【掌編】『妖精を探しに』
雨粒が葉を叩く音が周りを包んだ。静寂が騒ぎ出す。
木々を伝って雨粒よりも大きくなった雫が頭上に背中に落ちてきて、ぼたぼたとシャツに染みを作る。
冷たい。
森を歩く少年は足取りを緩めず、道なき道を行く。
生い茂った草が足元を隠し、靴の裏に落ちた枝の硬さを感じる。
妖精は雨の日でもいるのだろうか。どこかに隠れたりしないだろうか。
そんなことを考えながら森の中を進んでいく。
暖かい風が木立の間を戦いでいく。
妖精と会うには、声を出してはいけない。耳の利く彼らはすぐに気付いて姿を消してしまうから。
歌うのが好きな少年は歌いたい気持ちをぐっと我慢した。しかし、雨の音に包まれた今は、声は通らないんじゃないか、そう思って、小さく口ずさんだ。
小さい頃によく聞かされた歌、その好きな一節を、自分の中にだけ響くように。
不意に耳元で、音が聞こえた気がした。
周囲に満ちる雨音とは違う、もっと異質な音。
顔を上げると、ぼんやりと輝く光が目の端に映った。
小さな羽。それが羽ばたく音が耳を打つ。
振り向くと目があった。
妖精が少年を見つめていた。
好奇心を湛えた瞳が、彼を捉えていた。
歌に惹かれて現れたのか。少年は直感的にそう思った。
もう一度、好きだった一節を口ずさむ。
小さな体が羽を震わせてくるりと縦に円を描いた。
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