高遠みたいな敵役をやりたい、と言った話

「ドラマに出るとしたら、どんな役を演じたい?」
 昔、講談社のエントリーシートの二枚目か三枚目に、こんな設問があった。
 主人公、主人公の友人、恋人役、お笑い要因の三枚目、隣で競いあうライバル、そして敵役・・・
 幅広い選択肢を見渡すことなくとも、私の答えはすぐに決まった。
敵役
それも、
『金田一少年の事件簿』の“地獄の傀儡師”高遠遥一のように、主人公とは決して相容れることのない哲学や美学を持ち、揺らがない敵役

 ・・・今思い返すと、恥ずかしい。
 いくら相手が相手だから、と言って、怖いもの知らずと言うか、何と言おうか。
 だが、あの頃、出版社に入りたくてエントリーシートや、筆記対策として三題噺の練習をやっていた頃は、尻込みしている暇はなかった。
 質問の意図など、考えることもなかったが、ふと思うのは、エントリーシートの設問は、自由回答式の心理テストとしての面もあるのではないか、ということだ。
 通常、雑誌やら、Webサイトで見かける心理テストでは、選択肢が3~4用意され、その中から直感で選ぶ。時間をかけすぎるとぶれて、自分がわからなくなる。
 対して、エントリーシートの方は、自分で一から答えを捻りだし、できるだけ適切に、簡潔に表現する。
 だらだらとした文にならないよう、まず簡潔に結論を書いてから、後ろに説明をつける。
 この時に、相手(会社)を意識した内容を盛り込むのも、工夫の一つ。
 だとしても、「高遠遥一みたいな敵役」がやりたいなど・・・読んだ人はどう思っただろう。

 高遠遥一・・・『金田一少年の事件簿』シリーズに登場する犯罪コーディネーターで、主人公の宿敵にあたる。
 「魔術列車殺人事件」に初登場し、事件の間は気弱な振る舞いを見せていたが、犯行を暴かれると、本性を現す。
 アニメを先に見ていたから、これまでの犯人たちとは異なる振る舞い、そして、声や表情の変化ぶりが、強く印象に残った。
 エントリーシートの設問を見た時に、彼のイメージが浮かんだのも、それが原因かもしれない。
 だが、「宿敵」を演じたい、と言うのは大胆すぎたかもしれない。
 つまりは、話の中心たる主人公と同等の存在感を持つ役がやりたい、ということ。でも、味方サイドではなく、憎まれる側の役を選ぶあたりが、ひねくれている。
 あるいは、「ぶれない軸を持ったキャラクター」に憧れ、自分もできるならそうありたい、と理想を抱いている、とも言えようか。(その「軸」の内容は、ともかくとして・・・)
 では、私にとって、その「軸」とは何なのだろう。
 その答えは、まだはっきりと書けないでいる。

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