Moreyballの概要とスポーツ分析における差別化

こんにちは

先日、下記のような投稿をしまして、本記事はその続きとなります。

主に、現在のNBAを語る上で欠かしてはいけない、3Pとゴール下のシュートを多く打つ戦術についての価値や、分析による他チームとの差別化の可能性などについて記載します。

普段のスタッツ集計などとは趣向が異なりますが、ぜひお読みいただければと思います。

Moreyballとは

NBAのHouston Rockets(以下HOU)というチームが、データ分析を元に戦術を策定し、それによってチームの戦績が向上しました。

この経緯がまるで"Moneyball"のようだという見方があり、このアイデアを推進した人物であるDaryl Moreyの名前をもじって"Moreyball"と呼ばれるようになっています。

具体的な戦術ですが、方針としては得点期待値の高いシュートを打つ割合を増やすというもので、その結果、得点期待値の低いとされる中距離のシュートを減らし、その代わりにゴール近くのシュートと3Pシュートを多く打つようになりました。

歴史的な推移と現状

※本節の数字やグラフなどはすべて下記記事から拝借しています

MoreyがHOUのGMになったのは2007年ですが、彼のアイデアがはっきりと形になったのは2012~2013シーズンからとのことです。

では実際にどのように表れていたのか。
具体的な数値では、2012~2013シーズンはシュートの73.6%を制限区域内または3Pラインから打っていた*1そうです。リーグの平均は57.1%で、2番目に多かったDenver Nuggetsですら67.4%です。下記のグラフの左側を見るとその差が分かるでしょう。

画像1

その後、数シーズンは数値に大きな変動はありませんでしたが、HCがMike D’Antoniに変わると、さらに構成比が増え、就任初年度は81.8%になりました。

しかし、ここで見逃せないのが、他チームの動向です。
リーグ全体を見ても、シーズンを追うごとにリーグ全体の構成比の平均が加速度的に伸びており、更に2018~19シーズンはMilwaukee Bucksが構成比でHOUを上回りました。
Milwaukee Bucks以外のチームでも、Mike D’Antoni就任以前のHOUの構成比と同等もしくは上回るチームもあります。

これらは、HOUの戦術を他チームが追随した結果、HOUの優位性が薄れている可能性を示唆しています。
これは、ツイートで言及した記事にある、セイバーメトリクスを活用する"MoneyBall"チームが増えたため、セイバーメトリクスの比較優位性がなくなっているのではないか、という指摘と相似形にあると考えられます。

自分たちが見出した戦術で成績が向上したが、今度はその戦術のせいで差を詰められているかもしれないというのは皮肉です。

スポーツのデータ分析における差別化要因とは

ここまではHOUを題材にしてきましたが、ここでは一歩引いて、スポーツのデータ分析において、他チームとどのように差別化を図るのかについて見ていきたいと思います。

個人的な考えとしては、試合の戦術をデータ分析で決めるだけでは差別化は難しいと思っています*2。
理由としては、基本的にプロスポーツでは映像やスタッツが公開されているため、チームの戦術の変化や、その意図を把握しやすくなっているからです*3。
特にデータ分析で試合の戦術を決めた場合は、元になっているデータもおそらく公開されているはずなので(NBAのシュートエリアの変遷なんかは顕著ですね)、より容易にキャッチアップできることでしょう。

試合の戦術決定においてデータ分析で差別化を図るなら、データ分析を効率的に行う仕組みを作り、分析から戦術反映までのサイクルを早めるのが対応策と考えられます。他のチームが追随するより早く新しい戦術を展開するという形です。
ただ、選手やコーチが対応できるのかという点と、他チームもそういった仕組みづくりをしたら結局泥沼になりえるという点を踏まえると、よい対応策とは言えません。

なので、データ分析で差別化を図るとしたら、公開性が低い部分でデータ分析を活用する形になると考えています。
具体的には、選手の獲得戦略や評価方法の検討、選手のコンディション管理などですね。
これらは、データ分析の結果が分かりやすい形で表に出ることはないので、他チームの模倣を行うのは難しいと考えられます。

もちろん、データ分析で試合の戦術を決定するというアプローチはなくならないと思いますが、差別化を図るという点では、表に出ない形のデータ分析を行うしかないのかなと思います。

個人的には、データ分析で常識を覆すような戦術を見つけるという流れは続いてほしいなと思います。やっぱり見ていて面白いですし。

本文は以上です。ご指摘やご意見等ありましたらコメントいただければと思います。

*1
ちなみに、この指標は一部界隈で“Moreyball Rate”と呼ばれているそうです。

*2
もちろん、取れているデータが少ない、分析する人が足りないといった要因で、データ分析を行って試合戦術を決めることに価値が生まれることはありえますが、データや人手が揃えば価値は減少するでしょう。

*3
ただ、セイバーメトリクスやMoreyballが広まった経緯はイマイチ分からないので、個人的に知りたいですね。

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