見る限り、日本のオフェンスは他国と比較して悪かったと言えるでしょう。
では具体的にどこが悪かったのか。
まず着目したのが、ファストブレイクによる得点です。
上記は、ワールドカップのファストブレイクによる平均得点と、ファストブレイクでの得点が総得点に占める割合を可視化した図です。
日本の、1試合あたりのファストブレイクによる得点は約10点で、参加国32チーム中11位となっており、総得点に占めるファストブレイクの得点の割合は約15%で、6位に位置しています。
ファストブレイク時のFG%や、詳細な定義などは公式サイトでの記載がありませんが、この結果を見る限り、日本はファストブレイクにおいて他国に劣る要素は見受けられません。
つまり、今回のワールドカップにおいて、オフェンスが悪かった原因はハーフコートオフェンスにあると言えそうです。
なお、ファストブレイクについては、テンポを落とすバスケを目指したとのことですが、こちらの是非については後述します。
(テンポを落とすバスケを目指したとの記述については下記記事を参照してください)
では、ハーフコートオフェンスでは何が発生し、課題となっていたのでしょうか?
まず、AST%に着目してみましょう。
これを見ると、日本はAST%で56.0%の28位となっており、他の国と比べて個人で得点を重ねる割合が多い可能性が指摘されます*1
これは個人的な肌感覚とも一致していて、1on1で得点を取る動きが目立っていたなと思います。
この数値自体は、戦術によって左右される部分もあるので一概に良し悪しは言えませんが(3位になったFranceも低い数値ですからね)、こと日本に関して言えば、個人で点を取らざるを得ず、それだけチームとしてのオフェンスを構築できていなかったと言えるのではないでしょうか?
日本のASTについて深堀りするために、選手ごとのスタッツを確認してみましょう。
こちらを見ると、AST数で馬場選手が15本と抜けていますが、それ以外の選手のAST数は団子状態になっています。
これは重要なポイントだと思っていて、本当ならGの選手のAST数が伸びていて然るべきなのに、そこが団子になっているからです。
というのも、ワールドカップでは八村選手・渡邊選手はASTを配給する役割も担っていますが、普段はASTを受け取る役割で、そこのスキルを活かしきれてなかったことが窺えるんですね。
例えば八村選手は、ゴンザガ大学の最終年では40分辺りのASTは2.8本とチームメイトに比べて少なく、ASTを受け取る役割だったと見受けられます。
渡邊選手も同様で、Gリーグでは40分辺りのASTが3.3本で、チームメイトと比べると低い数値となっております。(オールラウンダーの評価を受けているようですが、メインでASTを配給する役回りを担うことは多くはなさそうです。)
つまり、八村選手・渡邊選手のポテンシャルを発揮するためにはASTを配給できるGの存在が必要で、今回はそこに弱点があったと予想されます。
(下記ツイートでも言及しました)
もちろん、ASTを配給できるGを配置して八村選手・渡邊選手のポテンシャルを最大限に発揮するのがベストの戦術とは限りません。
上記の図は、シュートの種類による得点の構成比を国別に出したものですが、Lithuaniaは総得点に占めるペイントエリア内の得点割合がとても高いです。バランチュナス選手やサボニス選手の影響と予想されますが、これを日本に置き換えて、八村選手とファジーカス選手でインサイドをゴリゴリにアタックするのもありかもしれません。
しかし、ファジーカス選手がいなくなった後に、その役割を担える選手が継続的に現れる確率と、ASTを配給できるGが継続的に現れる確率、言い換えると7フッターでインサイドでの1on1が強いセンターと、190cm以上*2でドライブでのアタックやASTができるGのどちらが現れやすいかを考えると、個人的には後者のほうが高いと思います。
そういう意味で、長期的な目線では、協会やB.LEAGUEはGの人員に厚みを持たせる動き方をするべきでしょう(すでにそういった動きはしていますが)。
余談ですが、3Pシュートがあまりにも入らなくて、日本代表は3Pシュートが下手という指摘が多かったように見えましたが、これは解像度の低い指摘だと思っていて、オープンな3Pシュートの機会を作れていないという可能性も検討するべきです(公開されているスタッツにはその情報がないので検証は難しいですが)*3。
オフェンスのまとめとしては下記の通りです
ちなみに、これは小ネタですが、日本はFGAに占める被ブロック数の割合でTOPになっています。これについては、ブロックをかわす個人スキルの不足と、チームで楽なシュートを作りきれなかったの大きく2つの要因が混ざっていそうです。
ディフェンスの課題
こちらもオフェンス同様、そもそも日本のディフェンスは悪かったのかを確認する必要があります。
下記の図は日本と試合をした国の、対日本戦と対他国戦のeFG%、3FG%、2FG%を比較したものです。
これを見ると、eFG%はチェコを除いていずれも、日本戦で高くなっていること(≒日本戦のほうがシュートを決める傾向)が分かります。
ただ、その内訳を見ると、3FG%に関しては、vs日本とvs他国でに大きな違いはないことが確認できます(ニュージーランド除く)*4。
逆に2FG%に関してはvs日本で結果が良くなっていることが読み取れます(チェコ除く)。
2FG%を深堀りするために、下記の図を作成しました。
こちらは、シュートの種類ごとの得点構成比をvs日本とvs他国で比較する棒グラフです。
読み方は、例えば、モンテネグロはvs日本の時に総得点の50%弱をペイントエリア内のシュートで占めているといった具合です。
これを見ると、ニュージーランドを除いて、vs日本の時にペイントエリア内のシュートが占める割合が高くなっていることが分かります(ニュージーランドも、3P%が高い影響を除けば、ペイントエリア内シュートの割合が低くないように感じます。)。
本来はシュートの種類別の成功率を見るべき*5なので、あくまで推測になりますが、ワールドカップではペイントエリア内で得点を重ねられたことがディフェンスの課題と言えるかもしれません。
もちろんチームのディフェンス戦術によって対応すべきポイントは変わるので、3Pを打たれるよりインサイドで得点されたほうがマシという判断はあると思います。
(何かの記事で、ディフェンスではインサイドを固める方針だったと読んだ記憶があり、それに基づくとはっきりとした課題と言えるかもしれません。この記事をご存じの方がいらしたらURL等教えていただけるとありがたいです)。
そして、ペイントエリア内で得点を重ねられたことが課題だと仮定して、大事なのはペイントエリア内で具体的にどのような形で得点されたのかです。
例えば、オフェンスリバウンドをリングの近くで取られ、そのままシュートされた(コルクマズのプットバックは印象に残ってます)、Gのドライブからの合わせで決められた、ポストプレイで決められたなどが考えられます。
これらのパターンを検討して、より具体的な課題に落とし込む必要があります(スタッツからは読み解けないので、JBAなどにテクニカルレポートとして出してほしいですね。ペイントエリア内の失点が課題だったのかも含めて)。
次に、DREBについても確認します。
上図は、DREB%とOREB%を国別にプロットした図です。
横軸がDREB%ですが、日本はこの数値でかなり低い位置につけています。
OREB%に関しては、チーム戦術によって大小あるとは思いますが、DREB%は確実に改善するべき問題でしょう。
ただ、これについても細かく理由をチェックするべきで、単純にフィジカルで負けているからという理由に帰着させるべきではありません。
例えば、日本と対戦国の平均身長は下記の通りです。
少なくともここからはフィジカルに関してネガティブな要素は見受けられません。
なのでフィジカルにしても、相手の飛び抜けたビッグマンを抑えられなかったのか、スクリーンアウトをかいくぐる体の使い方をしていたのかなどをチェックする必要がありますし、相手のオフェンスが巧みだった影響でディフェンスが振り回され、スクリーンアウトがままならなかったといった要因も確認する必要があるでしょう。
ディフェンスのまとめとしては下記の通りです
スローダウンについて
ここではテンポを落とすバスケ(≒スローダウン)について検討します
(記事再掲)
スローダウンを志向した理由について、ファジーカス選手がいることでアップテンポな試合は難しいというのもあると思いますが、それ以外にも弱いチームが強いチームに勝つための戦術の1つだからという点も挙げられます。
詳しいことはアルバルクのACコーチである森高大氏の下記記事や私の投稿をご覧いただければと思いますが、端的に言うと、森氏はスローダウンとDFの精度向上で相手の試投数とFG%を減らすことで相手の得点を減らせる、私の投稿ではスローダウンで相手の試投数を減らすことで相手のFG%が低い状態で試合を終わらせる(例えば、FG%が40%の選手が10本中3本以下しか決まらない確率は、1000本中300本以下しか決まらない確率より高いよね)といった内容になっています。
そして、ここで大事なのは、自チームは必ずしもスローダウンする必要はないということです。厳密に言うと、相手のFG%や得点期待値より高い水準でシュートが決められそうなら積極的に打つべきで、ファストブレイク含むアーリーオフェンスはその典型的なシチュエーションです。
だから、アーリーオフェンスのチャンスがあったら積極的にトライするべきで、その時に逆速攻をもらわないようにコントロールできればオフェンス面では問題はないでしょう。
そして、自チームはスローダウンする必要はないとしましたが、その代わりに相手のオフェンスは徹底的に時間をかけさせるべきなのですが、今回のワールドカップではそれが達成されていたのでしょうか?
本来なら、相手がFGを打つまでにかかった時間の平均や分布、あるいはポゼッション数で検討するべきですが、そもそもデータがなかったり抽出しづらい形だったりするので、今回は相手のFGA及びファストブレイクの得点で比較してみます。
下記は、FGA及びファストブレイクによる得点をvs日本とvs他国で比較した表です。
厳密に相手のオフェンスのペースを示す数値ではありませんが、これを見ると、予選リーグの3チーム、特にチェコとアメリカにはvs他国より2倍以上ファストブレイクで点を取られており、FGAも増えている傾向にあります。これは相手にアップテンポで攻められている可能性を示唆しています。
これが妥当だと仮定したら、ディフェンス時にフロントコートからマッチアップしてボール運びに時間をかけさせる、ディフェンスを崩されても最後まで粘ってシュートを打たれるまでの時間を稼ぐ、相手がアーリーな展開に持ち込んだらファウルで止める*6などの手段をとれると良かったのかなと思います。今回はそうした取組みがあまり見られなかったのが残念なポイントと言えそうです。
スローダウンについてまとめると下記の通りです。
今後の方向性について
長期的な目線では、Gの人材を厚くすることと、普段のプレイの水準を高めて国際レベルとのギャップを減らし、そのギャップによる疲労や焦りをなくすことが大事になってくるでしょう。
来年に迫った2020年東京オリンピックに向けて、
オフェンス面ではアーリーオフェンスは可能な限り維持しつつ、チームとして連携してオフェンスを構築しないとジリ貧になると思われます。個人的には八村選手とファジーカス選手が同時に出場する時間帯を減らしたほうが、それぞれがそれぞれの出場時間でスコアラーの役割をはっきりと担うことになり、オフェンスがスムーズに廻るんじゃないかと思います。
ディフェンス面では、ペイントエリア内で決められがちになっている要因とその解決策を検討しつつ、相手のオフェンスは目一杯時間を使わせる手法を取り入れるべきでしょう。
明確な打開策が思い浮かばす、歯がゆい限りですが、本投稿が代表チームに新たな視点を提供することで代表のレベルアップにつながれば幸いです。
本文は以上です。
ご意見や異議など色々あると思いますが、もしありましたら是非ご連絡してほしいです。ディスカッションしたいです。
*1
韓国が70.0%で上位に食い込んでいるのは興味深いですね。
*2
190cm以上はあくまで例えです。
*3
もちろん、世界レベルのDFに合わせた3Pシュートのスキル向上も必要です。
(安藤周人選手も下記記事でそのことに言及しています。)
*4
個人的には3Pをボコスカ決められていた印象があるので意外でした。
*5
この数字は公式サイトでのスタッツには記載されていないので、数値は取れません。JBAのテクニカルレポートに期待です。
*6
日本のファウル数は参加国の中で一番少ないです。
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