世の中にたえて桜のなかりせば

「満開の桜を見て、『綺麗』と思えない春は初めてだ」
 今朝、出勤の際に桜を見てこう思った。
 空が曇っていたせいもあるかもしれない。
 だが、ここ最近の空気からして、ささくれだっている。
 その中で、満開の桜は、晴れやかさ、明るさよりも、澱み、濁って見える。
 よくよく目をこらせば、緑の葉も花の間から覗いている。
 花弁の白に近い薄紅と、緑の葉のコントラストは、前々から好きな取り合わせなのに、今は何も感じない。
 こんな春が今まであっただろうか。

 だが、世の中にたえて桜のなかりせば、・・・もしも桜がなかったら、味気ないどころか、ますます気が滅入っていたのではないか。
 
 黒田官兵衛も、地下牢に入れられていた時期、窓から見える藤の花から生きる気力を得ていた、と先日のテレビ番組で見た。
 今の状況も、少し似ている気がする。
 この曇り空の下、ささくれた空気の中でもちゃんと咲いてくれている桜。
 華やかさはあまり感じられなくても、そこにあるだけで良いのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?