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ダンクしたい人生だった

「もし人生で一瞬だけやり直したい時間に戻れるなら?」

この質問の答えは決まっている。

あのときのリバウンドを跳ぶ


高2くらいで身長は178で止まった。正確に言えば177.8だが。

ジャンプすればリングの上から手のひらが親指の付け根くらいまでは出た。片手で持てるバレーボールでもまだリングにぶつけるくらいで、一度少し下に曲がったリングでできたが二度目以降は失敗した。

この条件でダンクができるには、

リングの上で止まるようなボールを押し込む」くらいしかない。

(それをダンクと呼べるかどうかはこの際置いておく)

練習でも試合中でも、味方のランニングシュートを追いかけて跳ぶようにしていた。それ自体がジャンプ力をつける練習みたいなものだったし、リングや板をバーンとするのは威嚇もあった(あんまやると怒られるけど)。

それでもそんな都合いい場面に出会うことはなかった。


高三の最後の大会、一回戦で相手の190センチのセンターをブロックした。きわどいプレーを続けざるを得ないので最後はファウルアウトしたが試合には勝てた。たぶん人生で一番高く跳べた時だった。

次の試合は同格の公立校、サイズもうちよりは大きいがそれほど差はない。勝てる相手だ。これで勝てば次からは敗者復活があるから引退は伸びる。

ところがこの試合、総得点の半分を取るうちのエースが絶不調でシュートがことごとく外れた。それでも前半はリードで折り返せてたのだが後半早々逆転された。

僕は前の試合でファウルアウトしたのと、チームで一番リバウンドを取れる僕が下がるとかなり不利になるので少し慎重になってたのかもしれない。

ターンオーバーから自チームの速攻を追ったが、「さすがにフリーだしこりゃ入るだろ」と跳ばずにディフェンスに備えたそのとき

ボールがリングのまわりをゆっくりと一周し、落ちた。


その試合に負けて僕らは引退した。チームのみんなは泣いていた。

僕は全く泣く気にならなかった。試合後もリングに向かって跳んでいた。

なんで跳ばなかった?


もしあのとき跳んでたらあの試合に勝てたか?それは分からない。流れくらいは変わってたかもしれないが。かといって僕もその先があるレベルの選手じゃない。少々勝ち上がったところで何か人生が変わったりはしてない。

それでも人生で唯一の、それも公式戦でダンクができるチャンスだった。


もしできたらたぶん一生自慢してたと思う。

酔っぱらうたびに、おじいちゃんになっても

「ワシャ若いころダンクしたことがあるんじゃよ」


絵を描くのが好きだったので大学はデザイン方面に進み、空いた時間は漫画を描くほうにあてた。バスケはサークル程度になりジャンプ力は落ちた。

昔は1で飛んで2で止まり3で地面に落ちる感覚だったが、途中から1で飛んで2で落ちるようになり、今は1で落ちてる。リングに触れもしない。


チャンスがいつ来るかは誰にもわからない。

チャンスをものにできるのは、チャンスがこないときもずっと準備をしてるヤツだけだ。

どうせ来ない、どうせ無駄だと少しでも気を緩めたその時に逃すのだ。


それからはもう「どうせ無駄」とか考えるのをやめた。

無駄かどうかはやってみないとわからない。

そしてやったことは絶対無駄ではない。


それから僕は一瞬のチャンスで全力を出し連載を獲得できた。あのときから漫画家の道が開けた。

あの経験がなかったら逃していたかもしれない。


それでもやってみたかったなあ、ダンク…


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