20枚シナリオ④化粧「メイクアップ?」

人 物
宮村夏梨(20、19)大学生
宮村樹(20)夏梨の弟
木崎瑛美(31)写真スタジオ・スタッフ
カメラマン(40)
女性行員

〇百貨店8階・スタジオ『クレア』・入口
   フロアの片隅に位置する写真スタジオ。
   壁にはサンプル写真や料金表と並んで、「就活生向けキャンペーン」、「変身写真・新メニュー登場」など、ポスターが貼ってある。
 
〇同・メイクスペース
   鏡の前に、リクルートスーツ姿の宮村夏梨(20)が座り、木崎瑛美(31)がメイクをほどこしている。
   夏梨の片方のパンプスは脱げかけて、つま先に引っかかっている。踵には絆創膏が貼られている。
   
〇同・撮影ルーム
   スクリーンの前に置かれた丸椅子に座る夏梨。
   カメラマン(40)、カメラの後ろでレンズをのぞき込み、身振りを交えながら、
カメラマン「目線をこちらに。……もっと口角あげて」
   夏梨、ぎこちなく笑う。
 
〇同・メイクスペース
   撮影ルームから出てくる夏梨。
向こうから『マイ・フェア・レディ』風の白いドレスと帽子に身を包んだ女性客が歩いて来て、すれ違う。
足を止め、撮影ルームに入っていく女性の後ろ姿を見つめる夏梨。
瑛美「宮村様?」
   夏梨、慌てて眼を逸らすが、壁に貼られた「変身写真」のポスターが目に入ってくる。
瑛美「(笑って)『変身写真』、ご興味ありますか?」
   夏梨、ポスターから目が離せない。
瑛美「けっこう人気なんですよ?良かったらパンフレット」
夏梨「(遮って)いえ……」
   と、振り切るように歩き出す。
夏梨「……時間、ないし」
 
〇列車(走行中)(夕方)
 
〇列車・内部(夕方)
   座席はほぼ埋まっている。
   夏梨、吊革につかまりながら、スマホを操作している。
スマホの画面には、「これからの活躍をお祈りしています」とメールの文面が表示されている。
夏梨、ため息をついて、窓に映った自分の顔を見る。涙をぬぐいながら、
夏梨「不細工……」
 
〇宮村家・表(夜)
俯きながら、ドアを開け入る夏梨。
数秒して、夏梨の悲鳴が聞こえる。
 
〇宮村家・1F・リビングルーム(夜)
   夏梨、入口で腰を抜かしている。
   本や道具が広げられたテーブルで、ボールドキャップを被り、顔や腕に傷や痣のメイクをほどこした宮村樹(20)が、手鏡をのぞき込みながら、刷毛で血糊を塗っている。
樹「(気づいて)あれ?帰ってたんだ。早かったね~」
夏梨「早かったね、じゃないよ。とっくに夜だってば」
   いつき、小さく首を傾げる。
夏梨「(ため息)アンタ、そんな事より何やってんのよ」
樹「(笑って)何って、メイクの練習。エイミーがこの前言ってたんだけどさ、こういうのって、どういう状況でできたのか、細かい設定が大事なんだって。たとえば目の下のこれは、真横から椅子をぶつけられて」
夏梨「やめて!聞くだけで痛い!」
樹「切り傷とかも、刃物の種類とか、深さとかで」
  夏梨、耳をふさぎながら、
夏梨「だから、やめてって、言ってるでしょう!?」
   樹、頬を膨らませる。
夏梨「……アンタ、とりあえずお風呂洗ってきて。ついでに、そのメイクも落してらっしゃい」
樹「え~?」
夏梨「え~、じゃない!」
 
〇同・2階・夏梨の部屋(夜)
  壁際のベッドの上に、脱ぎ捨てられたスーツとストッキング。
  メイクはそのままに、部屋着に着替えた夏梨、机に向かってエントリーシートを書いている。
   脇には『フォト・スタジオ クレア』と名前が入った封筒と、『志望動機の書き方』の本が開いた状態で伏せられている。
夏梨「『……昨年、貴行でNISAの』」
   ペンを止める夏梨、頬杖をつき、物思いに耽る。


〇(回想)銀行・1階・カウンター
   机を挟んで向かい合う 夏梨(19)
と女性行員。
やや緊張気味の夏梨に対し、パンフレットを広げながら、説明する女性行員。
夏梨は相槌を打ちながら、女性行員のよく手入れされた爪を見つめる。
 
〇元の宮村家・2階・夏梨の部屋(夜)
   爪を噛む夏梨。
夏梨「……駄目だ、全然」
   頭を振って、エントリーシートに大きくバツ印を描くと、そのまま手の中で丸め、肩越しに後ろに放り投げる。
   封筒の中から証明写真を取り出す。
   隙のないメイクをほどこされ、ぎこちない笑顔を浮かべている自分の写真を見て、
夏梨「(ため息)こんなもの……」
   指の中で写真をへし曲げ、机の上に放る。
   椅子から立ち上がり、扉の方に向かおうとして、驚く。
   入口では、上半身裸でタオルを肩につっかけた樹が、エントリーシートを広げて見ている。
夏梨「ちょっと……!」
樹「夏梨ちゃん、銀行なんて受けるの?」
夏梨「……悪い?」
樹「ううん……でも、出版社行きたいって言ってなかったっけ?」
   夏梨、苦い顔をする。
樹「それに、銀行って、夏梨ちゃんっぽくなくない?」
夏梨「……アンタに何がわかるのよ」
   樹、不思議そうに眼をしばたかせる。
   夏梨、その手からエントリーシートを奪い取り、
夏梨「で、何の用?」
   樹、ニッコリ笑って
樹「俺のメイクモデルやらない?」
夏梨「は?」
樹「自分にメイクするのも良いけどさ、たまにはちょっと違う事もしてみたいかなって」
夏梨「(面倒くさそうに)へえ……」
樹「ねえ、やらない?夏梨ちゃん、色々変身できるよ?」
夏梨「へんしん……」
 
○(回想)スタジオ『クレア』・メイクスペース
   白いドレスの女性客とすれ違う夏梨、足を止めてその後姿を見つめる。
 
○元の宮村家・2階・夏梨の部屋(夜)
   樹、夏梨の手を取って、
樹「夏梨ちゃんなら色々できそうだよね。ギリシャ神話のメドゥーサとか」
夏梨「メドゥーサ……」
樹「もとは美人だったんだけど、神様のバチがあたって、髪の毛が全部蛇になっちゃって」
   夏梨、顔をひきつらせる。
樹「折角だからさ、思いっきりイメチェンしようよ!俺が色々考えてあげるから。最初はどんなのが良いかな?」
   夏梨、無表情で樹を見つめる。
樹「最近、夏梨ちゃん、ずーっと眉間に皺寄せてるじゃん。今だってほら、おでこの真ん中に」
   と、夏梨の顔に手を伸ばす。
   夏梨、手首をつかんで止める。
樹「夏梨ちゃん?」
   夏梨、樹を平手打ちする。
   頬を抑える樹を押し退けて、夏梨、大股に部屋を出ていく。
 
〇宮村家・1階・洗面所(夜)
   乱暴に蛇口をひねる夏梨。勢いよく流れる水を見つめる。
   夏梨、すくった水を顔にたたきつけるようにして、化粧を落としていく。
夏梨「(憮然と)……わかってるっつの」
   髪や顎から雫をしたたらせながら、顔を上げ、鏡を見る。
夏梨「似合ってないことなんて、……わかっ
てる。銀行も、あんなメイクも、あたしの
柄じゃない!」
  夏梨、顔を覆って泣き崩れる。


<先生やクラスのメンバーからのコメントまとめ>
・課題である「写真」の存在が弱い←反省
(「化粧」がテーマなら、これでも良いが)
全体的に詰め込み過ぎ。
・夏梨がどんな外見の女性なのか(太っているのか、美人なのか、眼鏡をかけているのか、など)が見えにくい
・樹が良いキャラ(「こんな弟が欲しい」とも)
 夏梨との対比が面白い。
・就活の描写がリアル
1時間ものにした方が良い
 →夏梨に焦点を当て、コンプレックスの理由など、掘り下げるべき
  「メイクモデル」のことで「嫌だ~」と葛藤させ、終盤で、思い切って弟のメイクの世界に飛びこみ、「大変身」を遂げ、自分の殻を破るチャンスとする。

 確かに、私ももっと広げられそうな話だなあ、と実のところ思っていた。
(考えた展開も、ほぼ上に書いた通り)

「詰め込み過ぎ」は、前からよく言われる私自身の問題。
でも、こうして改めて気づく機会とできたのは幸いと言えよう。
(記事原稿でも、「詰め込みグセ」を意識した上で見直すことができた)
現在は5番目の「写真」を執筆中で、ようやく半分を過ぎたところ。本番はここから。すでにどこに行きたいかは見えている。

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