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わたしが

車に乗せられて
その事務所に
はじめて連れて行かれたのは
わたしが15歳の秋

彼らの下で働き始めて
半年以上たってからだったと思う

一目見ただけでその筋の人間だとわかる
するどい目つきに
その風貌

親分は無口で寡黙だけど
優しい目で笑って、時々話しかけてくれた

ほんの少し腕まくりをすると
見事な刺青がみえる
姐さんは
とても美人で
やっぱり無口でとても優しいけど
怒ると
空気がピンと張りつめるのを感じるほど
静かに怖い

いつも陽気でおもしろい
おしゃべりなGさんは
わたしの同級生のことや
いろんなことを知ってる情報屋で
でもなんでも知ってたから
ちょっと窮屈に感じていた

わたしが直接一番話す機会が多かったのが
兄貴のYさん
やはりするどい目つきで
とっつきにくそうな空気をかもし出している

わたしと一緒に働いてた
たしか7つくらい年上だったヨウコさんは
Yさんのことが好きで

つきあってるのか
遊ばれてるのか

他のみんなには内緒で
ふたりであったりしているみたいだった

ほかにもバイクで走るのが大好きなFさんや
黒服をしてた超男前のKさん
たよりない新入りの要領悪そうなSさんとか
学校では絶対出会えない人に囲まれて
毎晩働いていた

店の裏の小さな事務所ではなく
少し離れたところにある事務所には
他のバイトの子がいるのは見たことがなかった
わたしはもちろん一番若かったし、
かわいがられていた

次の春には
日本を出て行くと決めていた私は
学校が終わるとすぐ仕事に行って
朝まで彼らの下で働いていた
(それまでは2年ほど新聞配達をしていた)

田舎なのと
随分前の話ということもあって
普通バイトといえば自給550円とか600円くらいだった当時
他のバイトに比べれば
給料ははるかによかった
(やばい業種ではない)

学校ではバイトが禁止されていて
1年生なのに生徒会役員をしていた私は
誰かに見られたら困ると相談すると
人目につかない仕事をくれた


Yさんは
いろんなことを教えてくれた
Yさんは
何を考えているか
よくわからない人だったけど
なんだか
頼りになる兄貴だったし
親分やみんなからも信頼されているみたいだった

ある日
いつものように仕事場に行くと
一瞬で気づくほどの
張りつめた空気。

何があったんですか、なんて
聞けないほどの
殺気立った空気。


Yさんが消えたと知ったのは
すぐあと
黒服のKさんが
こっそり教えてくれたと思う

私とふたりきりになると
ヨウコさんは泣きくずれた

ヨウコさんは
Yさんから何も告げられていなかった
捨てられたと
ヨウコさんは言って、泣きながら笑った

どこまでも
永遠
逃げ延びればいいと
ヨウコさんはつぶやいた


Yさんは
たくさんのお金を持ち逃げして
消えた


なにがあったんだろう、と
勝手な思いをめぐらせることしかできなかった
15歳の冬

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